天翔隼人 それと⋯⋯
日刊ランキング2位、本当にありがとうございます!感想でも様々なご意見を貰えて嬉しいです!
【注意】勇者サイドはとっても、それはもうヘイトが溜まってイライラする内容だと思います。明後日で勇者サイドは書き終える予定なので、それまで読まずに明後日にまとめ読み、というのでもいいと思います。
僕の名前は天翔隼人。日本の高校三年生さ。
今、僕は駅前の時計台の前で人を待っている。その待ち人とは最近僕にできた彼女の事だ。
実は、僕は彼女とは付き合いたてで、一週間前に思いが実ったばかりだ。
それまで、彼女と僕との道には大きな壁があったのだけれども、先日見事乗り越え、付き合うことが出来た。
だから最近の僕の気分は有頂天さ!
と、そろそろ待ち合わせの時間だと思うんだけれども⋯⋯。
「⋯⋯隼人。」
背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。あれ?この声は僕の彼女のものではない。どうやら男性の声みたいだけれど。⋯⋯一体誰が僕を呼んだのだろう?
「⋯⋯隼人。」
再び僕を呼ぶ声。その声が聞こえた方向を見るとそこには、
「ああ、君か。こんにちは、奇遇だね!今日はどこかに出かけるのかい?」
僕の友人の青年が居た。でも、何やら目が据わっているようだ。どうしたのだろう?何か気分が悪くなるようなことが起きたのかな?
「隼人⋯⋯てめえ、自分が何やったかわかってその態度とってんのか?」
彼は意味不明なことを呟く。何をしたかって?生憎と僕には彼を怒らせるような行動に心当たりはない。
「え、何のことだい?」
と、問い返すと彼は目を見開き、続いて大きな声で僕を怒鳴りつけた。
「てめぇ!俺の彼女と浮気してるだろっ!」
浮気?さっきから本当に彼は何を言っているのだろう。
確かに、僕の彼女は前に、目の前の彼と付き合っていたみたいだけれども。
それでも彼という壁を克服して、先週より僕と付き合っている。
それは真実の愛に目覚めたのであって、浮気なんて低俗なものではない。
だから僕はその気持ちをそのまま彼に伝えてあげた。
「浮気だなんて、何を言っているんだい?彼女は真実の愛に目覚めただけさ!なんで君はわからないのだい?」
「あぁ、クソ野郎!一時期でも、てめえの事を友人だと思っていた昔の俺を殺してやりたい!」
何を物騒なことを言うんだ。僕は彼のことを今でも、もちろん友人だと思っている。
なぜなら、僕に彼女との出会いをプレゼントしてくれたからね!
彼は、僕に素敵な出会いをくれた友人さ。
ただ、何の手違いか僕の彼女に言い寄っていた時期もあったが、最終的に僕が彼女のパートナーとなれたから問題ない。
何やら僕の彼女に未練があったようなので、先日は僕と彼女の情事の画像を送って、親切心から未練を断ち切ってあげたって言うのに。
「まあ、落ち着いてくれよ。僕はこれから彼女と待ち合わせなんだ。君がここで怒鳴っていたら、彼女が怖がってしまうだろう?」
すると、今度は彼の態度が一変して何やらブツブツと呟きながらこちらを睨んできた。
なんだか不気味だなぁ。
瞬間、彼は物凄い勢いで僕へ突進してきた。
ドンっと衝撃が伝わり、僕と彼はその場へ倒れ込む。
何なんだ?と思いながら起き上がろうとするが、何故か力が入らない。
「あれ⋯⋯。」
それにぶつかられたところがとても熱い。不思議に思い、そちらへ視線を向けると。
彼の手に握りしめられたナイフが僕に突き刺さっていた。
「お前⋯⋯の⋯⋯せいだ。⋯⋯お前が、奪うから⋯⋯。」
うわ言のようにそう言っている彼を見ながら、僕の意識は闇に閉ざされていった。
―――――――――
「あれ?」
ここは、どこだろう?僕は彼に刺されて⋯⋯。
と、すればここは病院だろうか。だが、周りを見渡しても、ただ白くてモヤモヤとした空間が広がるだけで、どうやら病室ではない。
「起きたわね、異世界の人間。」
どこからか声が聞こえてくる。辺りを見回していると、白くてモヤモヤしたものが人の形に固まって、美しい女性となった。
綺麗な金髪に、驚くほど調った顔立ち。それに女性を強調するそのスタイル。
僕がその女性に見惚れていると、彼女はこちらへ話しかけてきた。
「私の名前はエンゼリカ、あなたから見て異世界の女神と言えばわかるかしら?」
どうやら目の前の美しい女性は女神様らしい。
