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第三章-6 指導する才はあるのだけど……

「どうぞこちらからお選びください」


 ギルドは都市や国など軍備を強化できるほどの財力が無い国において、緊急の事態に他国へ応援を要請したり、応援に来た人たちの逗留中の保証をする。そして最も仕事として多いのが傭兵を雇うことだ。


 そこにひょっこり現れた勇者と言う格別すぎる傭兵の存在は絶大だった。

 そんな存在だからこそ、武器のいくつかを貸してほしいと言う願いもすんなり受け入れられた。

 魔物が闊歩し、賊と呼ばれる集団が群れを成す中ではある程度の町になると鍛冶屋、武器屋の一つや二つはある。けど、武器と呼ばれる物は一律して素材の回収から錬成に至るまでに時間がかかる。故に高値である。俺みたいな素寒貧には嗜好品と言える物だ。

 結果、自分で何とかしたいと言っておきながら、いきなり勇者の威光を借りることとなってしまった。


「でっか……」


 今まで近場でステラさんの剣以外武器を見たことが無かった俺にとって、その迫力と言う物は圧倒的な物だった。剣の中でも一番でかい剣は俺の身丈位の長さがあり、斧の刃部分は俺の頭を二つ三つ位一緒にカチ割れるほどの幅があり、槍はまず持てないだろうと思うほど長い。

 それ以外にも漫画で見たことのある物もあれば、用途不明な謎の武器もある。


「とりあえずオーソドックスに……」


 俺はステラさんが持っている物と同じ刀身の剣を一本手に取ろうとした。した、


「……! 重っ!」


 何だこれ⁉ 2Lペットボトル入りの段ボール並みに重いぞ⁉ となると12キロ⁉ と言うかこれ振り回すのか⁉


「ぶ、武器ってだいぶ重いんですね」

「鉄は重いですからね」


 ステラさんの何気ない一言だったが、俺はそれに納得がいった。

 農業で使う鍬何かも一回一回振り上げて下ろすのにそれ相応の労力を必要とする。ステラさんが今までチャンバラのように悠々と振るっていたのを見てきたからノリで言ってしまったが、早々に壁にぶち当たってしまった。


「ステラさんこんな重いのずっと振り回してたんですね……」

「私の剣は勇者が使う為に特別な力が施されているんだと思います。私もそこまで怪力と言う訳ではありませんから」


 とか言いながら、俺が早々に壁に押し倒した剣を軽々と元の場所に戻してしまった。この世界においてはコンビニ店員よりも引っ越し業者の方が役に立つようだ。そういう単純な事でもない気がするけど。冷蔵庫一人で持てても振り回す訳じゃないし。

 さて、となると俺に残された選択肢は本当に限られてくる。恐らくこれ以上に重圧、射程を誇る武器となると重量はさっきの比じゃない。

 なら考えられるのは短剣や棍棒と言った類何だが、こうなったら射程が短いせいで接近戦を余儀なくされる。狼型の魔物は勿論、洞窟内で遭遇したカバもどきを眼前で相手にすることになるのか。


「地球ではこういう武器は使わないんですか?」

「そもそも持つことが禁じられてますから」


 そして禁じられているにしてもこんな大袈裟な武器を持ち歩く人間なんてコスプレイヤー以外には考えられないだろう。マタギだってもっと効率的な道具を持っていくだろうし。鉄砲が無かった時は手斧とか、最悪鉈で何とかしてたのかな。マタギって。


「……そういえば銃とかは無いんですか?」


 俺は立てかけられた武器の中から件の物を探す。短い物でなくても、オートで無くとも火縄的やコック式の物でも無いかと探ってみる。

 が、一周せどそれらしき物はない。近いもので言えば、弓、ボウガン、スリング辺りか。子供の頃モデルガンを持っていたからそれなら多少なりとは思えたが、無い物は仕方ないか。


「聞いたことがありませんね。どのよう――何でもありません……」


 俺に向かって差し出した手を謝罪と共に下げるステラさん。気にしてないのにな。

 となると一番近いのは弓かスリング、ボウガンか。試しに弓を取ってみる。弓道部で見たことあるけどでけえな……。部室に置くのであればまだしも家に持って帰るとなると邪魔だろうな。

 自身の身丈並みにある弓を左手で支え、右手を弦に添えてみる。悪くはないな。後はここに矢か。


「訓練所がこの先にあるはずですので、そこで試し打ちしてみてはいかがでしょうか?」


 ステラさんが指差した先は屋外になっていて、映画でもよくみる案山子のデコイが多くの若者を育成した証の傷と共に佇んでいた。

   「あれが的か。あそこに――、って近づいたら意味無いか」


 弓なら遠距離。射程外から卑怯だとか関係ない。

 俺は矢を矢筒から。

 ……。


「ケイタさん、それ、逆かと」

「ですよね……」


 左肩から右の腰にかけて矢筒を担いだら羽は左肩の方に向きますよね。これじゃ右利きの俺からしたら取りにくい訳ですよ。

 かけ直すのも面倒だし何より何の革で出来ているのか分からないが非常に重い矢筒を背負いながら弓道初心者が上手いこと的を射抜けるか定かではなかったので、地面に置くことにした。

 そして一本、矢を引き抜く。


 目標を見据え。

 弓を改めて構え直し。

 矢を備え、弦を引く。


 そして、


「うぎぎぎぎっ」


 重っ! こんな弦を引くのって重いの⁉

 手、手が矢羽根から離れ。


 ビンッ‼


 矢が解き放たれた。

 飛んで行った先は手前2,3メートル。見事刺さった。地面に。

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