第三十五章ー5 帰還……?
びっくりな客だ! パーティーでもあるまいし酒を出すとか普通は無いだろ⁉
「普通の家じゃ、いきなりお酒は出さない物かと……」
「我は神じゃぞ⁉ 神への供物は酒に決まっているではないか!」
「御神酒⁉」
そういう意味で酒って振舞われている訳じゃないと……思うんだけどな――。
ただ、このストレス状態はあまり芳しくない。少し高いアパートだけどそれでも防音設備は完璧じゃない。これだけ大きな声を出されてはお隣に声が漏れてしまう。
迷惑行為だけは避けたい。トラブルだけは起こす訳にはいかない。
「あんまりお酒は良くないと思うんですけど……」
ネシア様の意見にステラさんも肯定的な意見は出せずにいた。ステラさんの場合はお酒を飲むことに対して抵抗があるからだろう。
だが、残念なことに俺は普段からお酒を飲む派では無い。俗に言う機会酒に部類される。だから冷蔵庫の中にはお酒類は一切入れていない。
それでもこの状況を放置する訳にも行かない現状に、俺は溜息を吐く。
「分かりました……今から買ってきますから」
「買うって、ケイタさんお酒を買うお金があるんですか⁉」
「ふむ。我に仕えるだけあってなかなかの身分じゃな」
俺が立ち上がろうとすると、双方に全く違った反応を見せた。ここにも世界観の違いが起きる。
「この世界でお酒はそこまで高くないですよ。無論高い物はありますけど、俺が行く場所にはそんな高い物は売ってませんので。期待はしないでください」
ロマネコンティとか日本酒の高い奴とか頼まれても困るからな。一応コンビニにもボジョレを売っているけど、予約以外で買っていく人なんてほとんどいない。売り上げ的にレジ後ろのお歳暮グッズよりも低いかもしれない。
「後は……。これも持って行かないと。まさかコンビニで下ろす日が来るとはな」
鍵付きの引き出しを棚の後ろに隠してあった鍵を使って開ける。
そこには日本銀行の預金通帳とカードが入っていた。財布の紛失によって今まで通り転生後は無銭状態になってしまったが、ここにはお金があることを俺は知っている。
「じゃあ行ってくるから、ここで待っていて貰えますか?」
「ケイタさん一人で行くのですか? 私もついて行きますよ?」
俺が外に行こうとした際、ステラさんが立ち上がって同行を願った。
勇者様と言うよりかは彼女らしい献身だが、俺はそれを拒んだ。
「お気持ちは嬉しいんですが、今回は俺だけで行きます」
「そうですか……。もしかしてさっき捕まってしまったのも私が――」
「いえいえ! そう言う訳――あ、まぁ、あの……」
ステラさんが外に出られない理由を先ほどの事件が原因だと察した。否定したかったが、残念なことに的を得ていた為否定は出来なかった。
どの道説明しなくちゃいけないけど、時間はかかってしまうだろうし、その間この面倒な――基、高貴な神様が黙っているとは思えない。
俺の部屋と言う今のところ一番安全(世相的に)な部屋から出ないようにして貰いたいのだが、ここで彼女を説得することが出来ないだろうか――。
「あっ。そうだ。ステラさんに頼みたいことがあるんです。これはステラさんにしか頼めないのですが、いいですか?」
「勿論! 私が出来る贖罪であればどんな仕打ちでも受けますので、先程の」
「こちらに来てもらえますかね⁉」
俺は神父では無いので懺悔を聞くわけにはいかない。
と言う訳で俺は彼女の手を引いて足早にとある部屋に連れて行くことにした。
「今から使い方を説明するので、ネシア様をお風呂に入れて貰えますか?」
「お風呂ですか⁉ 分かりました!」
結果は、効果は抜群だった。
打って変わる大打撃により、ステラさんの陰鬱は吹き飛ばされ、一瞬で明るくなった。
若干レトロ感が含まれたとはいえ、未来のお風呂(卑猥な)と設備はかなり似ていて、浴槽に関してはユニちゃんたちの家と遜色なかった為、説明はそこまで苦労しなかった。そもそも、彼女の呑み込みが早く、どの企業でも欲しがるような新人の如く、教えたことをすぐに覚えていってくれたことも要因となった。
「それじゃ任せてもらってもいいで」
「お任せを!」
言い切る前にステラさんがネシア様を呼びに行った。これでステラさんは勿論のことネシア様も大丈夫だろう。神様がどんな入浴をしているか不明だが、満足は――出来ないだろうな。お湯の精霊がいないからな。あの人、精霊は性格が性格とは言え、お湯の品質は本物だったかな。
それでも、一日何回でもお風呂に浸かれるほどの彼女にとってはお湯が出ればそれでも充分だったようだ。
とりあえずこれで閑話休題。一旦落ち着くことができそうだ。
「お風呂入りますよ! ネシア様!」
「騒ぐでない! そもそもお風呂なぞ毎日入らずとも」
「毎日入りましょうよ!」
……本当に大丈夫だろうか?
不安に思いながらも、俺は買い出しに行くことになった。
使いっぱしり。下っ派らしいな。




