表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

真に報いる相手は

これで第2部が終了になります。


今日と明日は、別の方の連載の続きを書いて、22日からこちらの作品の最終、第3部を書いていこうと思います。


あと3話くらいで完結を予定していますので、よろしくお願いします。


 女神エンゼリカ






 私の計画は順調に進んでいる。


 元々この世界を治めていた二柱の神たちから世界を奪うことも出来た。この世界で最も信仰を集めているのは私だ。いくら私より格が高い神だからといって、この世界では迂闊に私に手を出せないだろう。


 私にとって、邪魔だったあの男神の妻も醜い姿に変えて、魔物の大陸に縛り付けて魔王にしてやった。今までに二度、復活して力を取り戻そうとしていたようだが、二度とも異世界からの勇者に加護を与えて、力を削ぎ落としてやった。


 あの男神がこの事を知ったらどう思うか⋯⋯。それも全て私を受け入れなかった男神が悪いのだ。


 それに、我ながら異世界召喚システムはよく考えたと思う。


 異世界で死んだ魂をこっそりとくすねて、こちらの世界へ送り込むのだ。もちろん代償はある。送り込んだ魂は、所詮死んだものを騙し騙し再利用しているだけだ。


 長くは生きられない。


 今回の勇者も十八歳を過ぎたら、急激に衰弱するよう設定した。ちゃんと気づく事もできるように言い回してやったのに、あの愚かな男は何も気づかなかった。


 勇者にハーレムを築くよう唆してみたところ、見事に作り上げたようだが、勇者の命は一年も残ってないだろう。


 知らない本人は気楽なものだ。


 だが、働きは見事だった。最低限、魔王を討伐することだけ期待していたが、私の最後の一つの目標を大いに手助けしてくれた。


 あの人間⋯⋯レイ・オルロストを手に入れるという目標を。


 当初、レイ・オルロストの周りには邪魔な女が三人居たが、まず、私が聖女に認定することで、レイ・オルロストから離れさせ、その後に勇者はそれら全てを見事奪ってみせた。


 最初の二人は簡単だった。【聖女の加護】が通用しない魔物を送り込み、ちょっと依存心を刺激してやれば簡単に勇者の側に寝返った。それどころか、積極的に三人目の聖女を陥れる程だった。嬉しい誤算だ。


 三人目の聖女は、意思が強く、勝手に勇者に惚れる事は見込めなかったため、薬で操ってやった。まだ時々、薬の効果に抗うこともあるが、勇者と交わってしまえばその意志も、快楽の中に消えるだろう。


 ああ、順調だ。もう少しでレイ・オルロストを私の物にできる。


 うっとりと彼の姿を思い浮かべる。


 似てる、あまりにも似ているのだ。


 かつて己を受け入れなかった男神に。


 容姿も、声も、その心までも。


 彼が欲しい。かつて手に入らなかった物の代わりに⋯⋯。


 今頃、彼は全てを失って嘆いているのだろう。かつて愛した女達を勇者に取られて絶望のどん底にいるのだろう。


 そこで、私が手を差し伸べるのだ。私だけが彼に愛を与えよう。きっと彼は私に依存するのだ。そうなった彼を⋯⋯犯して、狂わせて、完全に私の物になったところで捨てるのだ。


 きっと、良い顔で泣き叫び、私に縋り付いて来るだろう。


 ああ、はやく満たされたい。






 ―――――――――






 天翔隼人






「お疲れ様、リーティア、フィナ」


 僕は、僕の彼女達に労いの声をかける。


「ええ、ちょっと疲れたわハヤト。早く戻りましょ」


「はい、明日の結婚式の準備をしちゃいましょう!楽しみですね!」


 と、微笑む二人。うん僕の婚約者(フィアンセ)に相応しい美しさだ。


 明日、僕達は正式に結婚することになる。これからもどんどん増やしていくつもりではあるが、一旦ハーレムは完成という事でいいだろう。


 そういえば、女神エンゼリカ様も明日の結婚式には来ると言っていた。丁度いい、明日はエンゼリカ様もハーレムに加えてあげよう。彼女の美貌も僕の相手として相応しいからね!


