第十七章-2 決意の先には……
「うっ……」
一瞬ではあるがあの歪みを見た。虹色の靄がかかった世界。前と比べたらかなり時間が短かった気がしたけど、その理由は分からない。
起き上がって周りを確認すると、見たことがあるような近未来的な建造物が立ち並んでいた。時間は昼間だから雰囲気は全く違うし、建物もかなり多い。けれど、あの真四角の建物は見たことがある。あのコンビニだ。場所は違えど、世界軸は一緒だと言うことがわかった。
「う、うーん……」
「ステラさん?」
俺は声を頼りにステラさんを探す。
が、左を見ても、右を見てもそれらしい姿が見えない。
「う、うぅぅっ……」
また声がした。声は――上?
俺は声を頼りに見上げてみる。
「ぶっ!」
そしたら案の定ステラさんがそこにいた。しかし、どんなワープをしたらそうなったのか、彼女は木の枝に引っかかる形で気を失っていた。それだけでも奇跡に近いし、異常なのだが、それに輪をかけたのが体勢だ。
木の枝に両足を広げるようにかけているおかげで、スカートの中にある真っ白な下着が丸見えになっていた。彼女の世界特有の絹か綿かは分からない素材の下着が乾き切っていなかったら大変なものが見えていたに違いない! いや、もう見たけど――そういう問題でも無い!
「いったった……ここは? ケイタさん?」
ステラさんが俺の名前を呼ぶ。
俺は声を出す前に咄嗟に後ろを振り向いた。
「ステラさん⁉ どこですか⁉」
そして、あたかも見つけていないフリを決め込んだ。
「ケイタさん! こっちです! こっ――」
ステラさんが声をあげて呼ぶ。しかし、その呼びかけは長く続かなかった。気づいたんだな。
「ステラさん? そっちですか?」
「待ってくださいケイタさん! こっちですけど、こっちにはいません! いえ、こっちにはまだ向けません!」
相当慌てている様子が、背中越しに分かる。言っていることが終始めちゃくちゃだ。
「ステラさん?」
「ま、待って。お待ちになってくださいまし。あ、ぁぁー!!」
ズシーン‼
落下音というOKサインが出たので後ろを振り向くことにした。
「大丈夫ですかステラさん⁉ 何かあったんですか⁉」
「あっつっつ……いえ、な、なんでも、ありませんからね!」
必死に自分の醜態を隠そうと顔を真っ赤にしながら取り繕おうとする。
スカートについた土や草を払いながら、彼女は周囲を見る。
「成功したみたいですね。あの人が想像していた場所に辿り着けました――あれ? あの人は?」
「そういえば。あっ! 懐中時計も無い!」
ステラさんの気づいていない髪の毛の枝や葉を払いながら、俺は重大な事実に気付かされる。この世界を指定してきたはずの男がいない。ましてや懐中時計も無い。違う場所に飛ばされたとなると、絶望的だ。
「そういえば、あいつここを指定する時建物の前って言ってたよな? ステラさん、その建物ってどれですか?」
「あれです! あの建物です!」
ステラさんが指差す場所。そこには未来のスタジアムを模したかのような鋭利な三角形を天に伸ばした芸術的な建物があった。
ステラさんが男に伝えていた通り、そこには大勢の人がいた。それぞれカメラやマイクに似た形状の物を持っている。一体どうしてそんな物を所持する必要があるのか? その理由が建物前に飾られた流れる電光掲示板のような看板に記されていた。
「最高裁判所――この時代にもあったか」
「さいばんしょ?」
「ステラさんの世界には無いのかな。悪いことをした人に罰を下す所です」
「審問所のことですか?」
「たぶん、そこと似たような所かな? 裁くのは神じゃなくて人だけど」
とはいえ、審問所も実質人間が裁くような物だろ。セイスキャンを見ていたら誰だってそう実感するに違いない。
「たぶんあいつはあの中だ。中でいきなり現れると怪しまれるから、外から来場者を装って入るつもりでいたんだ」
「なら、私達もあそこに行く必要性がありますね」
「あぁ。行こう」
俺とステラさんは面倒ごとを避けるためにカメラマンたちがいない道を選び、最高裁判所に入った。
「内装が全く違うな。一体あいつはどこに行ったんだ……」
高校生の修学旅行に一度訪れたことはあったが、外装から予想できた通り内装も面影など一切無かった。頭上の電光掲示板に裁判の案内が書かれ、アンドロイドがゲートマンのように立っているのを見ると、裁判所と言うよりも映画館の方がしっくりくる。
「まさかとは思うが、チケットか証明書みたいなものが必要とか言わないよな?」
「証明書――通行書みたいなものですか?」
「そうです。それがないと、そもそも入れない可能性も」
「それじゃ探せませんよ⁉」
「いや、俺達が入れないならあいつも入れないはずだ。色々回って探してみよう。もしくは怪しい箇所が無いか探してみよう」
ステラさんと共に裁判所の外周を調べながら回る。ドーム状の設計の最高裁判所は内側に裁判所がいくつか存在し、外周は入り口兼、資料館のような役割を果たしていた。中には俺の時代にあった最高裁判所の写真も残っていた。ホログラムの標本が多い中ではカラー写真もモノクロと変わりない位古く見えた。
「あれ? あそこだけ、アンドロイドがいませんよ?」
「何のですか?」
「門番の人がです」
「門番って――ゲート管理? そんなわけが――」
ステラさんの疑問を否定しながら俺は近づいて、すぐさま離れた。
アンドロイドがいないわけではなかった。倒れていたのだ。それも周囲に稲妻が僅かに見える辺り、ショックを与えられたようだ。
「こんなことしたら確実に捕まるぞ」
「そんな。一体誰がこんな危険なこと――」
ステラさんがいいかけた言葉を飲み込んだ。
あいつしかいない。ステラさんもそのように理解したのだろう。
「今のうちに入ろう。ここに留まったら俺たちも疑われる」
俺の判断にステラさんは静かに頷いた。




