第三章-11 指導する才はあるのだけど……
黒光りし地面を這い、必要あらば翅を使って高速移動する忌み嫌われる生き物。
この世界でもその存在は確認され、尚且つ嫌われていたのか。
「やりたかないけど、対処するしかありませんね」
こいつは何とかしないといけない。覚悟を決めたマグウィードさんが一歩前に出る。
「いや、俺にやらせてください」
そう言って俺は更に一歩前に出る。
「こいつなら俺の世界にもいたし、何度か対処したことがある」
「でも、でも、でも」
「大丈夫だって。怖いんなら一人で対処しなくてもいいから」
ステラさんの右手を掬い、自身の左肩に誘導する。そうすることでタオルのずれを抑えていた俺に自由が生まれる。
こっちの世界でも相変わらずかさかさ早い奴だ。これは早期決着が要求されるな。
俺は近場に何か無いか探した。
そしたらギルドに置かれていた傭兵募集のパンフレットが目に付いた。それを丸めしがない棍棒もどきを作成する。
「待っていろよ……必ず仕留めてやる」
自宅にも何度か侵入したことがあるし、コンビニでもバックヤードには結構見かけることがある。もし店内に入り込んだら大騒ぎになるので。最新式のバズーカ―型噴射機で一掃している。
けど、今手元にそんなものは無い。なら、原始的な正攻法で行くしかない。
「待て! 止めるんだ!」
危険性を感じたのかマグウィードが俺を制止にかかる。もしこれで相手を刺激してしまえば縦横無尽に走りかねない。ここが正念場だ。それは俺にだってわかる。
それでもやらなきゃいけない時があるでしょ。
男なら腹をくくる部分があるでしょ。
俺の腕と紙棍棒の射程がGを捉えた。
緩急ある嫌らしい動きの中でタイミングを伺う。狙えるのは恐らく一瞬。
弓で培った慎重さをここで発揮する。そして、
「どりゃぁ!」
気合の一撃と共に重量の感じない武器を秒速で振るう。
ステラさんの腕力強化も視野補助も防御も効能もいらない。自分だけの力。
異世界で初めて、自分だけの力で討伐を果たした。Gだけど。
「よし、終わりまし――」
俺は後ろを見て完了したことを伝えようとした。
安堵の表情を浮かべるか、歓喜に満ち溢れているだろうと思われていたが、そこにあったのは以前恐怖した二人で寧ろ戦慄している。
「な、なんてことを」
その代表としてマグウィードさんが何故そんな状態であるかを言い表した。
「な、何って俺はただ、退治した」
「その退治の仕方はもっともいけないやり方なんですよ!」
え? もっともいけない?
古き良き昭和、いやそれ以降でも行われていたであろう紙新聞を武器に父親が、母親が勇猛果敢にも潰しに行くこのスタイルが最も駄目だと?
後が残るからか? ここが借家だからか?
もぞもぞ。
俺が僅かな違和感に気付いたのは思考に集中している最中だった。
決定打が足りなかったのか。俺はもう一度叩き直そうと若干紙を浮かせる。
その僅かな隙を見て、生命力の高いGはその区域からの離脱を図る。
四方に。
――。
四方に。
――。
四匹の成体が四方に。
「何で増えてるんだぁ!」
「潰したら分裂するさ!」
「分裂すんの⁉」
何だその非化学的事象は! と考えたがここは異世界であるということを思い出した。カバがあんな突然変異を起こすんだ。ゴキブリだってこの位起こしてもおかしくはないのか⁉
「この世界のゴキブリはスライムかよ!」
「スライムとは一緒にするな! 一匹で一国を滅ぼすような魔物とこいつでは雲泥の差だ!」
「分かった! 俺はブヨブヨする生命体には絶対に近づかねえ!」
この世界での食物連鎖ピラミッドは終盤戦のジェンガの如く穴だらけだなおい!
それよりも問題はこれからだ!
「潰したらいけないならどうすれば!」
「捕まえて燃やすしかない!」
「捕まえる⁉」
まじかよ⁉ しかも俺の早とちりで増えちまったんだぞ⁉
「気を付けるんだ。下手に潰したらまた増えるからな」
「カメムシよりたちわりいな!」
何でゴキブリ如きにソフトな扱いをしなくちゃいけないんだ!
「いやぁ! こっち来た!」
「ステラさん! お、落ち着いてください! それと今の姿を考えて!」
恐怖が四倍になったステラさんの狂気ゲージは完全に振り切れてしまい俺に抱きついてきた。
それが行動の制限を生むのは当たり前だが、何より彼女のタオルが今にもはだけそうで、しかも際どい位置で止まっている。見えちゃう! 見えちゃうから!
「そこ! ちちくりあってないで何とかするぞ!」
「ちちくりあってませんから! こっちも何とかしてくれませんか⁉」
「自分で何とかするって覚悟を決めたなら腹を括りましょう!」
「そう言う意味で言ったことありませんから!」
願わくば、誤解と間違いが起きないであってほしいと思い。
俺はステラさんの勇者さながらの腕力と戦うのだった。




