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第二章-8 手を差し伸べるけど……

「でも、今回は騙されませんから! 町の人達の為、温泉の為、あなたたちを 討ちます!」


 未だに赤面顔ではあるがその意志は強いみたいで、真っ直ぐに山賊たちを見据えている。

 けど、今回は勝機があるような気がする。先の魔物たちとは違いステラさんは動揺していない。これならきっとうまく行くはずだ。

 ステラさんが平常心であれば、何でもうまく行く。異世界勇者である彼女に俺は頼りっきりになっていた。

 俺は慢心していた。自分は助かると。


「ならば、こっちにも手がある」


 山賊の親分が猛禽類のような目で獲物を見る。

 対象は――俺だ。


「うわぁぁっ‼」


 熊が水中の鮭を捕らえるような動きで腕を振りかぶる。

 生命の危機に対する恐怖もあったが、何より全裸のおっさんが俺に向かって飛び掛かってくるのは違う意味で恐怖を覚える。

 何とか逃げようと試みるが、濡れた衣服が足枷となり、身動きが上手く取れない。

 一方何の抵抗も無い見た目通り、ありのままな親分は一気に間合いを詰め、俺の体を捕らえた。


「ぶべっ。ぐっぼ!」


 圧倒的腕力で押し倒そうとする親分に抗う事は敵わず、温泉の中に引きずり込まれる。

 視線が忙しく回り水が口の中から入り込んだりしてパニックを起こす。その隙は大きく、その間に俺は山賊の親分に両手を背中に抑えられた状態で捕らえられる。


「ケイタさん!」

「おっと止まんな。こいつがどうなってもいいのか?」


 余った右腕が俺の首元に巻き付いてきた。

 何の得物も所持していないと油断していたが、大蛇のように太い腕は凶器と言っても過言ではなかった。毛むくじゃらな腕が首元をざわざわさせるのも精神的に俺を攻撃してくる。偏見的なきつい体臭が無かったのが唯一の救いか。


「ひ、卑怯ですよ!」

「褒めてくれて嬉しいぜ?」


 鼻につく高笑いが洞窟内に響く。


「で、どうするんだこいつ?」

「ぐっぐぐ!」


 問いかけると同時に右腕の力が籠ったのが俺の首にダイレクトに伝わった。酸素を得る為に自然と口が開き、情けない声が漏れる。

 ギリギリで足が着く位で締め上げているから何とかなるが、もし腕の角度がもう少し上がっていれば首吊りの状態になっていただろう。


「流石親分。人が悪いですな」

「わりぃな嬢ちゃん。これ以上は近づかさねえぜ」


 俺が人質に取られたせいで初手が出遅れたステラさんの立ち位置がどんどん悪くなる。

 ステラさんは今手に持っている剣だけでなく魔法も会得している。切り札としてそれを隠しているのかもしれないが、残った山賊たちが親分の前に立つことによって直接的な遠距離攻撃も難しくなってしまった。


「じゃあまずは剣を納めて貰おうか? 従わなくてもいいけどな?」

「わ、分かりましたから、お願いします!」


 まずい。自責の念が強すぎるステラさんが山賊の空気に飲まれていく。こんな状況を生み出した以上何とかしなくちゃいけないが、この世界では非力な俺にこれを覆せる力はない。

 でも、諦める訳にはいかない。


「落ち着くんだステラさん! ここは一旦村に戻るんだ!」

「黙れ! こんな上物逃がす訳ねえだろ?」

「んぎぐぐっ‼」


 首に圧がかかる。人質の扱いが上手いらしく苦しく、死なずの絶妙な力加減で俺の首を絞めてくる。


「もし戻るんなら俺たちの為に飯を用意してもらおうか? 勿論、ステラちゃんの手料理で」

「おっ。それいいじゃねえか」

「飯の後は勿論、ここでご奉仕だよな、ひっひっひ」


 くっそ。好き勝手言いやがって。ステラさんが嫌悪感と罪悪感に揺れて可哀想じゃないか!


「そんなもん必要ねえだろ。ここにはヘインスの町から盗ってきた食いもんが大量にある――ぐぇっ!」

「物覚えの悪いガキだな。そんなにくたばりてえか? それとも、彼女を困らせてやりたいのか?」


 何をやっているんだ俺は。強盗や不審者が来た場合抵抗はせずに刺激しないようにするってコンビニの講習でもあっただろ。手に負えない者は専門家、日本で言えば警察、異世界で言えば勇者に任せるべきではないのか?


「町から盗んだのなんてずいぶん昔だから食いもんなんてここ最近そこら辺の魔物肉しか食ってねぇよ」

「昔は野菜なんか食えるか! とか言っていたけど、不味い魔物肉ばかり食っていると恋しくなってくるぜ」

「ぜ、全滅させる勢い、で何を……」

 

 勝手なこと言いやがって。ずいぶん昔な訳が無いだろ? 俺は見たんだ。歴史で見た貝塚ならぬ骨塚のごとき骨の山を。

 あれだけの肉があればお前たちなら年単位で。


 待てよ……。

 俺はまた力を入れる親分の攻撃に耐えながら確認する。

 1、2、3、4……。

 少ない。山賊と聞いていたから何十人もの集団を思い浮かべていたが、これだけの騒ぎとステラさんと言う新鮮な少女がいるにもかかわらずこれ以上出てくる様子が無い。


 そういえば――冷静になってみればおかしな点がいくつか存在することに俺は気づく。

 ヘインスの町はかなり小さな町であり、山賊に手出しすることが出来ずに勇者を待っているような町だ。ならばこれだけ屈強な山賊たちが襲い掛かれば一溜りも無いのではないか? なのに襲われていない。我が村の産物が奪われているのにも関わらず取り返しにも来ない町民。そんな弱腰の町に攻め入らない山賊。

 その理由。実は山賊がこの四人だけじゃないのか?

 それなら攻め入らない理由に納得がいく。


 でも、だとすれば。

 四人であれだけの肉を食せるか。そうでなくともここまで持ち帰ることが出来るのか。何らかの道具が無ければ出来ないだろう。ましてやそれだけの肉を冷蔵庫も冷凍庫も無いこの世界で必要以上の生ものを保存することは出来ないだろう。


 それに、長は何と言った?

 食い荒らされたと言ってなかったか?

 それを四人で?


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