第十七章-4 決意の先には……
懐中時計の転移範囲は今までの経験からして時間を10年近くから1000年以上まで幅広く跳ぶことが出来る。それなら、奥さんが事故を起こす前に戻ってアンドロイドを変えるなり、或いは雇わないなりするべきだったのではないか。
「もう遅い。彼女はアンドロイドといる生活を大切にしていた。けど、俺は長い時間アンドロイドを憎んでしまった。結果はどうあっても変わらない。これからすることも、決めて、いや決まっているんだ」
健三の決意を聞いたと共に、裁判は閉幕へと向かっていった。
莫大な量の資料と実物を参照に裁判官と、オーディエンスの頭を縦に振らせ続けた来輝コーポレーション側。
曖昧な供述と口の震え。挙句には建築ミスによる階段が原因では無いかと疑い始める加害者側の弁護人。
幼稚園児と社会人の言い争いのようなやり取りでは、結果など見るまでも無かった。
自ら雇ったはずの弁護人に怒鳴る姿が裁判官の最終勧告に違反したのか、健三はアンドロイドたちに囲まれて強制退出されていた。勿論、過去の健三だ。
こっちの方にいた健三は、既に動いていた。
「何処に行く気だよ?」
「決まっているだろう」
健三の目には覚悟が見えた。その時俺は初めて、健三の隠れていた柱が加害者側、来輝コーポレーションにあることに気付いた。
「ステラさん! あいつを止めるぞ!」
「分かりました!」
が、健三は俺たちよりも早く動いていた。まるでこうなることを全て知っていたかのように。
銃声が鳴り響く。
オーディエンスにいた人たちが悲鳴をあげて一つしかない入り口めがけて雪崩れ込む。俺たちはそれを逆流する。
向かう先は加害者側、来輝コーポレーションの人達が座っていた後ろにある待機部屋だった。男が最初にこっち側に近い場所で待機していたのはそういうことか。
観客席から議場に下りられる場所には入り口同様ゲートマンとなるアンドロイドがいた。が、いただけであり、既に何者かによって機能停止させられていた。
そして瓦礫と化したアンドロイドの山は、待機部屋に近づくほど数を増し、資料用に用意されていた介護用のアンドロイドでさえ、破壊されていた。
これ全部やったのか?
いや、それ以前にこれだけいるにも関わらず健三は乗り込む気でいたのかとその執念に払ってはいけない敬意を払いたくなった。
「それよりも、このままだと俺たちも事件に巻き込まれる。何より、あそこの部屋に出入り口があそこの一ヵ所しか無かったら。袋小路になる」
「だからといってケンゾウさんを見捨てる訳にはいきません!」
「いや、あの人なら大丈夫だろうけどさ」
無論ステラさんもいることだからその安全性は更に増す。ただ、この騒動が原因で本来の目的から遠ざかってしまうのは勘弁したい。これではいつまで経っても元の世界に戻ることが出来ない。
俺の依頼は長くなりそうだから後回しでいいと伝えたが、実際はもう終わることも出来るんだよな。
そのキーが今どこにあるかという問題はあるが、一回目の場合は予期せぬアクシデントで飛ばされたと断定。二回目の場合は俺が大切な道標だと信じて放さなかったから俺の手元に残った。
さて、三回目はどうなる。
俺とステラさんが持っていなかった以上、健三の元にあるか、或いはまたどこかに飛ばされたか。
その二つを考えてみて、最も危惧しなければいけないのは勿論前者だ。ここで彼の姿を見失う訳にはいかない、結局の所俺たちに残された選択肢はそれしかなかったのだ。
「だ、誰だお前は!」
驚愕する声。その返答は銃弾で返されたのか、それ以降の反論は無かった。
「うっ……」
部屋に入った瞬間凄惨な光景を目の当たりする。
下半身のみとなった男が横たわっていた。その上半身は数え切れないほどに分断、分裂され、床と壁、更には天井にまで張り付いていた。
健三は幾つかの銃を所持していたが、そのうち一番強烈な物をこの男に撃ち込んだのだろう。
「だ、誰ですか?」
この部屋の中では数少ない息のある人間。その一人が、健三に問いかける。
そこにいたのは本来ここにいるはずのない、被告側健三の弁護士をしていた男だった。
男は恐怖と歓喜の混じった表情をしていた。あのどぎまぎした供述からして何か良くないものを抱え込んでいるでのは無いかと思っていたが、実際そうだったらしい。
「いえ、それよりもここを出ましょう! 妻が! 息子が人質に取られているんです! 来輝コーポレーションに嘘の資料を手渡され、この通りにしなかったら家族の命が無いと脅されていたんです! もう敗訴は決まりました! だから今から行けば間に合うはずです!」
男は涙ながらに全てを語った。よくあることだが、家族を人質に取られていて、相手の操り人形に成り下がっていたみたいだ。
「それなら心配いらん」
「え?」
健三の銃が弁護士に向けられる。




