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第三章-7 指導する才はあるのだけど……

「か、かてぇ……」


 持った時は重いと言ったが、これは正確な表現では無かった。矢じりが弓の先から少ししか出ない所まで引こうとしたが、半分近くに来たところで急に弦の重みが増す。その反動に耐えきれなかった俺の手が滑った。

 しっかり引ききれなかった矢はへにゃへにゃと宙を浮いて、すぐさま重力に負けてしまった。


「あいつらこんなの使ってるのか……」

「ケイタさんの世界では弓なら使う人はいるんですね」

「使う――と言っても戦闘じゃなくて競技何ですけどね。的の中心に近いかは勿論、礼儀や作法なども問われるもんなんです」


 弓道部の連中ってよっぽど筋肉質――いや、そもそもこの世界の弓と言うやつが地球の物と比べて軽量化、最適化されていないのだろう。


「これじゃ近づかないと当たんないな……そもそもこんな矢じゃ当たっても怪我すら与えられねえ……」


 これなら弓使わなくて矢を投げつけたほうがいいんじゃないか?


「あ、それなら私が手伝いましょうか?」


 ステラさんがいいことを思いついたと手を叩いた。

 何か妙案を閃いたらしいステラさんは俺に対して右手を差し出す。

 その手先に少しばかしのトラウマを感じるが、そこからは明るい光が溢れた。


「な、何ですかこれ、俺の手が少し眩くなって」

「体力をあげる魔法です。これでさっきよりも遠くに飛ばされると思いますよ」

「補助みたいな奴ですか?」

「そうです! 補助魔法です!」


 言われてみて俺はもう一度矢を矢筒から拾い、番える。

 すると、どういうことか出だしが順調で俺はそのまま弦を引き続けることが出来た。

 そして、先程へばってしまったラインを追い越すことに成功し、矢は理想のひし形に近い形を成した。

 後は狙いを定めて。


 パンッ!


 先程よりも遥かに良い音を響かせた弦は、矢を力いっぱい遠くへと弾き飛ばした。

 そこまでは良かった。


「全く当たってねぇ!」


 矢はしっかりと真っ直ぐ飛んでくれた。

 けど、俺が狙っていた案山子には大きく外れ、寧ろ隣に並んでいる案山子の方が近い木の壁に刺さった。

 これなら接近せずとも迎撃できる。迎えることが出来れば、だ。


「それなら安心してください」


 そう言って今度は俺の目に向けて人差し指と中指を押し付けようとしてくる。その行為はどう見ても目つぶしだった。


「あ、安心できませんって!」


 指が俺の眼球を貫くと思われた瞬間。その指は止まる。そしてまた、謎の光が放たれる。

 それと同時に目の前にある二本指がぼやけて見えた。けれども眠気が起きた訳では無い。意識はしっかりしている。

 だからこそ、その指が離れた時の異変にいち早く気付けた。

 妙に視界がはっきりしている。

 眼鏡やコンタクトをつける必要が無いほど視力には自信があったけど、その視力ですら見えなかった案山子のプレートに刻まれた傷が一本一本分かる。


「視力を上げました。これで的が見やすくなりましたよね?」


 なるほど。これも補助魔法か。と言うか便利すぎだろ。

 思えばさっきは引ける所まで引けたことに満足してしまい、狙いをつける所が怠っていたことに気付いた。

 右手で弦を張り緩みしてみる。その加減を見て、先程の補助は未だに有効であると理解する。一つの補助だけしかつかないとか昔の物は上書きされるようなことは無いようだ。流石は勇者なのか、もしくはこれが当たり前なのかは異世界の、と言うよりそもそも魔法に疎い俺には理解できない領域だ。


 やる事は一つ。

 そろそろ拾ってくれと見つめている錯覚が見え始めた矢筒を無視して矢を拾う。

 猶予があるのかは分からないが、一早く先程と同じ位置まで弦を引っ張る。

 それによって狙いを定める時間に余裕が持てた。

 構えて狙いを絞る。

 さっきはもうこの時点で手を放してしまったが、今回は放さない。

 揺れる手が落ち着くまで矢を放たない。

 矢の直線状に。狙うはど真ん中。心の臓辺り。


 パンッ!


 先程と同じ気合の入る一発が響く。

 言うまでも無く矢は真っ直ぐ飛んで行った。文字通り。

 そして当たった。木の壁に。物理法則通り。

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