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第二章-7 手を差し伸べるけど……

 そして悲鳴をあげた。

 何故そうなったのか一瞬理解出来なかったが、手で目を覆う仕草を見て得心する。

 そう言えば山賊の親玉、裸だった。一人暮らしになってから家ではシャワーのみの生活が続き、湯船に入りたければ銭湯に行くのが基本となっていた。だから裸のごついおっさんと言う存在に違和感を覚えることは無かった。

 けど、ステラさんは――いや、世の女性大半はそうもいかない。

 包み隠さず生まれたままの姿で成長した男、おっさんを直視するなど容易いことではない。


「誰だ⁉ こいつの仲間か⁉」


 そんなステラさんの反応を見ても何とも思わないのか、男は隠す素振りをしない。豪胆か鈍感か、はては羞恥心が無いのか。


「何だ、えれえ可愛い子が来たじゃねえか」

「ずっと山暮らしだったからだいぶ溜まってたんだぜ」

「あんたなら特別にここの温泉に一緒に入ってもいいぜ?」


 基、ただの下種だ。

 道徳を外れた男たちには配慮が無い。嫌がる行為を息でもするかのようにやってのける。

 それを指摘すべきはずの勇者が悶えているから、俺は変わりに訴えかける。


「ふざけるな! この温泉はヘインス村の温泉だろ? それを私物にするなよ!」

「そうです! あなたたちのせいで私は温泉に――ヘインスの村の人達は困っているんです! 助けを求めてくれる人の為、あなたたちを断罪します!」


 ステラさんは剣を抜き構える。そのせいで目を覆う存在が無くなったせいで赤面しながら目を反らさざるを得なくなったステラさんに失礼ながら愛らしさを感じる。


「ちっ。貴様らあの村の差し金か。言っとくがここは誰の物かなんていつ決めたんだ? この源泉は自然に出来たもんだから誰のもんでもないだろうが!」


 全く持って下種だ。山賊だからそれが誉め言葉になってしまいそうだから敢えて言わないがそんな言葉に納得する人間など、この世にはいない。

 もしこれが共有と言う形でヘインス共同温泉の営業に支障が出ないほどの量を拝借していたならまだ分かる。が、こいつらは一切を塞き止め、何一つとして分け与えようとはしなかった。それに、これが村にある自身(山賊たちの言い分)の食料源を奪った報復のためだとするのであれば、最早弁明の余地さえない。

 だからステラさんが戸惑う必要も無い。後は、切り捨てる勇気が。


「――――ステラさん?」


 あるかないかの前に何故かステラさんが困惑している。

 一体どこに困惑しなくてはいけないのか? 疑問に思う中でステラさんの口元が世話しなく動いていることに気付く。

 俺は少しずつステラさんとの距離を詰めるように耳を傾ける。


「た、確かにここは自然に出来た物で誰の所有物でも無く、強いて言えば山の所有物であって、私だって旅の途中川の水を飲んだり、薬草を取ったりしていますからそんなに強くは言えませんよね……」


 何か納得しちゃってるー⁉

 山賊の言葉に騙されてる⁉


「ステラさん誤解されちゃ駄目です! この温泉はヘインスの人達が時間をかけて整備してヘインスの町まで引いた時間と労力があったからこその温泉です!」

「はっ! そうでした! ここはヘインスの人達が汗水流して発掘した場所なんです! それを横取りすることは悪です!」


 な、何とか立て直してくれた。まさか山賊の言い分に流されそうになるとは。


「あぁ? じゃあ独り占めは良いってのか? 皆いい湯に浸かりたいってのに独占は良いってのか? 俺たちは分け与えて貰ってるだけだ。どこが悪い?」

「そ、それは――独り占めは――」


 だぁぁー! また流されてる!

 と言うか真に受けるまでだいぶ早いですよね!


「あのチョロチョロ湧き水程度で分けて貰えていると考えたらいけません! 独占しているのはこいつらです! それにあれを見てください! 源泉を流す水路が完全に遮断されているのは悪意でしかないですよね?」


 黒いニスか漆が塗られている腐敗防止加工された木製のU字溝に大きな岩がいくつも詰め込まれている状態を見て無罪と言える人はいないだろう。人質ならぬ水質を逃がす気はさらさらないのだろう。


「だ、騙しましたね! あなたたちはそうやって自分の都合がいいことをあたかも道徳に沿ったような話をして、私を毎回騙すんですね! その後私を伝書鳩がわりにしている間に夜逃げして跡形も無く消えて!」

「昔同じようなことがあったんですね……」


 異常なまでにリアルな説明に得心する。山登りの最中に思い出していたトラウマはこれだったのか。

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