第六章-7 求める為に必要な物は……
「え? でも、そんなことをしたらケイタさんの調査が終わらない上に元の世界――」
「セイスキャンには元の世界に帰る方法の手掛かりはありませんでした」
俺が割って入らないとステラさんが自身を言葉でどんどん傷つけていくので結論をすぐさま伝える。
「ステラさんは明日すぐにセイスキャン護衛の依頼を断ってきてください。大丈夫です、色々調べた結果、食事は余りいい物になりませんが、明後日のミザへ行く定期便に最後まで乗れることが分かりましたから」
ミザは昔ここいらでは一番の大都市だったと言われる場所だ。
しかし、強力な魔物の襲来で一度滅び、谷を挟んで反対側に再度建国された。今あるミザは言ってみれば第二都市と言えるものだ。
都市として見ればセイスキャンよりかは栄えてはいない。
が、滅んだ都市、廃墟の方を調べればロストテクノロジー、この世界で言うなれば失われた禁術、禁忌が残されている可能性がある。
「でも、そうしたらセイスキャンの人たちは魔物の――」
「明日、たった一日だけど、周辺の魔物がいそうな場所を探ってみませんか? そこで魔物が見つかれば駆逐しましょう。そうすれば魔物の部位で路銀を稼ぐこともできますし、一石二鳥です」
「たった一日で都合よく見つかるでしょうか……」
「やろうと思えば協力者を集うこともできるので何とかなるでしょう」
その協力者とは勿論アレンさん(足が治っていればジェイクさん)だ。どこに宿を取っているかは分からないが、あの人たちも辞める意思を持っていたので傭兵ギルドに行けば自然と会うことができるだろう。
ただお金を貰えれば、楽でいいと思っている人もいるだろうが、ここの場合はローテーションで3K(危険、怪我する、殺される)に放り込まれる可能性があるブラックな企業だ。上司や重役が昼寝や○×三並べするような仕事場にうんざりしている人は探したり、アレンさんに聞けば自ずと集まってくれるに違いない。
「それでも、もし、もし見つからなかったり討伐できなかったら――」
「その時は、ここのことは忘れるしかありませんね。ずっと留まるにしても宿賃がいずれ払えなくなりますし、そうなると嫌でもまた北門で他の人たちが襲われる姿を何もできずに見続けることになってしまいます」
「つまり――見捨てるんですか?」
「そういうことです」
「できません!」
ステラさんが激昂する。俺がいくら語りかけても上げなかった顔を勢い良く上げる。暗い言葉ばかり呟いていた顔は怒りのせいか赤に染まっている。
「困っている人が、そこに、いるんです――私は――勇者、何です」
鋭く尖った茨のような瞳に涙が溢れ出す。
必要に己を責める彼女が見せる涙。それが自身の不甲斐なさから来た涙であることは、手に取るように分かった。
そんな彼女に与えられた猶予は一日。その間に周辺の魔物をセイスキャンに襲撃できなくなるまで駆逐できるのかと言うと、素人計算ではあるが不可能だと思われる。魔物と言えど生存本能が働けば、相手が勇者なら尻尾を巻いて逃げていくだろう。
そして天敵が去ったらまた増え、ここを、セイスキャンを襲う。
だから。彼女は残りたいと懇願する。彼女がここに残る以外に助けを求める人たちの手を取ることは出来ない。
「それは無理何だ。法王がいる限り、ステラさんは北門に固定されてしまうんですそれを実現させるには、奴らと手を切らないと」
「依頼を断る。そんなことしたら、依頼を受けてる人達が、私の穴埋めを」
「そんなのを気にする必要性はステラさんには無いんです。話を聞く限り北門の警備は間に合っています。いえ、寧ろ飽和し過ぎです!」
バブル最盛期の名前だけ役職持ちか窓際係長のような存在が大勢いる中にエリート一人を入れたところでそのエリートに渡す仕事何て誰も持ち合わせてはいない。ステラさんがそれでいいのならいいが、そんなことは絶対に起こりえない。既に職務放棄と言う名の他部署応援と言う本来なら誇られていい実績もある。
「もし、それでもここに残りたいのなら逗留するための賃金集めには俺も手を貸します。異世界へ戻る手段がここで手に入るとは端から思ってもいませんから」
「それだとケイタさんの願いがずっと叶わないままになってしまいます!」
「俺の願いはいつ叶うか、いや、一生叶うかも分からないんだ。雲のような存在を掴もうとするよりかは、近くの悩みを解決してあげてほしいんだ」
「……本当にそれでいいんですか?」
「もう一週間だ。無断欠席の言い訳なんか通用しないさ」
それよりかは大騒動だろうな。
行方不明で捜査員何百人だしても痕跡すら見つからない。いや、俺の部屋に入ってきた警察官が同じく異世界に放り出された――なんてことはないか。そうだとすれば俺よりも前の住人から異世界に飛ばされているだろうし。いきなり住人が行方不明になる事故物件なら噂になっているか家賃が激安になっていてもおかしくは無い。
俺だから異世界に呼ばれた。
理由は分からないけど何となくそんな気がする。
なら、この際きっぱり諦めをつけ、就職前最後の長期休暇だと考えてこの世界を満喫しよう。そうしなければ、悩みなんかは消えない。
「そんなに深く悩まなくていいんだから。全ての味方になることは無いんだ」
「それって見捨てるって」
「善の敵は悪で、悪の敵は善。立場が変われば善悪何て変わってしまうんだから。自分の正しいと思う、正しい相手を救うんだ」
「正しい相手――ですか?」
「そう。もう遅いし、ステラさんも疲れているだろうと思うから、明日正しい相手を教えてほしいんだ」
へインスやガウムよりかは設備が整っており、街灯や部屋内の照明も良質な物が揃っている。
それでも窓の外は誘蛾灯程度の微力な光を零す街灯以外に、地上に灯りは無い。
もう寝てしまうのが正常な判断である時間になっている。そのことを、異世界に来て正常に戻った体内バイオリズムが教えてくれている。向こうでは夜勤とか遅番で午前様過ぎることなんて普通だったのに、この世界に来てからは火の番をする時ですら眠気を感じてしまうほどに夜中の睡魔が強くなっている。
「それじゃお休み」
「はい――」
はいの後に何か言っていたような気がしたが、何を言っているのかよく聞き取れなかった。たぶんおやすみなさいと言ってくれたのだろう。
さて、俺も寝るかな。シャワーが無い分お風呂に入るのはかなり時間がかかる。この世界においてお風呂は一種の嗜好品に近い。
図書館と定期便のターミナルを歩いた程度だからそこまで汗も掻いていないし、明日ステラさんが周囲の魔物討伐を買って出てくれたなら、その夜入ることにしよう。
自身の宿泊する部屋のドアノブに手を触れた。
首筋に痛みが走ったのはその瞬間だった。
それがトリガーとなり、睡魔が訪れた。
いや、違う。これは――。




