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第十七章-3 決意の先には……

 議場は俺が知っている物に形は極めて近かった。

 しかし、木製では無く、どこもかしこも大理石でも無いプラスチックでもガラスでも無い不思議な素材で作られていた。敢えて一番近いもので例えるなら、アンドロイドの部品。中央にはホログラムには裁判の証拠品や現場の映像が流されていた。

 奥には裁判官と思しき人物が五人。

 そして裁判官、及び入り口から入った俺たちの左右に対立してると思われる二人。

 片方はアンドロイドを後ろに何人か従えた恰幅のいい男。

 もう片方は細身で、丹精な顔立ちの――あれ? あの人どこかで。


「ケイタさん! いました! あそこの影に!」


 俺が議場の様子を見ていた所、ステラさんが俺の袖を引っ張りながら一点を指差す。

 議場を囲うように用意されオーディエンス席。その更に後ろに建物を支える人一人分ほどの柱が立っていた。その柱と壁の影に隠れるように、あの男は息を潜めていた。見る人が見れば、完全に不審者だ。


「お前何してんだ」

「静かにしろ」

「あのアンドロイドを黙らせたのもお前だろ? 監視カメラに映っていないだろうな?」

「いいから黙れ。どのみち後には引けん」

「後に引けないって。お前何する気なんだ」


「どういうことだ! この前は確かにあった欠陥がどうして残ってないんだ!」


 男は俺に癇癪を起したのか、意味不明なことを言って怒鳴り散らしてきた。

 ……いや、俺はずっと男を見ていた。男の顔はそんな怒号とはまるで似つかない寒気すら感じる静けさを装っていた。


「被告側静粛に」

「昨日提示された資料と違うじゃないか! これを見ろ!」

「被害者側健三氏、静粛に」


 被害者側の男、健三の訴えをまるで聞こうとしない裁判官。


「ねぇ……あの人ってもしかして」

「…………」


 ステラさんも感づいたのだろう。俺たちの横にいる復讐心の塊。未来の健三がここを選んだ理由は、この裁判に関連しているんだと。


「加害者側来輝コーポレーション、忠雄検事、続けてください」

「はい。今回被害者側より指摘されたアンドロイドの精密検査を行った結果。それらしい不備は一切見られなかったことが、この資料によっておわかりいただけると思います。今回の事故はアンドロイドの補える許容範囲を超える動作を、被害者側の妻、鈴音が起こしたことによって発生したものと」

「鈴音は妊娠5ヶ月だったんだぞ⁉ 最高重量300キロまで支えられるアンドロイドが支えられないほどの動きをするわけがないだろ!」

「静粛に! 今は被害者側の供述中です」

「暴れる様子が無かったのは昨日も証明済みだ! その資料を出せ! 今すぐ!」


 裁判、とはこんな物なのだろうかと思う罵倒の連続。

 男、健三は昔も全く変わらない性格をしていたようだ。


「全く変わってねえな」

「変わったのはこの日からだ。これが始まりだ」


 それを健三は否定する。隠れているとはいえ、今までとは別人のように静かな健三に違和感を覚える。


「静粛に。被告側、供述は?」

「以上です」

「では、加害者側。龍一弁護士前へ」


 加害者側の言い分がかなりの割り込みがありながらも終了した。

 そして、被害者側の健三が雇ったと思わしき弁護士が前に出た。


 (ギリッ)


 すぐ横から俺の耳にも聞こえるほどの歯ぎしりが聞こえた。健三のものだ。

 口には出てないが、目からは異様なほどの殺意が溢れていた。

 こいつの弁護士が出た途端に現れた怨恨。その理由に至るまでさほど時間はかからなかった。


「加害者側、来輝コーポレーションの供述の通り、アンドロイドに不備は見られないことがわかりまし」

「何だと⁉」


 言い切る前に過去の健三は勢いよく立ち上がっていた。


「何故この資料が偽りだと先述しない! この前提供した証拠映像を出せ! アンドロイドの右腕が異常に折り曲がった、不良品の映像を!」

「健三氏! それ以上の許容外言動を行うのであれば退出を宣告します」

「何だと!」


 供述の違いを訴える健三。そこに裁判官からの最終警告がくだされる。


「何があったんですか?」

「はめられたんだ。何もかもに」


 純粋なステラさんは未だに把握できていなかった。健三は怒気を込めながらも溜息のようにそう呟いた。


「しかし、健三の妻、鈴音には何かしらの抵抗も無かった、或いは抵抗があったとしてもアンドロイドの順応できる範囲外の行動は起こせない物と断言します。よって被害者側の妻は何の問題も起こしていないと」


 尻すぼみな供述に、声の震え。これでおかしいと思わない人間はいないはずだ。

 けど、誰もそれを指摘するものはいない。健三以外は。


「どうなってんだ?」

「どうもこうもねえ。買収されたか、脅されたか。そうでなければ、ここまで怯えはしない」

「アンドロイドを作っている会社だから出来る所業か」

「それも俺が雇っていたのは最新型だ。階段を降りる際に右腕の部品が外れて介護者を落としたなんて知られたら、会社の尊厳を失うだろ?」


 そうか。健三のアンドロイドに対する憎しみの原点が、ここだったんだな。

 となると、この裁判の結果は――聞くまでも無い。


「お前、まさかこの結果を覆す為に?」


 俺は止めとけと口添えしようとした。なんせ一度俺は体験している。結果がはっきりと出る物では無かったが、ぶっちゃけあまり効果があったとは実感していない。あれは異世界の一種パラレルワールドであったのではないかと今になって思う。


「結果が覆ったとしても、今の俺は形成される。妻は、鈴音はあの事故で子供を失ったことで、自ら命を絶った」

「何だって? なら、ここに来た意味がないじゃないか⁉」


 男は歴史改変を自ら否定した。

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