普通ならば、何を言っているのだと疑うところだが、その美貌の前では、女神だと言われても素直に頷ける。
「わかっていると思うけれど、あなたは一度死んだわ。でも、わたしが生き返らせてあげた⋯⋯というか、今は死ぬのを保留にしてあげてるの。」
信じられない話だが、僕は確かに刺されたことを覚えている。その箇所に手を当ててみると、確かに傷一つない。
「なぜ、僕を助けたのですか?」
「それはね、あなたにやってもらいたいことがあるからよ。」
「やってもらいたいこと⋯⋯ですか。」
「まあ、日本人の高校生ならわかるんじゃない?あなたの居た所とは違う世界へ行って魔王を倒してきてほしいのよ。」
確かに、そういう小説やマンガなどがあるという事は聞いたことがある。
「それに、魔王を倒しに行ってくれたら、英雄と讃えられ、ハーレムを築けるかもしれないわよ?そういうの好きでしょ?」
ハーレム!それは素晴らしい。僕は常日頃、大勢の女性を同時に愛することが許されない日本の制度に不満を持っていた。
「わかりました!やります。僕に任せてください。」
それに、この女神様の言うことを聞いて働いていれば、いずれ女神様を手に入れるチャンスが訪れるかもしれない。
「じゃあ、異世界へ送るわね、魔王討伐は⋯⋯そうね、だいたい見積もって4年くらいかかるかしら?あなたは18歳で死んだから、あなたの魂の最盛期は18歳よ。だから、魔王との決戦くらいで18歳になるように、年齢を少し調整しておくわね。」
女神様は何やら計算をしながらこちらへ近づいてくる。
「あと私の存在は誰かに話してはだめよ。それとなにか困ったことがあれば、場合によっては手伝ってあげるわ。」
そう言って女神様は僕の手に触れる。すると僕の事を光が包み込み⋯⋯。
―――――――――
「はぁ、行ったわね。」
と、私は一人ため息をつく。私の計画のためとはいえ興味のない人間の相手は面倒だ。
それに、あの男、ゆくゆくは私を手に入れようと考えていた。何という不敬だ。この女神エンゼリカが人間のモノになるなどありえない。
そう、考え、そして私はある感慨にふける。
「女神⋯⋯ね。」
自分ながら、慣れたものだ。⋯⋯⋯⋯いや、今は私こそが人々に信仰される女神なのだ。
だが、この世界を完全に私の物にするには後一歩が足りない。
それもこれもアイツのせい。⋯⋯数百年前もアイツに邪魔をされた。【彼女と彼】が何か手出しをしてくる前にアイツを始末しなければ⋯⋯。
ああ、悪いことばかり考えても仕方ない。良いことを考えよう。
そうだ、もし勇者が上手くやれば、【あの子】を手に入れる事が出来る。
別に、女神の力を使えば、すぐに【あの子】を手に入れることもできるが⋯⋯それよりも全てを失った【あの子】に寄り添うことで、完全に私に依存させ、私無しでは生きれないようにしたい。
もし、勇者がハーレムで満足せずに私を手に入れようとするならば、その時に始末してしまえばいい。
「ふふ⋯⋯。」
私はこれから起きるであろう未来を想像し、笑みを浮かべるのであった。
―――――――――
「おおっ!」という歓声、どよめき、両方を耳にしながら僕は目を開く。
異世界転移⋯⋯は成功したのだろうか?自身の身体を見てみると、確かに中学生くらいの頃まで縮んでいる気がする。
「勇者様、召喚に応じて頂きありがとうございます。」
前方には金髪碧眼の美少女と威厳のある男性。
少女の方はドレスを着ていて、男性の方は王冠をかぶっている。
本当に異世界のようだ。続いて、男性の方が口を開く
その内容は、どうやら目の前にいる二人は王様と、王様の娘の第一王女。魔王復活の予言に伴って、僕を勇者として召喚したそうだ。
二人は僕に勇者パーティーを率いて魔王を倒して欲しいと言った。さらに、魔王を倒した暁には王女様を娶らせ、最優の王位継承権をくれるらしい。
僕がもちろん、と了承すると、翌日からさっそく、勇者パーティーに入る【聖女】と呼ばれる少女達を迎えて、旅に出る事になった。
翌日、顔合わせをする勇者パーティーの面々。
「リーティア・アステルよ。【剣の聖女】の加護を授かったわ。」
「フィナ・オルロストです。同じく、【術の聖女】の加護を授かりました。」
と、僕挨拶をしてくれる二人の少女。とても可愛らしい!まだ、幼さが抜けきれていないが、二人とも将来すごい美人になるに違いない!
