第三十二章ー7 決断と決別の先には……
ブレンシュの号令に伴い、彼の傑作、並びに彼の精霊たちが火を噴く。
精密性などあった物じゃない数撃ちゃ当たる戦術。それでも銃弾の壁は厚い。人一人を丸々覆う範囲に広がり、その隙間には人がどう頑張っても通り抜けることのできない無数の凶器が蠢く。
それにスピードも申し分ない。正確な答えは出せないが。俺の持っている物と遜色ないように見える。そりゃ目で追えるスピードじゃないし、何より数が尋常じゃないからどの虚像がどの実包によって生成されているかも理解出来なかった。
そんな中で、誰がその合間を人が通って行っているのを理解できただろう?
誰が目が追い付かない速度の物を弾けると思っただろう。
誰が――そんな無謀なことをする人間がこの世にいると思っただろうか。
勝負は正に一瞬だった。
群れバチのように一直線に跳んでいた銃弾が四方八方に強制的に散らばされ、その中央を銃弾よりも早く。白銀が駆け抜けた。
衝突も呆気なかった。
剣が突き刺さった瞬間、鉄の塊が精霊ごと四散する様を見ることが出来たのは奇跡に近かった。少しでも目を反らしたり瞬きをしていたら見逃していたに違いない。
近寄られればどれだけ遠方に、そして広範囲に脅威になろうとも、剣の前ではただの盾でしかなかった。
盾は砕け、無防備となるブレンシュ。
「ハハッ」
彼はそんな状況でも笑っていた。
「改良が必要だなこれは‼」
相手が悪かったとしか言いようがない。
ステラさんばりの悪党が溢れかえっていたらこの世界は末期だ。それこそ世紀末の世界だ。強い奴しか生きれねえよ。
まぁあいつならそんな世界を作らないだろう。
寧ろコミカルな工夫をして、今までよりいい世界を作れるだろう。
寧ろ今は変えるべきである。
ステラさんがその始末をしに歩き出す。
「ウ、ウィズレム‼」
レシアさんが今までにあげたことの無い焦りの大声で告げる。それに応じて彼女のナイト、精霊が動き出す。
しかし、その守護者は儚く散る。
今大会で見たこともない業火を精霊の手を借りずに放つ。異例の強さを誇る勇者になす術無く、氷結の騎士が霧散する。
守護する者がいなくなったレシアさんはただの発言力しかない貴族と化した。
だが、その発言を支持してくれる人はいない。今この場には。
ステラさんの手から二対の風で出来た刃が無防備になったレシアさんを簡単に捉える。
一つは背後に回り、一つは余裕を持って彼女の前で逃げないように八の字を描く。
第二の精霊がいれば、新たな手も打てるはずだった。失策した従者に頼むのではなく、新しいまともな奴に門番を頼むべきだったに違いない。自分を高く見過ぎ、他を低く見過ぎた罰ってことだ。
鎌鼬は何の抵抗もされずに、シーズ本戦一人の進出者を屠った。別に本気を出してもルール上問題無いんだけど、守護魔石だけを狙う辺りが本当にステラさんらしい。
「終わりかな。何があったか知らないけど、だいぶ恨み買われてたみたいだな」
ブレンシュが大の字に寝そべって納得する。能天気な感じして頭の回転が速い奴だな。
そして無防備のその態勢は、遠回しに降参を意味していた。
「――――」
ステラさんが近づいて何か話している。跪いてあたふた手ぶりをする仕草からして、謝っているのだろう。礼儀正しさが身に染みる。染みすぎて非常に危なっかしい部分も多いけど。
「心配いらねえって。初のジア勝利だ! 何か裏で色々あったとは思うけど。俺は楽し――」
ブレンシュの言葉は突然途切れた。
いや、砕け散った。
ブレンシュの持つ最後の守護魔石が空から槍の如く降ってきた枝によって破壊されたのだ。
「これが、勝ちか?」
チェックメイトを指したのはステラさんだった。
降参試合に止めを刺したのは、ベイヤールさんだった。
「フラは私ばかりを狙った。まるで女王の護衛であるかのように。あなたはそんな私を無視し続けてアグニと戦い続けた。それ自体は元々私の作戦の内だった。けど、今の話を聞く限りだとあなたはブレンシュと何らかの取引をしていた! これは聖域、テンペスへ向かう為の神聖な戦いであるのに、あなたたちは神を冒涜した!」
突如怒り始めたベイヤールさん。
その怒りはユグドラシルにも伝わっているのか、傷をおった大樹が地面を揺らす。
「違います! あの人は何も関係ありません! 私たちは大切な人を人質に捕られていただけです! すぐに助けられなかったことは謝ります。でも、ブレンシュさんが罪人では無いことは私が証明します!」
ステラさんが声を張り上げて事実を告げる。
それに対するベイヤールさんの答えを。
「っ⁉」
ステラさんが剣で払いのけた。
「たったそれだけのことでですか?」
ユグドラシルから放たれた枝の槍。それと同時に、全く予想だにしなかった思いの丈を打ち明けられた。




