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とある手記より

ざまぁすき

 「俺の人生はとても幸せだった。」


 始めにそう言っておこう。これより記す内容はただの俺の行き場のない絶望感を少しでも吐き出すための自己満足だ。


 誰かに向けて伝えたい中身がある訳では無い。それでもここに記したくなったのだから。


 俺の人生を幼少から振り返っていこうと思う。


 大陸一栄えている【アースチア王国】のそこそこ裕福な伯爵家に長男として生まれたこの俺、レイ・オルロストは両親にとても愛されて育った。


 俺の家が治める領地は、辺境ではあるものの特産品の貴重な果物の生産などで潤っており、民衆からもオルロスト家は善政を敷くことで慕われていた。


 また、自分自身そこそこ容姿にも恵まれ、幼少より始めた武術、学問の稽古においても、非凡とまではいかなくても他人よりはそこそこ才能があるようだった。


 そんな俺にも少年時代に、一生大切にしよう、と思える女の子が二人できた。


 幼馴染のリーティアと2つ下の義妹のフィナだ。


 リーティアは俺が赤子の頃に、忙しい両親の代わりで乳母として俺を育ててくれたメイドの娘で、同い年の幼馴染として俺の友達にもなってくれた。また、将来、伯爵家を継ぐ俺に仕える侍女となる事にもなっていた。


 母親似の艶のある茶髪をポニーテールにして凛とした顔立ちの美少女である。


 一方、フィナは小柄で可愛らしく、透明感のある綺麗な銀髪を持ったまるで妖精のような美少女であった。


 フィナは妹であるが、両親が違って、俺が3歳の時にオルロスト家に引き取られた養子であった。フィナの両親は彼女が幼い頃に、野盗に襲われて亡くなってしまった。そこで、親戚であったオルロスト家が養子として引き取ったのだ。


 俺にとてもよく懐いてくれて、家族になれて本当に良かったと感じた。


 そんな美少女二人と俺はいつも学んだり、遊んだり、時には喧嘩したりしながら仲を深めていった。


 やがてお互いに友情や親愛を超えた好意を持っていることに気づき、俺たちは将来結婚することを約束した。


 貴族では一夫多妻は何も珍しいことではなかったし、両親に自分達の思いを伝えたところ快く了承し、応援してくれた。


 ただし、貴族としての将来出来るであろう婚約者もしっかり愛する、との約束を付けて。


 俺は家族には反対されるだろうと思っていたから、その約束は喜んで守ると両親に告げた。


 そうして第二夫人、第三夫人としてだが、晴れてリーティアとフィナと婚約者になることができたのだった。


「そう、この頃までの俺の人生は本当に幸せだったんだ。」






 ―――――――――






「はぁ⋯⋯。」


 と、ここまでを手記に記した俺は一つ溜息をついた。


 ()()()()()ということは、今は違う、ということでもある。


 薄暗い部屋の中、もうすぐ消えるであろう蝋燭が俺の溜息によって揺れる。


 ここは教会のとある一室、俺は今日ここで今、記しているこの手記を綴った後、自ら命を絶とうとしていた。


「我ながら情けない。自殺をしようと思い立ってからせめてこの世界に生きた痕跡を残したい、なんて未練がでて手記なんか書くとは⋯⋯。」


 と、自嘲気味に笑う。だがその独り言に、その皮肉気な笑みに答えるものはこの部屋には誰もいない。


()()()()⋯⋯か。いや、ただ情けないだけならこんな事にはならなかったんだろうな。リーティアも⋯⋯フィナも⋯⋯それにマリアも。()()()の事はさんざん情けないと言っていたじゃないか⋯⋯。」


 あいつ⋯⋯あの男⋯⋯。そうだ、あの男が俺から全てを奪っていった。大袈裟な言い回しかもしれないが、実際に俺は今そのせいで命を絶とうとしている。


 そう、()()天翔隼人(アマカケハヤト)のせいで。


 俺は手記に記すためこの絶望の始まりを鮮明に思い出そうとする。






 ―――――――――






「ねえ、レイ、私たちどんなジョブが貰えるかな?」


「兄様ならきっと素晴らしいジョブが貰えますよ!」


 と花が咲いたように明るい笑顔をこちらへ向けながら話しかけてくる二人の少女。


 俺の大切な将来を約束した少女達。リーティアとフィナである。


 俺達3人は我がオルロスト家の馬車に乗り、王都の教会へと向かっている最中であった。


 通常、子供たちは貴族、平民に関係なく13歳になると教会へ唯一神である女神からの【ジョブ】を授かりにいく。


【ジョブ】とは後天的に女神から与えられる能力であり、例えば【剣士】であれば剣の扱いが上手くなり、【農民】であれば耕作が得意になる。


 だが、ジョブと職業は別物であり、【商人】のジョブを授かったからといって必ずしも商人にならなければいけない訳では無いし、【農民】のジョブを持った貴族などざらにいる。


