第一章-2 実力はあれど……
灰色がかった肩にかかるほどの白い髪は太陽の日に反射し、銀色に輝く。その髪の隙間からはエメラルドグリーン色をした瞳が心配そうにこちらを見ていた。日本では遭遇する可能性がほぼない髪と瞳の色。可愛らしい服装と相まってアニメや漫画と言った二次元寄りな美少女と言うに相応しい少女だ。
けど、二次元寄りと言う感想をもたらす一番の原因はそこではない。
彼女が右手に持っていた物。それが俺はもう日本にはいないと言う現実を突きつける。
剣だ。彼女の半身以上の長さはありそうなロングソードは、刃先の鋭さからして本物と判断していいだろう。
そうでなければ、後ろに転がっている狼たちの説明がつかない。
「あ、あの……」
近くまで寄ってきていた少女が不安そうに俺に声をかける。
現実離れした少女を前に呆然としていたのが少女の不安を掻き立ててしまったようだ。
「あ……ごめんなさい! ちょっと思考が追い付かなくて。あの……助けてくれたん……ですよね?」
何か言葉を返さないといけないと考えた俺はまず謝罪した。そして彼女がしてくれたことを、自分でも十分理解できるようにアウトプットする。狼に襲われそうになっていた所をマタギでは無く少女が、銃では無く剣で、追い払うでは無くなぎ倒してくれた。
「はい! 魔物に襲われそうになっていましたので――あ、報酬とかせびることはしませんから安心してください! 親切心でやっていますから」
少女が剣を持っていない左手を顔の前に持ってきて手のひらを俺に向けて左右に振る。違いますからという意思表示をしてくれているようだ。
「まも……の?」
しかし、俺はそのことよりも別のことが気になって仕方なかった。
彼女が言う俺に対する襲撃者は狼を指していると考えて間違いは無いだろう。
ただ、それらが魔物? 狼は動物じゃないのか? 哺乳類、イヌ科。確かそうだったはずだ。そもそも魔物と言う分類が化学的には存在しない。
魔物。
剣。
俺はその二つに繋がる共通点を見つける。
「えっと……お尋ねしたいんですけど、ここって日本じゃないですよね?」
「はい? ニッ……ポン?」
「地名です、ここの地名」
「ここはウラヘイルムですけど」
どこだ。ウラジオストックみたいな地名を言われたが、どこかそんな土地が世界中を探せば存在するのだろうか? 残念ながらスマホを入れていた肩から下げるバッグはどこかへ行ってしまった。そもそも電波どころか、電波の概念すらないであろうここで調べることは出来ないとは思うが。
「えっと、こいつらって俺を襲ってきたんですよね?」
「魔物が人を襲ってくるのは当然ですよ! あなたは見たところ武装もしていないみたいですし――それより、ここら辺では見ない格好をしていますよね? 旅の方ですか?」
そうか。魔物だから襲ってきたのか。この国は危ない魔物がいるんだな。そりゃこの世界への、ウラヘイルム旅行は初めてだからな。
「えっと日本から来ました」
「聞いたことが無い地名ですけど――遠い所から来たんですね」
「だいぶ遠い所から来てしまったんですが、ここから一番近い空港はどこですか?」
「はい? クウコウ?」
「無いですか?」
「聞いたことが無い地名ですね……」
「いや、地名じゃなくて施設何ですけど。それなら駅はどこですか? 新幹線に乗れば家まで、もしくは空港の近くまで行けると思うんですけど」
「? ? ?」
少女の眉が下がる。この人は何を言っているんだ、と疑っているのが安易に分かる表情だ。
そうか。
空港が分からない。新幹線が無い。そもそも日本が分からない。
つまり俺は、来てしまった、いや、落ちてしまったのか。
「ここは異世界なのか⁉」