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第六章-5 求める為に必要な物は……

「セイスキャンの護衛を依頼しているのは都市、つまりは法王自身だ。だから依頼内容も法王が決める。依頼主の内容を捻じ曲げることは、傭兵ギルドでも難しい。法王の望みなら、尚更な」

「彼女も逆らえない状態にさせられてしまったのでしょう」


 残念なことに彼女らしいと言えば彼女らしい結末になってしまったようだ。西門で彼女は皆を助けようとした。けど、基本的に良識人。いや、ただのいい人な彼女は他人の考えに流されやすいし、約束は出来る限り守るし、困っている人は(善悪を見極められず)助ける。

 だからこそ悪い人に良い様にされる。

 そうなったらどうするか。


「頼りにしろ――か」

「どうかしたか?」


 そうだ。俺は言ったんだ。異世界歴僅か一週間と言うまだ未熟なひよこでも頼ってくれと約束してしまった以上、俺はそれを実現しなくてはならない義務がある。例え無理であったとしても、『やってみたけど、出来なかった』と『出来ないからやらない』では大きな違いがある。


「ステラさんとは同じ宿を取っているので、今夜話をしようと思います」

「どうなさるんですか?」

「一番いいのは――今の仕事を辞めさせることですね。最悪の場合、セイスキャンを出ます」

「君の目的はどうなるんだ?」

「恐らく、ここにいても何も見つからないと思うんですよ」


 伝説や神話が語り継がれているのは都市の細部にまで浸透している。

 が、そのどれもが吟遊詩人が過去の法王が成し遂げた功績を針小棒大に表現した物にしか見えない。もし、俺が熱心な教徒であれば話は別だが。残念なことに俺はどこにでもいる、ありふれたただの人間でしかない。


「他の都市に行った方が俺の探している物、その近道が見つかる気がするんです」


 とは言ったけど、そんな確証はどこにも無い。異世界への扉があったり、転送装置があったり、最新のロケットがあるか等一切分からない。

 それでも。彼女のことを思えば、ここをいち早く出ることが自身の中での最善策だと導き出された。


「私としては勇者様に残ってもらいたいのですが――」

「面目ない。俺が不甲斐ないせいで」

「傭兵の方々を責めている訳ではありません! 寧ろ、国が保持している兵すら回さない法王がおかしいのですわ!」

「それが最も。てことは、法王が動かない限り何も変わらない――勇者様が市民を守ってくれることは無いってってことだ」


 ハーディさんが願うことにアレンさんも同意するがそれは叶わぬ願いだ。願う神の下に、叶えぬ元凶がいてはどうにもならない。


「この仕事っていつ終わるんですか?」

「傭兵は夕方までだ。それ以降は国の兵が見回りをする」

「ですので、北以外を見回ってくれる人は誰もいません。夜は門が閉められているだけです。外壁の手入れをするお金すら傭兵を雇うお金に使われている今、心許ない壁がいつ崩れて魔物に襲われるか、皆毎日びくびくしながら夜を過ごしております」


 どこまでも北に執着したいんだな。そこまで言うなら一度見てみたい気もするが、見ても後悔するだけのような気がした。


「長いこと居座らせてもらうのも商いの邪魔になるな。西門に戻る気は無いがな」

「お待ちになってください。また傷が」

「俺たち傭兵はそんなに軟じゃないさ。何日か休めば何とかなる。そして治った暁にはすぐさま仕事を辞めさせてもらうさ。ほら行くぞ、ジェイク!」


 アレンさんは立ち上がり、もう一人、足を怪我したジェイクさんを叩き起こしてハーディさんのお店を出て行った。


「僕も行きます。夜までまだ時間があるのでその間に他の都市へ行ける定期便が無いか探すことにします」

「わかりました。あなたたちの旅路に本当の神の加護がありますように」


 俺としては本当の神がいてくれるのなら、まずはこの国の現状をどうにかして欲しいと願うばかりだ。


「それで――」

「おっと」

「うわっ。ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ」


 俺が扉を開けようとしたと同時に扉の向こう側にいた人も扉を開けようとしたそうで、想定外の力のかかり方と目の前に人が現れたことに、互いに驚きの声をあげてしまう。

 謝罪を返してきた相手は今まで見てきた市民よりも綺麗でホツレ一つ無い綺麗なコートを身に纏い、整った髪形に上唇だけに流れるウェーブを起こす口髭と言う高貴な人物だ。そうか、傭兵を背負って怪我の治療をさせて貰っていたが、本来このお店はこんな人たちが来る嗜好品の類に分けられるお店だったんだ。

 咄嗟に、俺は下だと感じ横に避けると、お辞儀をしながらも迷うことなく俺が避けることによってできた道を歩いて行った。この迷いの無さは貴族であると思っても間違いないだろう。


 俺は店の扉を閉めた後、店内を別の窓から見直す。

 そこには笑顔で接客するハーディさんがいた。

 その後ろで黙々と作業をする従業員の若い女性があまり芳しく無い顔をしていること以外は、どこにでもあるインテリアショップのあるべき姿だった。


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