 ただ、同じ職業に就いた時にその職業に関連する【ジョブ】があるか否かによって、優位性が変わるというものだった。


 言うなれば女神様からプレゼントされるちょっとした特技のようなものだ。


 ()()()()()()()()()()()()()


「そうだなぁ、どんなジョブが貰えるかは分からないけれど、聖騎士や拳闘家とか貰えたらカッコイイよなぁ。」


 と、曖昧に返事をすれば、


「ふふっ、レイも男の子だね。」


「きっと貰えますよ!」


 と、笑みと共に元気な返事が帰ってくる。本当なら今の台詞の後に二人を守るため、と付け加えたかったのだが生憎と羞恥心が邪魔をした。


 まあ今言ったようなものが貰えなくても、将来に役立つようなものが貰えれば嬉しいかな、と心の中で呟き、そろそろ到着する教会を見て、襟元を整えるのであった。





 ―――――――――





「おめでとう、君のジョブは【神官】だよ。」


 おおっ、と周囲の神父やシスターたちが控えめながらも歓声をあげる。


 彼らにとっては将来の仕事仲間かもしれない⋯⋯。いや高確率で仕事仲間になる人物が誕生したのだから。


 どういう事かというと、【神官】とは教会⋯⋯具体的に言えば唯一神である女神を信仰する女神教の教えにおいて、女神様から直接神託を授かることができる可能性のあるジョブ、なのだから。


 これが【神官】でない者であれば、教会に務め教えを広めることは出来ても、神託を授かることはできない。


 今まで神託を授かってきたものは全て【神官】のジョブ持ちなのだから。


 当然、教会内では高待遇であり、この国では教会に務める事と貴族として領地を治めることの両立も認められている。


 むしろ教会関係者であれば貴族として箔が付くほどである。それほど女神教の影響力は強いのであった。


 俺にジョブの内容を伝えてくれた神父に向けて俺は笑いかける。


「ありがたいジョブを授けて頂いた女神様と王都の教会に感謝を。」


 そうして俺は目標通りに将来役に立つジョブを手に入れてジョブ授与の部屋を退室するのであった。






 ―――――――――






「兄様、兄様!どうでしたか?」


 退室するとすぐに扉の前で待っていたフィナが飛びついて聞いてくる。


「うん、教会内だからね。落ち着いて落ち着いて。」


 と、フィナをなだめつつも俺はニヤリとした表情を見せ、フィナの耳元で、


「神官のジョブを授かったよ。」


 と、囁く。


 大きな瞳をぱちくりとさせ、ワンテンポ遅れてからその顔に喜色の色を浮かべる。


「おめでとうございますっ、兄様! フィナはお兄様なら素晴らしいジョブを頂けると信じていましたっ!」


 先程の声など比にならないほどの大声で俺を祝福してくれたフィナに、周りの人間が驚きこちらを見てくるが、良いジョブを授かったんだな、と納得して大人達は微笑ましそうに、これからジョブを授かる子供たちは羨ましそうにこちらを眺める。


「ありがとう、フィナ。これもフィナが日頃から女神様に良いジョブが与えられるよう祈ってくれたおかげかな?」


 ああ、僕はなんて素敵な義妹を、そしてなんて魅力的な婚約者を持ったのだろうか。


 と、そこで本来ならここにいるべきもう一人の婚約者、幼馴染のリーティアの姿が見えないことに疑問を抱く。


「フィナ、そう言えばリーティアはまだ戻ってきてないのかい?」


「リーティア姉様でしたら、兄様より先に別室にてジョブ授与に行かれましたのに⋯⋯。そろそろ戻ってきてもよさそうなのですが⋯⋯。」


 どうやらフィナもわからないようだ。


「そっか。もしかしたら他の部屋の方が混んでいたのかもしれないね。」


 少し気にかかるが、ジョブ授与は今日一日で王国中の13歳になる少年少女に行われる行事だ。これだけ大勢いるならば少し遅れても不思議ではない。と納得した。






 ―――――――――






 そして待つこと1時間ほど。


「リーティア姉様、遅いですねぇ。」


「そうだなぁ。でもあれ?見てよフィナ。あっちの方。」


 と、指さす方には何やら興奮冷めやらぬ様子の男性。具体的には王都の教会で最も位の高い神官長が一枚の紙を片手にそれを読み上げようとしていた。


「皆、聞いてくれっ⋯⋯。」


 ここだ。


 ここからが俺の絶望の始まりだ。


「なんだなんだ?」 「報告だってよ。」


「神官長様、何やら嬉しそうな面持ちよねぇ。」


 周りがひそひそとこの特別な状況に対してざわめく。


 俺はあの神官長の言葉を聞いてはいけない。過去に戻れるならば今すぐにでも神官長に飛びかかってその口を塞ぐだろう。


 いや駄目だ、そんなことをしても到底過去は覆せない。


 なぜなら()()()()()


