第八章 約束したのだから……
「うっ……」
またこれか。
俺はどうやらこの世界に縁があるようだな。
いや、呼び――喚び出されたと言った方がいいのか。
何の為?
俺が何かしたのか?
それとも――俺に何かをしてもらうために?
『困っている人を助けたいんです』
ステラさん?
「っ! そうだ! ステラさんはどこへ⁉」
俺は今すべきことを思いだし、立ち上がる。
彼女にとっては恐らく初めての体験となる異世界への放流。かくいう俺も二回目と言う初心者中の初心者ではあるが、一度体験している。
そして、ここは俺のホームベー――、
「どこだよここ⁉」
思わず叫んでしまった。
今回は森だった。
広大な草原でも困るのだけど、森だと更に困る。それもここまで鬱蒼としているとここがどこなのか確認するのにある程度移動する必要性がある。普通の山や森でも抜けるのに困るし、ここが富士の樹海だったら何日もかかる。そもそも、ここが日本じゃなかったら――アマゾンだったら。
「聞け。車の音が聞こえれば――」
車のエンジン音は予想以上に響く。未だにディーゼル車が走っていることも多々ある。あの排気音なら試したことは無いが富士の樹海でも聞こえるかもしれない。
少しずつ歩きながら耳を澄ます。
ウルフは流石にいないだろう。ナマケモノがかっさらた獲物でお食事中ではないか。ゴキブリを踏んづけたら分裂しないか足元に気を付ける必要性は無いだろう。
それでも、この世界には狼や熊、猪と言った人間には敵わない物が存在する。
土がぬかるんでいない所を見る限り、最近雨が降った傾向は無いようだ。
木は――何種だこれ? 松、杉ではなさそうだと言うのは葉の形で分かるけど、それ以外の木の種類はよく分かんないな。田舎出身だけど、そこら辺にありそうな木だとしか答えられない。
歩き、歩き。
どこまで行っても木、木、木。
鳥の声すら聞こえない。この静けさが不安を煽る。
そんな静けさを打ち破る音が耳に届く。
「うっ……うっ……う……」
鳴き声?
いや、泣き声?
女の子が、泣いている?
こんな所に何で? 迷子か?
疑問は残るが、俺は声のする方へと歩を進める。
大切な情報源と言うよりも、助けなくちゃと言う思いが強かった。
木々の間を分け入り、どんどん進んでいく。
次第に木々の感覚が広くなっていく。それに伴い葉の容量が少なくなり、陽の光が射る隙間が増え、明かりが森を鮮明に照らしていく。
その光の中心。まるでスポットライトのような木漏れ日が一人の少女を照らしていた。
下を向いた少女の顔を長い銀髪がオーラのように隠す。森の中にいる白い絹のワンピを着た少女。『木漏れ日の女神』と名付けてもいいような画になる光景だった。
しかし、何でこんな所に一人で? 迷子になったのか?
女の子が一人でこんな所に来ることは無いだろうから、ここはキャンプ場、或いは森を象徴とした公園か?
相手は子供だけど、ここが何処か分かる貴重な情報源。
そのような疚しい心を持つ前に俺は動いていた。助けになりたいと言う一心だった。
「どうしたんだい? 迷子になったのかな?」
俺は少女の頭にそっと手を置いた。
柔らかなその髪からは花の甘い匂い――ではなく、汗の臭いがした。
「うっえっ……」
少女が俺の声に呼応して顔上げた時、その答え合わせは出来た。
少女の白い肌は赤く火照っていた。
涙のせいで目は象徴的な緑色の眼以外赤くなっていた。
少女が何か良からぬことに巻き込まれて奔走しているのはすぐに分かった。
けど、俺はその時にすぐさま少女を慰めることが出来なかった。
その少女が、余りにも、余りにも似ていて。
その少女に、どうしても、どうしても面影を感じて。
「えっと俺は恵太。望月恵太って言うんだけど君は?」
「ぐすっ。スティア――」
涙ぐんでだせいでしっかりと名乗れなかった少女は涙を拭う。
「私――ステラ。ステラ・イシリオル……」
「ステラちゃんって言うんだ――こんな所でどうしたのかな?」
俺は平静を装った! 明らかに炎上動画映えを狙っている愚かな高校生らしき奴らが無茶苦茶な量の化粧品を籠に取り込んで『あっ。これおかんの頼んでたやつじゃなかったから全部戻して。それと、からあげちゃん一個下さい』と言う悪行を全て笑顔で受け止めてからあげちゃんを売った時の冷静さを装って受け答えた!
何で、何でステラさんが小さくなってるんだ!




