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第四章-8 やれることをやってみたら成果は出るけど……

「そうだね。巨人の類だね。と言うことは君の世界にも」

「いませんから! 神話上、空想上の生き物です!」


 2メートルを超える人を巨人などと呼んでいたが昨今では2メートル近い人はそれこそ結構な数いる。けど、あれは2メートルとかそんなレベルでは無い!

 やっぱりこの世界はファンタジーだ。向こうの世界とはそぐわない化け物、魔物も多く存在するんだと再確認される。


「あの巨人、まぁ猿人と呼ばれる種だけど、見た目通り恐ろしい存在なんだ」

「でしょうね……」

「ナマケモノとはよく言った物だよ」

「なるほど……は?」


 今何と?


「獲物を誰かが仕留めるか、怪我を負った生き物がいると気づくや否や襲ってくるずぼらっぷり。それなのに獲物を捕らえる為には山一個潰す位の怪力を発揮する異常な猿人。怠け者とは言い得て妙な名前だとは思わないか?」

「あれのどこがナマケモノですか⁉」


 動物園でずっと木にぶら下がっているよりかは東京タワーにでもしがみついている方が絵になるナマケモノ何て聞いたことも見たことも、そもそも見たくも無かった!

 この世界はやっぱり色々ずれすぎている!


 兎にも角にもだ。


「あいつの狙いはこいつですか?」


 俺が指差す先には既に絶命したバゼラの姿があった。それにマグウィードさんは頷いて見せた。


「ここら辺にバゼラ狙いの人達がいない理由の一つさ。誰であってもこんな化け物相手になんかしたくないさ。だけど、今なら、ね」


 などと爽やかに言って見せてるが、結局は他人任せじゃないですかそれ!

 確かにそれぞれの役割をはっきりさせ合うとは言ったが、こんな不釣り合いなやり方は。


「はぁっ‼」


 と思っていたのは俺だけだったようだ。圧倒的大きさとインパクトを誇るナマケモノに勇敢に、いや余裕も見せつつ攻めるその姿。そこには自身の役割をしっかりと担う勇者の姿があった。

 まずは一番近場にある右足目掛け飛び込み一裂き。それによってバランスを崩しつつも左腕の一撃をステラさんに向けて放つ。

 それを横跳びによって避けると同時にステラさんが一つの種を撒く。バスケットボールサイズの光の玉。それは元ステラさんがいる場所に浮かび、勢いのみを武器としたナマケモノの一撃はそのまま光の玉に直撃する。

 その瞬間、眩い光が俺の視力を奪う。

 平常にあった聴力で周囲の状況を把握する。

 聞こえるのはナマケモノの呻き声。光をもろに受けたのが原因なのかもしれないが、それを上書きするかのような声が次に響いた。

 耳を塞ぎたくなる声に足元が覚束ないまま両手を動かす。

 しかし、その必要性は無かった。次の瞬間には何も聞こえなくなった。

 大声で鼓膜がいかれたのか。聴覚も失ったのかと思った頃に、視覚が戻ってきた。


 そして、答え合わせが完了する。


 俺の聴力は正常だった。

 ナマケモノは、既に声帯を失っていた。

 大柄な体はゆっくりと地に仰向けに倒れ、棚から物が落ちる位のマグニチュードを誇る地響きを起こす。

 その体に、頭部が存在しなかった。


「皆さんご無事ですか?」


 心配するステラさんの剣は、真っ赤な血に刀身全てを染まらせていて、彼女の腕にも血の跡がいくつもついていた。


「だろ?」


 マグウィードさんの言うとおりだった。勇者は勇者だった。

 彼女にとってハリウッド級ナマケモノなんぞゴキブリと比べれば取るに足らない存在だったようだ。


「よし、それじゃここからは商人の仕事だぞ見習い君。このナイフを使って革を削ぐんだ慎重にね。その間ステラさんには周囲の警戒をして貰いましょう。ナマケモノが一体とは限りませんからね」


 マグウィードさんはそう言って俺でも扱いやすそうなコンバットナイフを渡してくれる。ずっしりとした感触はそこまで無く、やろうと思えば宙に一回転させてもっかい柄の部分をキャッチすることも出来そうだ。やらないけど。失敗したら痛いし。

 おれはコンバットナイフをバゼラの腹部に入れる。くっ硬いな。


「肉はある程度ついてもいいが、血管を傷つけるのだけは無いようにな。後は取れても臭いは残るし、それで価値が下がっちゃうからな」

「分かりました」


 先輩の指示を受けて刃をゆっくりと入れていく。肉屋とか魚屋ってこんな感じなのかな?

 本来は足や首元の革も加えればお金は増えるのだが、難しい上に時間がかかるのでそこは省いて胴体の革だけを取った。

 それでもかなりの量が手に入り、丸めてみたら枕一個分位の大きさになった。


「後は、ステラさんこの角って叩ききれますか?」

「こうですか?」


 マグウィードさんはバゼラの武器とも言える角を指差してさり気なくステラさんに問いかける。そしたらステラさんは何の抵抗も無く、まるで野菜を切るかのようにその凶器を頭部から切り離してしまった。

 試しはしなかったが、俺が今手に持っているコンバットナイフでは絶対に傷もつかないだろう物をあんなにあっさりと切ってしまうとは。勇者の剣やばいな。


「加工が難しいから剣には向かないけど、棘部分を矢じりにしたり、その美しさから一部の蒐集家は芸術品として買うこともあるから意外と買い手は存在するんだよ」

「革ついでにってことですか。肉は?」

「甲乙つけがたい味かな。空腹を凌ぐのに使うのはいいが、わざわざ持ち運んで売買するには向いていない一品だね。何分場所を取るし」


 持ち運びなどを考えると確かにそうなるか。輸送手段が豊富な地球ならともかく、限られた輸送方法しかない異世界では体積も重要な計算ポイントになるんだな。それ以前に次の目的地まで三日なら加工しないと腐っちゃうよな。


「最後にこの肉はどこか目立たない場所に捨てましょう。そうすればナマケモノや他の肉食獣へのデコイになりますからね」

「分かりました。ぐっ重い……」

「手伝いましょうか?」

「いえ、ここは俺が。それよりもステラさんは周囲の警戒――をっ!」


 バゼラの肉塊を引きずるように持っていき崖から突き落とす。

 だいぶ下の方に落ちたからこれでナマケモノに追われることは無いのか。


「はぁぁっ……疲れた」

「けど、まだ一個ですよ。勇者様に頼るのも勿論有りですが、そうするとナマケモノに遭遇した時命の危険に晒されるのはケイタさんですからね」

「うっ」

「大丈夫ですから! 隙を見て私も少しずつ狩らせていただきます!」


 マグウィードさんの容赦ない宣告にブラック筆頭のコンビニ(俺は比較的楽しんでやっていた方)業務経験者である俺も根をあげそうになる。

 けど、ステラさんがまたやり過ぎないようにするには俺も少しは頑張る必要性があると、自分に鞭を打つ。


「勿論僕も手伝わせてもらうよ。ナマケモノは本当にろくでもない奴だから共喰いすら起こすんだ。だから俺はこいつの処理にあたろう」


 自ずと役割は決まる。働かざるもの食うべからず。

 現代日本がどれだけ幸せなのかを異世界肉体労働下の元、改めて知る事となった。

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