「よろしく!二人とも。僕の名前は天翔隼人。気軽にハヤトって呼んでくれ!」
女神様もハーレムを作っていいと言っていた。この娘達ならば、僕のハーレムに相応しいだろう。
将来、王女様や聖女達、それに女神様が僕の虜になっていることを想像し、一人ほくそ笑むのであった。
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あれから旅は順調だ。二人の聖女の戦闘能力は目を見張るものだし、僕自身、自分でも信じられないほど強くなっていた。
念じれば自在に現れる聖剣を使い、魔王の配下達を屠っていく。
それに少し前まではちょっとした不満があったのだが、それも時間の問題で解決するだろう。
その不満とは、基本的に初対面の女の子は僕に好感を抱いてくれるのだが、聖女の二人はまったくその気配がなかった事だ。
最初はその事に困惑したが、二人と会話をしていくうちに、それは二人に婚約者が居るからだとわかった。
前の世界と同じように、またも僕の恋愛には壁がそびえ立っているようだ。
でも大丈夫、僕が真実の愛に目覚めさせてあげるから!
そう決意し、彼女達と様々な【イベント】を起こしていくうちに、やっと最近壁を打ち壊せる兆しが見えてきた。
これまで大変だったよ。まずは彼女達に婚約者について聞いてみた。話を聞いて僕が予想したその婚約者の性格は、とにかく優秀で優しく、彼女達の不利益になるような事は事前に対処して解決してしまうほど⋯⋯。という風だった。
だから、僕はそれを逆手に取った。
彼女達が危機に陥った時、わざとに放置してギリギリで助けに入る。
そうすることで、彼女達は僕の方が婚約者よりも助けてくれると錯覚する。そんな感じでだんだんと彼女達と仲を深めていった。
以前は事故を装って身体に触れたら嫌そうな顔をしていたけど。今はそれほど嫌がらない。
うん、それが正しいんだよ。もう少しで正しい感情に目覚めてくれるね?待ち遠しいよ。
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それから一年後、僕達のパーティーにさらに一人【聖女】が加わった。名前はマリア・ストレーナ。
彼女もほかの聖女に違わず、とても可憐で、すぐさま僕は彼女もハーレムに入れてあげようと決意した。
だが、またも壁があった。なんとマリアまでもリーティア、フィナと同じ婚約者が居たのだ。
きっと女神様の仕業なのだろう。おそらくは、ハーレムを築きたいのならその分の壁を乗り越えなければならない、とかそういう類の。
早く彼女にも正しき愛を教えてあげなければ。
マリアがパーティーに加わった時期には、リーティアとフィナは僕と愛し合っていて、昔の婚約者など気にもしていないようだった。
だが、マリアはそれが気に入らないらしい。何度も彼女達に注意をして、元婚約者の男に謝罪するよう要求をしていた。
可哀想に、きっと元婚約者の男に洗脳に近いことをされているんだろう。
マリアは真実の愛に気づけないでいる。
僕がどんな【イベント】を起こしても、仲良くなってくれる兆候がないのだ。
困った僕は、ふと、この世界に来る前に女神様が「困ったことがあれば手助けしてくれる」と言っていたことを思い出し、1人で近くの教会へ行って祈りを捧げてみた。
その晩、女神様は僕の夢に本当に来てくれて、アドバイスを授けてくれた。
僕は授かったアドバイスをリーティアとフィナに協力してもらって実行することにした。
うん。マリアもちょっと後押しが必要だったけど、自分の気持ちに正直になれたみたいで良かった!