「この教会から⋯⋯⋯⋯聖女が誕生した!!!」


 聖女、それは文字通り聖なる乙女の事である。具体的に何をもって聖女か否かを定めるかというと、その身に女神からの真なる加護を与えられているか、という点だ。


 では女神の加護とは何か、というと簡単に言えば【ジョブ】の上位互換のようなものだ。


 ただ、単に上位互換と言ってもその差は凄まじい。


 例えば数百年前の【剣の聖女】は、歴史書によるとその剣のひと振りで山を砕き、海を割いたそうだ。


 同じく【癒しの聖女】は死者すら蘇らせ、治せない病など無い、と言われたほどだ。


 これがジョブになると極めたところでせいぜい木や岩を砕いたり、千切れてしまった腕を即座にくっつけ直すことが出来る程度だ。


 いや、それでも充分驚くべき能力なのだが。どちらにせよ【聖女】という存在は驚くべき能力を持った人類の希望、というような形で歴史書、絵本、逸話などで伝えられ続けてきた。


 そんな聖女が教会から出たとなれば、


「うおぉぉぉ!すげぇぇ!」


「聖女様が見られるなんて、光栄だわ!」


「なんて幸運だ!女神に感謝を!」


 と、皆が興奮し騒ぎ立てるのも致し方ない。


 が、それと同時に。


「て、ことはよぉ。」


「あぁ、伝説の通りなら。」


 そう、【聖女】が現れた時、同時期に現れる存在。


【勇者】と【魔王】だ。


 聖女を見て誰かが口にした伝説、という言葉。その内容は、


 むかしむかしあるところに【魔王】と呼ばれる悪逆非道な魔物達の王がいた。ある時魔王は人間の王国の美しい姫君を妻にしようと王国へ攻めてきた。


 魔王の配下たちの力は凄まじく、人々はどんどん傷つき倒れていった。それを見た姫君は心を痛め、自らが魔王への犠牲となることで戦争を終わらせようとした。


 魔王の元へ向かおうとした姫君は、悲しさから涙を零した。すると涙が零れた地面が光り輝き、一人の少年が現れた。


 姫君が驚いていると、少年が何故泣いているのか尋ねてきた。姫君は魔王に狙われていること、そのせいで国が滅びそうなことを少年に語った。


 すると少年は、姫君を助け出す、と宣言するのだった。国中の戦士が魔王の配下に敗れ去っていったのを目にしていた姫君は少年に無謀すぎる、と諭したが、少年は女神から授かった【ちーと】があるから大丈夫だと言った。


 それから少年の戦いが始まった。初めは誰もが少年はすぐに死んでしまうだろう、と思っていたが、少年の言った【ちーと】は驚くべきものだった。


 少年の体格からは想像出来ないほどの怪力や、国中の魔術師の誰よりも多い規格外な魔力、それにどんな凶悪な魔物達も薙ぎ払ってしまう聖剣を召喚するなどして、あっという間に魔王軍の勢力を押し返してしまった。


 それに伴い、各地で【聖女】と呼ばれる少女達が女神の加護による力に目覚めた。


 圧倒的な技量で魔王軍の強敵を切り捨てる【剣の聖女】


 凄まじい規模の大魔術を使い、大軍を一息に屠り戦局を覆す【術の聖女】


 どんな傷も瞬く間に癒し、人々を守る【癒しの聖女】


 の、三人だ。三人の聖女と少年はすぐさま力を合わせ、人類の希望として魔王軍と戦った。


 そして破竹の勢いで勝ち進み、とうとう魔王を打ち破ることができたのだ。


 魔王を討った少年は人々から勇者と讃えられた。さらに勇者は疲弊した人類をまとめ上げ、【アースチア王国】を建国した。


 王妃には、自分が救った姫君、そして力を合わせた三人の聖女たちを迎え、さらにそれを女神が祝福した。


 これがアースチア王国初代国王、タロウ・アースチアの伝説である。


 と、これがかの有名な王国伝説である。


 つまり、聖女の力に目覚めた者が出たということは、今年のジョブ授与で勇者や他の聖女達も現れる可能性が高いということだ。


「兄様、兄様、聖女ってつまり、おとぎ話とかで出てくる?」


「あぁ、そうだろうな。どんな人なんだろうなー。」


 聖女と言われてもまったく想像できない俺はフィナと共に神官長の次の言葉を待つ。


「皆の者、静かに!こちらにおりますのが、剣の聖女様でございます!」


 そう言って前へ出てきたのは、まだ自分が聖女である実感が無いらしく、少し戸惑ったような表情ながらもすぐに凛としたたたずまいで、こちらへ向き直る少女。


 「わたしが女神様から加護を頂き、【剣の聖女】となった。リーティア・アステルです!」


 「「ってリーティア(姉様)!?!?」」


 俺の幼馴染、リーティアの姿であった。









4編から構成しようと考えています


第一部は4話ほどです。

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