 一仕事(・・・)終えた僕達は路地を出て、王城への帰路へつく。


 それにしても、実は今回の仕事(・・)⋯⋯まあ説得の一種かな? に、ついてはリーティアとフィナから言い出したことだ。


 元々、依存心が、かなり強い娘達だとは思っていたけれど。あんな事をするなんて少し驚きだ。


 ああでも、それほど僕は思われているんだなあ。嬉しいじゃないか。


 僕からの愛情を失いたくないために、ここまで出来るなんてね。


 僕も、とびきりの愛情を返してあげようじゃないか。






 ―――――――――






 街を歩く。辺りはすべて明日の結婚式への祝福の雰囲気にあふれている。俺は見ていることが耐えきれなくなり、人気の少ない裏路地へ逃げ込む。


 ああ、そういえばこんな場所でフィナに襲われたんだな、と、独りごちる。


 昔から怖がりな子だった。俺が守ってやらねばとも思った。それは傲慢だったのだろうか。


 彼女はもう俺とは完全に道を違えた。そしてその道の障害が俺になった。


 それはリーティアだって同じなのだろう。


 二人はマリアに薬を盛って操ったと言っていた。二人は自らの意思で勇者を選んだのだ。


 もしかしたら、二人も操られてるかもしれないと思った。いや、そう思いたかった。でもきっと違うのだろう。


 彼女達は自らが憧れた者、自らを守る者に徹底的に尽くすのだ。幼すぎるまま力を手に入れた故に、それこそ、善悪関係なしに。


 でも、だからこそ、再認識できた。


 彼女達は敵だ。相容れる事の無い敵だ。


 やっぱり俺は情けない。殺されかけるまでそう認識できなかった。幼き日の幻影に縋り付き、まだ戻れると心の片隅で思っていた。


 初めは違えども、結局、勇者のために俺を陥れた。マリアを陥れた。


 繰り返すが、彼女達は勇者を選び、俺を捨てた。


 もう、俺にも彼女達への思いは無い。


 と、そこで鼻につく鉄の臭いを感じる。路地の奥からだ。


 怪訝に思った俺は慎重にその方向へと近づいてみる。


「な⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 絶句した。


 血溜まりの中、人が倒れていた。成人男性が三人だ。それだけならまだいい、いやよくないかもしれないが、ここまで混乱することは無かったはずだ。


 なぜならその倒れている人物は、


「父さんっ!」


 あわてて、駆け寄る。やっぱり父親のようだ。


 胸から腹にかけてばっさりと斬られた後がある。息も絶え絶えで、今にもその命が途切れてしまいそう。


「父さん!父さん!いったい何が?」


「あ⋯⋯あ、レイか。久しぶりだね、いやちょっと⋯⋯話し合いに、しくじってしまってね。」


 嘘だ、話し合いなどでこんなになるものか。他二人の顔も確認する。一人はリーティアの父親。もう一人はマリアの父親だった。


「レイ、勇者と聖女には気をつけておくれ⋯⋯。」


 やはり勇者達だった⋯⋯。どこまで俺を馬鹿にしているのだ。


「あれが⋯⋯将来の国王と王妃ならば、⋯⋯この国はもう⋯⋯。すまん、レイ⋯⋯もう目を開けていられないよ。せめてレイだけでも生き延びておくれ。愛しているよ⋯⋯」


 父さんの目が閉じられる。そのまま糸が途切れた人形のように動かなくなってしまった。その目は、口は、二度と開かれる事は無い。


「う⋯⋯あ⋯⋯あ⋯⋯」


 嗚咽が漏れる。勇者達は何を考えているのだ。まだ、勇者に殴りかかり、害をなそうとした俺を殺すのはわかる。


 だが、父さん達が何をした!?


 黒い指輪を強く握りしめる。手の内に爪が当たって、皮膚に刺さるほどに。


 勇者達には死すら生温い。


 明日の結婚式だ。全てはそこで終わらせる。


 俺には女神が来るという確信があった。理由はわからない。だが、確実に来ると感じるのだ。


 俺の望みは打ち砕かれた。


 あの楽園で俺を拾った方の女神に願いを聞かれた時、俺は、もう一方の俺を陥れた女神に復讐を遂げた後、リーティア、フィナ、マリアには幸せを手に入れてほしいと願った。


 だが、そんな物もうどうでもいい。


 女神だけではない。勇者も聖女も、滅ぼすべき害悪だ。救世の英雄など関係ない。


 指輪が俺の思いに呼応するように熱くなる。


 三人の遺体に上着を被せて、俺はその場を去った。


 女神の、勇者の、復讐者の思惑が混じり合う。


 終幕はもう、刻一刻と迫り⋯⋯。








次回更新は22日を予定しています。


よろしければブクマ、ポイント評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