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第三十二章ー8 決断と決別の先には……

「テンペスに立ち入ることはそれだけの実力、そして信仰が必要だというのに、そんな陳腐な物にすがっている暇なんか無いんですよ!」

「……そ、そんな……」


 ジアでは有名な神童の本音を真っ向から受け、ユニちゃんは顔を青ざめた。


「それに何ですか。フラは勝ちに拘っていない。アグニは交渉に乗る。シーズは裏で神聖な戦いを汚すやり取りをしていた。それが四国対戦のあるべき姿か⁉」


 ベイヤールさんが中央で吠える。

 ユニちゃんが作戦を無視した時と同等、いやそれ以上の激昂でステラさんに、生徒たちに、何なら大会に来ていた人全員に問いかける。


「こんなのは勝利ではない。こんな茶番で行けていいほどテンペスは安い場所ではない! ましてや……」


 ベイヤールさんが俺たちの方、ジア席の方を向いた。


「こんな初勝利で喜んでいる程度の奴らがテンペスに行けることが、いけ好かない!」


 まさかの国長が率いるはずの自国の生徒たちを貶してきた。そのことに他国とは違い、少なからず応援の意思があったジアの生徒たちは凍り付いた。憧れを持っていた生徒たちも少なくなかったようで、「そんな……」という哀愁の漂う声も零れていた。


「違います! これは一人の思惑に巻き込まれたから起きたことに過ぎません! 全員が、全員が悪人と言う訳じゃないんです!」

「それは言い換えればたった一人のつまらぬ思惑に皆振り回されていたという事じゃないか! どんな力か説得力があったかは知らないが、それが信仰より勝る時点であなた達にはテンペス様の元に行く資格は無い!」


 ステラさんが皆を代弁して訴えかける。しかし、ベイヤールさんはその訴えを信仰心の無さが原因だと言い、話を聞こうともしない。

 それを聞いたステラさんがゆっくりと口を開いた。


「あなたは良い人ですか?」


 静かな問いかけだったが、その声ははるか離れた観客席にまで届くほど澄み切った分かりやすい言葉だった。


「どういうことだ⁉」


 それとは裏腹の濁り切った失望の怒声。初めて会った時の面影は、最早どこにも無い。


「あなたが本当に良い人ならば理解できるはずです。あなたは誰のおかげでこの場に立っていられているのか分かっているのですか? 前哨戦で頑張ってくれた皆さん――ユニちゃん、クレハさんのおかげで立っているんですよ? それなのに皆で勝利を分かち合ってはいけないのですか⁉ まるで自分だけの勝利であるかのように言いふらしていますけど、あなたの為に皆は」

「違うな」


 ユニちゃんの成果を無視した時と同じように、ステラさんの説得をベイヤールさんは一蹴した。


「アグニもシーズもフラも、そしてジアも。地位? 誇り? 優越感? そんな物の為だけにあの方の元へ行こうと考えている奴ばかりだ!」

「あの方? それは」

「テンペス様に決まっているだろ!」


 怒号が闘技場を揺るがす。

 その発言に誰もが、フラの観客席で行われているお祭り騒ぎすら静まり返らせた。


「私はテンペス様に会ったことがある」

「え? でも、ジアは一度も四国対戦で――」

「その前にだ。影でしか見えなかったが、あの方はテンペス様に違いない。私は確信したんだ。そして告げられた。助けてほしいと」

「助けて?」


 ベイヤールさんは妄信状態に陥ったとしか思えない戯言を連ね始めた。

 けど、彼にとっては妄信ではないかもしれない。何故なら、この世界には本当に神様が存在すると言うのだから。


「だから私は魔法学園に入学することにした。テンペス様は神であり精霊でもある。精霊界に近づくことはテンペス様の側に着くことと同等に近い。新しい精霊に会うためや自己中心的な使い道をする恩知らずどもと私は違う!」


 圧倒的酔狂は狂信者に近い物を感じた。

 とてつもなく危険な香りを醸し出させる物言い。

 それがすぐに現実のものとなる。


「今回テンペスの間へ行くのは私だけだ。そして、今後誰も通れないように道を完全に封鎖する」


 ざわめきがそこかしこから響く。

 罵詈雑言の数々を散らかすのはフラの民。汚らわしいとどよめきたつのはシーズの民。そして何故? と嘆かわしく問いかけるジアの民。


「そんなことさせません! 私だって勝者です! 私にだって行く権利はあります! そして、私が行くのであれば、ケイタさんやユニちゃん、ジアの人達も一緒です!」


 皆の敵に回ったベイヤールさんに、ステラさんが反論する。


「必要ありません。偽信者などこの場所に相応しくない。あなたも異世界からどのような理由で来たかは分かりませんが、我らの世界に、それも創造主の元に私欲の為に行くのであれば許す訳にはいかない!」


 私欲。

 確かにそうかもしれない。俺たちは元の世界に戻る術を見つける為に、ただテンペスを目指した。彼女――あの像の人がテンペス様なら俺たちはあの人の力を借りに行こうとしている。そこに信仰心は無い。


 だが、信仰心が無ければ救ってくれない人を、俺は本当の善人だとは思わない。寧ろ信仰してくれと自らの権威を勝手に行使するような奴と、それに頭を垂れるような人間たちについて行きたくはない。


「それに行くか行かないかを決めれるのはあなたではありません! この学園の、四国対戦のルールでジアの国の皆にもう行く権利はあるはずです!」


 ステラさんが真っ当な反論を述べ、ベイヤールさんの自論が無意味なことを説明する。


「それはテンペス魔法学園が決めたことだ。テンペス様の申し出ではない」

「では、あなたは決めることが出来るんですか⁉」


 信者を超え、祈祷師か巫女のような物言いを繰り返すベイヤールさんは何が何でも自分が正しい事を主張する。その明確な答えを求めるのは双方の思考の違いがある時点で難しく、このままやり取りは難航するかに見えた。


「ならば、証明しましょう」


 ベイヤールさんがゆっくりと手をあげる。

 それと同時に実り息吹く新緑を失い、枯れるようにユグドラシルが散っていった。


「前に言いましたよね。精霊を見せない人間は二種類だと。自信が無く精霊を前に出せない人間と、自身の力を隠し持っている人間か。そこで私がどちら側かの人間か言っていませんでしたよね?」


 その話は確かフラの生徒に喧嘩を売られた後に言われた物だ。

 ただ、そこでベイヤールさんは答えていなかった訳では無い。自身は見せなくてもそれなりに実力が知れ渡ったから具現していないだけだと。彼はそう答えた。

 なのにここで言っていなかったと発言を撤回した。

 つまり、あれは嘘だったと。


「私は後者だ。今6体目、テンペス様の精霊をここに降臨させる。そして、私こそがあの人の元にいるのに相応しいことを示して見せる――――試合再開だ。天からの使者に打ち勝てるものならな!」


 四国対戦は、異例の仲間割れによって新たな局面に入る。

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