―――――――――
僕達が魔王討伐に旅立ってから4年、僕達はついに魔王が居を構える魔王城まで来ていた。
王の間まで進み、相見えるのは魔王。
魔王はとても醜く、体格から女⋯⋯いや雌?であることはわかったが、その容姿は旅の途中何度も討伐したオークやゴブリンが混ざったような見た目をしていた。
残念だ。よくある異世界の物語では魔王が妖艶な美女であることが多い、そうであれば倒した後、僕のハーレムに入れてあげようと思ったのに。
こんな醜いのであれば、さっさと殺して王都へ帰ろう。
「人々の平和を脅かす魔王め、僕が成敗してやろう!」
そう言って僕は聖剣を構える。続いて、リーティア、フィナ、マリアも構えをとる。
「オマエタチハダマサレテイル。スベテハアノメガミノ⋯⋯」
何やら魔王が喚いているが聞く耳は持たない。嘘や甘言で誑かすつもりだろう。その手にはのらない!
僕と聖女達は魔王に向かって渾身の一撃を繰り出す。
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結論から言って、僕達は魔王にあっさり勝つことができた。ろくな抵抗をしなかった事は不思議だが、これで平和が訪れるはずだ。
死に際に、
「アア、マタマモレナカッタ⋯⋯⋯⋯サマ、ゴメン⋯⋯ナ⋯⋯サ。」
と、懺悔のように呟いていた魔王の姿がどうも印象に残った。
その後、僕達は王都へ戻り、皆に魔王討伐の報告と、僕達の結婚の発表をした。
皆、祝福してくれるようだった。結婚式は三日後、その時には是非、女神様にも来てもらおう。
後は、女神様を手に入れれば、ハーレムの完成だ!
そんな事を考えながら僕の彼女達と街へデートに向かおうとした時の事だった。
「⋯⋯ってレイじゃない!何であんたが⋯⋯。」
と、隣にいるリーティアがある男を見て、驚いたような声を上げる。何やらそのまま男と口論をしているようだ。
続いて、フィナが
「見苦しいです。兄様。」
と言った。⋯⋯ああ、わかった。この男が彼女達の元婚約者か。
兵士により、地べたに這いつくばらされて喚くその姿はとても無様だ。
彼は、僕の彼女達に昔つきまとっていた虫だ。僕がせっかく旅の中で追い払ったというのに、またもまとわりつきに来た。許せない。
「僕の彼女達を困らせるのであれば知り合いでも容赦はしないよ?彼女に君のような地に這いつくばっている情けない男は似合わない。さっさと目の前から消えてくれないか?」
と、僕は彼に言い放つ。こんな男でも彼女達の知り合いだ。命だけは奪わないであげよう。
すると、男は理不尽にキレて、僕に殴りかかってきた。きっと前世で僕を殺した彼のように、僕の命を狙っているのだろう。そう考え、聖剣を召喚しようとするが、
「拘束魔法。」
フィナが魔法で彼を取り押さえ、続いてリーティアが彼を殴り、黙らせた。
ははっ、言い寄ろうとした彼女達にやられているよ。
君はどこまで無様な姿を晒してくれるんだい?
それも僕の彼女に許可なく手を出そうとするからだよ?
絶望に染まった表情で痛みからうずくまる男。そう言えば貴族で、優秀な人物だと聞いた。
ここまで踏みにじられたなら、僕なら絶望で自殺してしまう程だね。
まあ、彼のこれからなんてどうでもいいけど。精々これに懲りたら僕たちには関わらないでおくれよ。
こうして、僕達は過去の未練をすっぱりと断ち切り、街へと繰り出すのであった。
勇者Side第一話は勇者天翔隼人の話でした。