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依頼達成

 シルクは、血抜きが終わった『角ウサギ』を美羽に渡した。


「いいか、まずは首から腹に沿って真っすぐに切るんだ。そう、そうやって肉と皮を分けるんだ。」


 美羽は、吐きそうになるのを必死にこらえ、皮をはいでいく。


「よし、皮は、水で血糊を落としたらほしておく。肉は、内臓と分けてから燻製にするか。」


 シルクは、水魔法を発動して、皮を洗っていく。その間に、(顔面蒼白になりながら)美羽は肉と内臓を分け、肉をきれいな葉にのせていく。


「よし、次は燻製に...と思ったが、ここで焼いて食っちまおう。」


 と、美湖が準備した肉を、水で洗った石にのせていく。そして、その意思を火魔法で熱して焼いていく。


「ほら焼けたぞ。」


 そう言って、きれいに焼けたウサギの肉を美羽に差し出すシルク。美羽は、その肉を受け取り、おずおずと口に含む。口内に肉汁が広がり、肉のうまみがかむたびに飛び出てくる肉を食べながら、美羽は、泣いていた。


「そうだ。その味をしっかりかみしめろ。それが、命を奪った相手への、せめてもの償いだ。その命を糧にして、俺たちは生きていけるんだからな。これから、命を奪うのに慣れても、命に対する敬意だけは忘れちゃいけない。」


 シルクの言葉を、美羽は泣きながら聞いていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、必要な数の『角ウサギの角』を手に入れ、美羽とシルクは変える準備をしていた。討伐をしていくにつれ、美羽の忌避感も和らいでいき、吐き気に催されることもなくなった。


「よし、これで物もそろったし、町に帰って納品と行こうか。」


「わかりました。このお肉はどうしますか?」


 美羽は、作った燻製肉を指していった。討伐した『角ウサギ』はざっと50匹。そのうち3匹は二人で食べたので、47匹分の燻製肉ができていた。


「とりあえず、『収納』スキルでしまっとけ。『収納』の効果で、時間経過しないから。町に言ったら買い取ってくれる場所もあるだろ。」


 シルクは、自分の荷物を背負う。中には、『角ウサギの角』が入っている。シルクの『収納』スキルにしまわないのは、探索に出て何も持っていないのが普通はありえないので、カモフラージュのためである。


「しかし、『収納』スキルって意外に持ってる人、少ないんですね。そんな小細工をしないといけないなんて。」


「当然だ。このスキルはほぼ無制限にものをしまうことができる。周囲に知られたら、力のないものは、貴族や、大聖人の奴隷のように使われるからな。少なくとも探索者としては、Bランクにあげないといけないだろうな。」


 シルクの言葉を聞いて、美羽はあからさまにいやな顔をした。


「っと、新しい魔物だな。おそらくはゴブリンだ。この間のリベンジと行こうか。次はしっかり戦えるだろ?」


 シルクは、美羽に戦うように勧める。美羽も剣を抜き気配のするほうに注意を向ける。


「はい、今度こそ、勝って見せます。」


 少しすると、草むらからゴブリンが出てきた。手には、さび付いたナイフを持っている。ゴブリンも二人に気づいて、戦闘態勢に入った。美羽は、ゴブリンと対峙しにらみ会う。先に動いたのはゴブリンだった。手に持ったナイフで美羽に斬りかかる。しかし、その攻撃を美羽はバックステップでかわすと、攻撃が外れて、体勢を崩したゴブリンの背中に斬撃を浴びせた。ゴブリンは、そのまま倒れ動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ...」


