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第三十二章ー3 決断と決別の先には……

「なるほどな。この中に凄い爆発性のある物を詰め込むと」

「それも押し出すところには出来る限り丈夫な材質のを頼みたいんだ。押し出すときに衝撃を加えると手元で爆発するだろ?」

「あぁ。自爆しちまうな。それもありじゃね?」

「止めろよ⁉」


 あの後、話の場はブレンシュの作業場に移った。

 銃を分解する工具があるのか心配したが、ブレンシュの精霊は分解加工に特化した小さな蟻のような精霊で、銃に入り込むとプラモデル作りを逆再生したかのようにどんどんパーツがばらけていった。


「俺の精霊は構造を深く知ることに特化してるんだ。だけど、既に作られている物の構造何て製作図見れば一発で分かるだろ? だから、俺はテンペスを目指したんだ。フラの国には未知のアーティファクトがある。精霊とも思えない硬質なフォルムに、好奇心が抑えられなかった」

「まさか、精霊を分解する気だったのか⁉」

「そもそも精霊が来てくれなかったけどね。それに、テンペスと言う場所も知りたかった。けど、ただ精霊域に近いだけの広間だったんだ」


 精霊は基本的に生命を維持できなくなると光となり霧散するはずだから、ブレンシュの試みは上手く行かない。それでも色々と辻褄を合わせたり無茶を出来たりするのが精霊だ。彼に合う精霊が、もしかしたらいたのかもしれない。ただ単に体をばらされるのが嫌だったから出てこなかった可能性も十二分にある。


「だから今はテンペスを目指さない。囚われない。俺は今回の四国対戦に関しては始めから匙を投げていたんだ。どうにでもなれと」


 だが、と俺の方に視線を向けることなく話を続ける。それ以前にブレンシュは解体が終わった銃を宝石か芸術品を扱うような丁寧な手つきで近づけ、時には遠ざけて観察しっぱなしで俺の方を向く気配がまるでない。


「いや、ここに来たのは実際良かった。魔法学園に行こうともフラの世界に行こうとも見つけることが出来なかった最高の品に出会えることが出来たんだからな。無論ケイタとの出会いともな」

「正直に言えばいいんじゃんねえのか? 銃を見たかっただけって」

「正直に言ったさ。銃が先で、その次はケイタお前だって。付き合いやすい奴じゃなかったらこんな気軽に調べさせてはくれないさ」


 悪気の無いブレンシュにこちらも率直な悪口を述べた。

 それを真っ向から受け、お返ししてきたブレンシュに思わず納得してしまった。もし俺が健三みたいな性格だったら、銃を差し出しても絶対に手放しはしなかっただろう。互いに利益あってこその理解一致があったことはなによりの成果だ。


「で、どうにかなるのか?」


 そもそも銃と言う概念が無い世界で触媒となる銃弾を作り上げること自体難しいと思う。中身がどんな物か開けるまで分からなかったが結構精密に作られている。ここに火薬が入っていてこれを発破させるのか。


 だが、今回やる事は逆だ。


「これがどの位の威力か確かめないとな」

「そうだな。ってちょっとま!」


 薬莢の中から取り出した火薬を手に纏め、あろうことか暖炉の火の中に放り込んだ。ウィスプを使わずに火を起こしているのは火の国であるアグニならではか、と感心していたが。


 バゴーッン‼


 その象徴がぶち壊れる!


「あぁ……」


 とんでもない爆音と共にレンガの山が構築された。幸いなのがこの隠れ家が木製で無い所と火がレンガに埋もれてほぼ鎮火したところだろうか。

 近所迷惑どころか上を下への大騒ぎになりそうな爆音とは裏腹の静寂が訪れる。


「なるほど。この位か」


 それは感嘆のあまりの静寂だった。なんちゅう肝のすわった男だ。


「爆発起こしても驚かねえのかよ」

「鍛冶に火力は必要だからな。案外大したことは無いな」


 ブレンシュの淡々とした発言にマジかよ、と思わず声を漏らしてしまった。


「ならこの先端部分に強烈な火力をつぎ込むだけだな。これだけの火力ならここは貫通しないんだろ?」


 薬莢と分離された弾丸部をブレンシュが親指で空に弾いた。


「あぁ。容量はほとんどないけどな」


 モデルガン程度の知識しかない俺はこんなに弾丸部が小さくて、火薬部分がこんなに多いとは思ってもいなかった。これに穴を開けて何か詰めるとしても一摘み程度の何かしか入らない。


「いや、十分だぞ」


 再び手のひらに戻ってきた弾丸部。

 それを見て、ブレンシュはさらりと答えて見せた。


「本当か⁉」

「緻密性は格段に上だけど火力はまだまだみたいだな。俺たちの世界も捨てたもんじゃねえな」


 誇らしげにブレンシュが作業台の引き出しからある物を取り出した。


「これは?」

「ボムの粉だ。ボムって精霊が残す粉のカスだな」


 ブレンシュが親指と人差し指で挟むように持っている小瓶の中には赤い砂のような物が入っていた。


「粉って、ウィスプが消えるときに出るあれと一緒な物か?」

「そうだな。基本的に精霊の光は霧散してすぐ精霊界に戻ってしまうんだけど、ボムはこうやって特殊加工した瓶の中に一部を封じ込めておくことが出来るんだ。時間が経てば完全に分離して、こうやって保管することが出来るんだ」

「分離って――体の一部を剥ぎ取ったみたいな言い方だな」

「髪の毛が抜けた程度だよ。ボムも弱っている気配は無いし火力も変わらない。とは言っても見た目が一緒だからどいつから取ったのかも分かんないんだけどな」


 全く悪びれた様子も無く、ブレンシュは作業台にボムの粉の入った瓶を置き蓋を開けた。


「後はこいつに穴を開けて――いや、そこを開けた閉じた方がいいな。下手に引火したら一大事だ」

「そんなに凄い火力なのかよ」

「これだけでケイタの世界の産物の4,5倍の爆発力はあるぞ」

「ガチか。てか、それ残り香みたいな物だろ?」

「だな」

「本体になるとどれ位の威力になるんだ?」

「岩盤に穴を開ける」

「ダイナマイトクラスかよ⁉」


 やべえ。作戦立てて尚且つ頼んでおきながら使いたくなくなってきた。もし、銃口内で何らかの不祥事が起きれば俺は精霊たちと同じく跡形も無く消え去ってしまうに違いない。唯一の違う点は行き先か。


 ただ、これだけの火力があれば全く問題は無いだろう。

 威力は申し分ないし、何より重要になるのは衝撃だ。

 光を叩きつけるに等しい衝撃を使いこなせれば、俺たちは断然優位に立つことができる。

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