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第三十一章ー5 誰が為に、何の為……

「後はここですね」


 トイレまでも専用なのかそれぞれの方角に四箇所存在する。

 しかしそこは緊急事態。互いにトイレの利用までも制限はかけてないらしく、トイレは全て共同の物になっていた。


「それじゃ私見てきますね」

「任せました」


 無論。男女の制限は設けている。寧ろこの学園ではここのみが、対立数を減らせる唯一の平和な場所なのかもしれない。


「場所から考えたら闘技場を下りてすぐのジア側にあるトイレを使うはずなんだけどな……」


 制限はないとは言え、ジア側の入り口、講堂、応援席を利用していると、トイレの使用場所もジア側に限定されるのだが、俺達はそこからぐるっと周り遂に最後のトイレに辿り着いた。

 もし、ここにいないとなると、彼女はどこへ行ったのか。

 不安が募る。彼女のことは勿論だけど、マンガルさんのことを考えると俺の身も危ない。


「そこ、いいでしょうか?」


 急な呼びかけに背筋が張る。

 凍てつくような呼びかけ。

 そこに、親切心など感じることは出来なかった。


「な、何でしょうか。レシアさん?」


 そこにいたのはシーズの女王。基、国長だった。


「あ、ト、トイレですか? どうぞ?」


 彼女も女性だし、なおかつここはシーズ側。ここを使ってもおかしくはない。

 その近くに立つ他国の生徒。しかも男子がいるなら警戒し、声をかけたくもなるだろう。


「違います。そこに用事はありません。あなたに用事があります。勇者の付き添い人」


 ……。


「それ、俺の事か?」

「あなた以外に人などいません」


 まぁそうだろうな。勇者様の話題は入学した時のあの事件で知れ渡ったからな。そんで俺が側近か。まぁいつも近くにいるからな。

 それよりも――自分以外誰もいないか。


「それは敢えて。と言うべきか」


 その答えが僅かな口角の変化によって分かった。

 笑みか。嫌な予感がする。


「あの勇者様に伝えてください本戦で私と一騎討ちになった際、負けなさい、と」


 その予感は的中する。しかも本人では無く、俺を通してか。


「そんなメリットも無い話に俺たち、ましてやベイヤールさんが従うと思うか?」


 ここは敢えて強気に出る。人がいないと言ってきたのは俺を不安にさせるためだろう。ここで彼女が俺と対峙したら確実に負ける。そもそも人がいないと言い出したのは彼女だ。本当は彼女の伏兵が潜んでいて俺を騙している可能性だってある。


 だが、それは俺にも言えることだ。

 今後ろのトイレではステラさんが控えている。こっそり聞いている可能性はあるし、もしやばい状況に陥るようなら、彼女も加勢してくれるに違いない。


「そうでしょうね。メリット何かありませんよね。あなたたちはどのような理由があれど、テンペスを目指しています、それは分かっております」

「なら。俺でどうにかする気か?」


 彼女の背後に今も佇む騎士が動いた気がした。

 あれも精霊だと考えれば大丈夫なのだが、俺の手は震えていた。でも、いざとなれば、俺の背後には最強の勇者様がいる。


「いいえ。あなたには役割があります」


 来るか。

 背後に控えているステラさんも気づいてくれていると信じて、俺は身構える。


「勇者に伝えてください。もし、あなたが勝つようであれば、お連れ様の命はありませんと」

「俺を囮にするってことだな」


 そんなことはさせないと後ろからステラさんが飛び出してくる。

 そう願った。


「まだ気づかれませんか? それとも、あの子は囮になってもさほど関係ない間柄でしたか?」


 だが、俺たちはどちらも動くことが出来なかった。

 あの子を。

 相手が揶揄しているのかと思ったが、そうでは無いと気づくまでに時間はかからなかった。

 彼女にとって、女王にとって取るに足らない存在だから、名前も、ましてや族種も話さないんだ。


「ユニちゃんのことか⁉」


 俺は叫んだ。

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