 美羽は、肩で息をしていた。全然運動量は少ないのに、やはり「ほかの生物を殺す」という行動に、まだ慣れていないようだった。


「おお、今の動きはよかったぞ。これからも、この調子で行けよ。」


 シルクは、ゴブリンの死体を解体していく。といっても、胸部を開いて、そこから紫色の結晶を取り出すだけだった。


「ゴブリンは、倒しても素材にならない。まれに角を持つ個体がいるが、これはもってない。しかし、魔物は、心臓部分にまれにこのような魔石を持っている場合がある。ゴブリンを倒した時の一番のうまみは個の魔石だけだ。ちなみに、角ウサギには、この魔石はない。この世界の断りの中では、奴は『動物』として扱われるらしい。」


 美羽は、顔色を悪くしながら、シルクの話を聞いていた。そして、その魔石を受け取る。地はきれいに拭き取られていて、元の世界の、紫水晶みたいで見とれてしまった。


「よし、では、町に帰ろうか。」


 シルクの一言で、美羽も自身の荷物を持ち、セトリルの町に向かって歩き出した。帰り道には、特に魔物にも襲われることなく、町にたどり着いた。


「はぁ~、やっと町に着いた。シルクさん、これからはどうするんですか?」


 美羽はシルクに聞く。この後どういう風に動くべきか知らないからだ。


「基本的には、依頼の完了を依頼主に報告する。今回の場合は、まずはウリアムに依頼品を渡す。そこで、依頼完遂を確認してもらい、クランに提出する書類を受け取る。それをクランに提出すれば依頼完了だ。」


「なるほど、わかりました。では、ウリアムさんのところに行きましょう。」


 美羽は、今朝ウリアムと話した喫茶店の方向に歩き出した。シルクは、その後ろを歩いていく。


 ウリアムは、今朝と同じく商業区画の一角で露天販売をしていた。


「ウリアムさん、依頼の品を持ってきました。確認していただけますか?」


「これはこれは、確か、美羽様でしたかな。ありがとうございます。では、品物を見せていただけますか?」


 ウリアムは、露天販売に使っている敷物をもう一枚指揮、そこに依頼品を出すように示した。美羽は、収納スキルにしまっていた『角ウサギの角』を出した。その数50本。


「これはこれは、たくさん取ってきていただいたようですね。ではまずは、依頼でお願いしていた数を見せていただきます。」


 ウリアムは、美羽が出した角を一つ一つずつ確認していく。そして、50本のうち、10本が基準に達していなかった。


「はい、これで依頼分は確かに受け取りました。基準に達していない分は、買い取らせていただきますが、残りの20本分はどうなさいますか?同額でよければ、すべて買い取りますが。」


 ウリアムは、依頼完了を示す書類を差し出しながら、美羽に尋ねる。


「...シルクさん?どうしたらいいと思いますか?」


 美羽は、不安げにシルクに尋ねる。しかし、シルクは、首を振り、


「これも勉強だ。俺の助言なしでこの男と商談してみろ。」


 と、美羽を突き放して見せた。


「これは、厳しい教育ですな。しかし、貴女にとってこれはいい経験になるでしょう。それでは、交渉と行きましょうか。」


 ウリアムも、シルクの提案に乗ってくる。美羽は逃げられなくなった。


「わかりました。では、教えてください。ウリアムさん、今後、あなたはほかの町にも行くんですよね?」


「?ええ、その通りですが。」


「わかりました。では、残りの角は、基準以外のものと同額でいいです。買い取ってください。あと、角ウサギの燻製肉、47個と、ゴブリンの魔石1つも一緒に。」


 美羽は、さらに『収納』スキルから、さらに『角ウサギの燻製肉』と『ゴブリンの魔石』を出す。


「これほどとは。いいでしょう。

 『角ウサギの角』は、一つ60ルクス。基準外も同じでいいです。ですので、30本で1800ルクス。

 『角ウサギの燻製肉』は、一つ70ルクス。47個で3290ルクス。

 「ゴブリンの魔石」は150ルクスで買い取りましょう。

 したがって、合計5240ルクスで買い取らせていただきましょう。」


 ウリアムは、買取金額を提示して、美羽の出方を見ようとした。





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