転生娘と神様姉弟
登場する神様は名前こそ明記しませんが、多くは神話知識があればわかるかもしれないです。
お姉さんのいう「碌な面子じゃない」というのがわかる筈。
地球のどことも言えない、いやそもそも地球であるのだかわからない星空を映し出した広々とした空間。そこに二つの人影がある。
片方は三十か四十代程の豪勢な和服の女、もう片方は白髪に白い髭の老人。
俗に我々が神々とする存在、果たして何を話しているのか。
「……という訳じゃ、そなたも引き受けてくれるかの?」
「事情は把握致しました、しかしご協力はできかねます」
「な、何故じゃ、西の『悪戯好き』も『脳筋バカ』も協力してくれるというのに……」
「寧ろその面子にございます、碌な遊びではないと分かっていながら何故私を……」
「『お主の弟』はもう例の物の作成に着手しておるからな」
「ええっ⁉︎」
いかにも面食らったという様子の女は今いる星空のような場所から粒子を撒いて消え去る。
女が飛んだ先は白い空間。
その足元には波一つない澄み渡った水面が広がり、人一人乗れる程の蓮の葉も浮いている。
女が着地した葉の向こう岸にはマタギのような格好の屈強な男が葉の上で胡座をかいて何かに取り掛かっている。
女が呼びかけるまでもなく男は振り向く、癖の強いツンツンした頭に無精髭という昔の少年漫画の主人公が老け込んだ姿のようなこの男も、俗物臭くも神という物だ。
「よお姉貴!3000年振りか?」
「話は聞きましたよ、今すぐ黄泉に戻してきなさい」
見るからに怒った様子の女に尚も男は飄々とした様子で話す。
「連れねえなぁ姉貴、今時ブームの『転生者』だぜ、俺昔みたいに悪い事しちゃいねえよ」
「それが不安なのです、転生者というものはあまりに大きな力のために世界の調和を乱し、あまつさえ滅ぼす者までいるというではありませんか」
「心配すんなよ姉貴、少なくともコイツにその心配はねぇぜ!それに見てくれよ、姉貴そっくりの美人だぜ」
男が見せびらかすように蓮からどくと、彼の背後には先ほどから造っていたモノ……これから彼らの管轄の世界に生まれ落ちる予定の少女の姿があった。
一糸纏わぬ姿で赤ん坊のように蹲っている彼女は、男の好みゆえか多少年若くなっているものの、たしかにその顔は彼の宣言通り女とそっくりである。
「な、なんなのですかそれは!私への当てつけなのですか!」
「照れてんじゃねーよ姉貴、ま、これで気に入ってくれただろ?」
「……媚を売っているのだとしても駄目なものは駄目ですからね、彼女が危険人物ではないという確証がもてないではありませんか」
「いやいやその心配も無いぜ、こいつの経歴を見てみろよ」
男が言うに、彼女は貧しい家庭や自分を愛さない里親にもめげずに勉学や部活に励み、剣道の大会ではかなり良い結果を残したものの、交通事故で選手生命を断たれてしまった上に、退院直後に里親に性の捌け口にされて死んでしまったとの事である。
黄泉からサルベージした直後にも男に辛く当たったという。
「昔からあなたが年下や悲劇のヒロインというものに弱いのは承知しています……」
「お、じゃあ認めて「でも駄目です、捨ててきなさい」ちぇっ……」
男は宙に浮いたままの少女を抱き抱え黄泉に……
「あー手元が狂ったあああ!」
ではなく地上に投げ落とした、投げられた娘は十代の姿から段々と幼い姿へと退行し、最後には一本の金色の筍へと変わる。
男の咄嗟の判断によって、あの少女は彼らの管轄世界に規格外の存在として生を受ける事が確定したこだった。
「あ、あなた……なんという事を!」
「心配いらねえよ姉貴、あいつはきっとあの世界では必要とされる存在になるぜ」
「ほ、本当なのですか?」