第三章-9 指導する才はあるのだけど……
「私も聞きましたよ。異質な革を纏った男は何者か。遂に魔物から勇者を制圧する王が誕生したのか。私の知り合いは勿論行商人が多いんだけど、その人たちがあぁだこぅだって口論し合う姿は本当に面白かったよ」
「知っているんだからちゃんと説明してくださいよ!」
「説明しておいた方が良かったですか? 異世界から来た勇者を精神的に責める男だって」
「それ言われた時点で俺を確保せよ! 殺せ! って国や王が訴えてくるでしょ!」
「そうしたら勇者に助けてもらうんでしょ?」
「勇者に国から派遣された騎士を退治させたらそれこそ魔王じゃないですか!」
俺の部屋に入ってきたマグウィードさんによって勇者についてきてる、いやこの場合勇者が俺について、連れ回されていると行った方が信憑性はありそうだけど、そんなうわさ話が立っていることを聞かされた。
そして当の本人はと言うとそれをあたかも楽しんでいるかの如く簡素なウッドチェアに腰かけ、足を遊ばせていた。俺よりも絶対年上なのにこういう所は子供っぽいなこの人。
「所で例の使い魔さんはどうしてるのかな?」
「もうそれはこの辺にしておきましょう……ステラさんはたぶんお風呂です。もう1時間以上前に入ってますが」
昼間はだいぶ落ち込んで――たか? それ以外だったような気もするが、今回はそこまで根が深くなかったようで、お風呂に入る気力は十二分、いや一時間以上あったようだ。因みに先に断っておくと俺とステラさんは一緒な部屋では泊まっていない。そこは男女と言うことで、それぞれ別にしようという相互理解によって承諾された。
「女の子は長いって言うけど、勇者様はかなりだね。まぁ君は居候させて貰っている立場だからそこまで言えないのかな?」
「……そこまで読んでましたか」
「何のことかな?」
マグウィードさんは俺がステラさんに戦い方を伝授してもらおうとしていることを理解していた。そして、その奥にある真意の、更にその奥を。
「マグウィードさん。何か働き口って無いんですか?」
「ケイタさんにとってはそれが一番需要のある働き口だと理解したんですね」
「そうです」
俺は迷わずそう答えた。
一日で終わる異世界遭難だったら良かったのだが、もう既に一週間近くかかっている。
その間の飲食代や宿泊代、マグウィードさんへの同乗費はヘインスの町の人々の報酬として賄われてきた。
けど、今回に限ってはステラさんに初めて出費が出た。そう、ここの宿泊費だ。ましてや二部屋も借りている。
このままいけばステラさんは二人分の路銀を支払わざるを得なくなる。
自身は言ってみれば被災者だ。だから施しを受けて助けてもらっても罪にはならない立ち位置にいる。
でも、ずっとそれに甘えている訳にはいかない。人だろうが土地だろうが町だろうがそこから少しずつ復興を果たしていく。長居する気は無いが、俺も自分の力だけである程度やりくりができる生活能力(異世界の)を得る必要性があった。
「やろうと思えば私の手伝いだってできる。荷物の運搬は簡単な肉体労働だし誰にだってできる。だけど、私は色んな所を行き来する行商人だ。どこかの町で何らかの手がかりを得たとしても滞在時間を伸ばす訳にはいかない」
「そうです。ですからマグウィードさんにずっと頼りっきりになるのは駄目だと思いました」
「そう言われると私から一刻も早く離れたいという意味で捕えられてしまって悲しいな」
まだ三日、もうじき四日ではあるがマグウィードさんとは冗談が言い合えるほどの仲となった。それでも進むべき道は違って当然。同業者でも別々の道を進む人たちが多いのだから別れは必然とやってくる。
「かといって日雇いを探すのも確かに骨が折れる。どこかの店で働くにしてもその日ばかしの従業員にさせられることなんて限られるからね」
荷物の運搬、簡単な警備、清掃、プラ看板持ち、着ぐるみショーの中の人。単純作業や短時間の極限労働下での労働。そういったものは日雇いで更に日当も高めで大学の求人募集欄に張り出されている。
けど、都合よく毎度あるわけでも無いし、俺と同じ考えを持つ人たちによる競争率も高い。元も子もないことを言えばそんな職業が異世界にあるとは思っていない。
「で、魔物の討伐関係か。或いは賊の討伐、ね」
「どちらも大変だとは思います。けど、需要はありますよね?」
マグウィードさんは間を待たずに頭を下げた。
「勿論危険だけどね」
重々承知の上だ。
保険は無いし、労災も下りない。
3Kが全て危険に埋め尽くされる。
命のやり取りをする違法ゲームのようなものだ。
「それでも、需要は多いんですよね?」
「そうだね。被害が出たからは勿論、被害を防ぐため、我々行商人にとっては商品の一つとして考えることもあります。魔物は危険で不要な物であると同時に我々の生活と切っては切れない関係にもあります。
もし、この世界から魔物の存在が無くなったら、多くの人は職を失うこととなるでしょう。私の場合は移動の不安を取り除けるので損得で言えば得する立ち位置なのですが、社会経済全体から見れば、マイナスになるでしょうね」
日本で言えば何だろう? 害虫、蜂が似たような存在か。
危険で最悪死者が出ることもある。しかし、存在しなければ花は受粉を行うことが出来ず蜂蜜と言う物が取れなくなる。それはミツバチだが、蜂全部を抹消するのであれば例外にはされないだろう。
「本当に魔物を狩れる自信はあるのか? 今の君にとってこれはハイリスクすぎる。得物を持つのであればそれの手入れはしなくちゃいけないし、何より、君が怪我をすれば君自身だけじゃなく、勇者様も面倒なことになるんでぞ?」
「手につかなくなるでしょうね。精神的に」
自分のせいだって樹海に潜ってしまうかもしれない。
この世界の樹海なら日本の物よりかは遥かに広いだろうし、危険もあるからまじで命取りになり兼ねない。
「なら、彼女が協力的何だからそれに甘えて」
「それじゃ駄目なんです」
俺はマグウィードさんの案を拒んだ。それは俺がヒモになるからと言う情けない結果に陥るからと言う訳ではない。




