初討伐
シルクは、依頼票をカウンターに持っていく。カウンターには、昨日、クランについて説明してくれ、登録の担当もしてくれたセリアが座っていた。
「あら、シルクさん。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ああ、この依頼を受注したい。可能か?」
セリアの前に依頼票を出す。セリアはそれを受け取り内容を確認する。
「はい、角ウサギの角の納品ですね。美羽さんの肩慣らしにはちょうどよさそうですね。シルクさんほどのベテランさんがついていれば、こちらとしても問題ございません。頑張ってくださいね。」
セリアは、二人にクラン証の提示を求め、二人はそれに応じる。セリアがクラン証を受け取り依頼票にかざすと、双方が光り、クラン証に依頼の情報がインプットされた。二人はクラン証を受け取ると、クランを出ていく。
「さて、まずは依頼人に確認にいくか。」
「わかりました。」
美羽とシルクは、依頼人であるウリアムに会いに行った。
ウリアムは、商業エリアの一角で露天販売をしていた。
「失礼、あんたがウリアムか?」
シルクは、ウリアムに話しかける。
「ええ、私がウリアムですが、あなたは?」
「俺はシルク。探索者クランの依頼を受けてきたものだ。こっちは美羽。依頼内容の確認に来たんだが、邪魔だったか?」
「あ~、そうでしたか。では、少し場所を移しましょう。」
ウリアムはそういうと、自分の露店を手早く解体して、近くにある喫茶店に二人を案内した。
「では、改めまして、私は行商人をやっております、ウリアムと申します。この旅は、私の依頼を受けて下さしましてありがとうございます。」
ウリアムが改めて自己紹介をする。美羽とシルクもそれに倣う。
「では、依頼内容の確認ということで。私が納品いただきたいものは、『角ウサギの角』です。しかし、これは個体によっては長さが変わってしまうので、基準としましては、長さが25cm以上のものとさせていただきますが、それ以外のものも一本50ルクスにて買い取らせていただきます。あと、できれば傷はついていないものがよいので、そのようにお願いいたします。」
「なかなか、厳しい内容だな。これで2000ルクスってのは案外ぼったくりじゃないのか?」
シルクが、少し発破をかける。
「ええ、確かにそう思いますが。しかし、基準以外のものも買い取らせていただきますので、それで手を打っていただきたいところです。」
ウリアムは、笑顔を崩さずに答える。
「...あのぉ、もし、この依頼中にほかのものを採取してきたら、それも買い取っていただけますか?」
美羽が、おずおずといった感じで、会話に参加する。
「おお、かまいませんが、私が必要とするもので、という範囲になりますな。といっても、物珍しさが行商の基本です。商品になりそうでしたら買い取りますよ。」
「わかりました。シルクさん、私、この依頼頑張ってみます。」
美羽は、シルクに向き直る。シルクもため息を一つついたが、
「ああ、もともとこの依頼は、報酬ではなくお前の技術向上のためだからな。ウリアム、この依頼受けさせてもらう。期限は?」
「そうですね。今日を含めまして4日ですな。その翌日の早朝には出立いたしますので。」
ウリアムの返事に、シルクは十分だと伝えると、
「これは、ここの代金だ。商人に借りを作るのは遠慮したいんでな。」
と、銀貨3枚300ルクスを机の上に置き、美羽を連れて立ち上がる。
「これはこれは、手厳しいですな。依頼品納品の件、よろしくお願いいたします。」
ウリアムは、その銀貨を受け取り、シルクたちを見送った。
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シルクは、美羽を連れて街の外の草原にやってきていた。
「よし、これから角ウサギを探すぞ。角ウサギってのは、間ぁ、角が生えたウサギだ。角の長さは個体によって変化するが15cmから35cmくらいの間で、体は普通のウサギくらいの大きさだ。だが、性格は共謀で肉食。得物を見つけたら、その角を使ってものすごいスピードで突っ込んでくる。そして突き殺すんだ。といっても所詮はウサギだ。普通なら子供でもよけれる。だから、お前の訓練にちょうどいい。しかも、肉はうまいしな。」
シルクは角ウサギについて説明してくれた。
「う~、ウサギを殺すんですか。ちょっと罪悪感が...」
美羽は、元の世界では飼育委員を進んでするほど動物好きで、休みの日には、親に頼んで動物園に行くのが趣味だった。
「なに言ってるんだ?言っとくがやらなきゃやられる世界なんだぞ。もっと割り切れ。といっても難しいかもしれんが。ほら、噂をすれば一匹来たぞ。」
シルクが指さす先には、一匹の角ウサギがいた。すでに美羽たちに気づいているらしく、唸り声をあげて威嚇している。
「ほら、奴さんはやる気満々だぞ。お前も剣と盾を構えな。」
そう言いながら、シルクも自分の剣を構える。美羽も、それに倣って剣を構える。角ウサギは、威嚇をやめ、一直線に美羽に突っ込んできた。
「っ、ああ!」
その突進を何とか盾を構えて防ぐと、角ウサギは盾にぶつかった衝撃で弾き飛ばされていた。
「そうだ。まずは盾で攻撃を防ぎ、敵の隙を作るんだ。」
シルクの指示を聞き、再び盾を構える美羽。角ウサギは、再び美羽に突進を繰り出す。その軌道にしっかり盾を合わせていき、再度攻撃をはじく。
「いいぞ、その調子だ。そして、攻撃をはじいたら、そのすきに剣で攻撃する。次のタイミングでやってみろ。」
シルクに言われ、美羽はもう一度盾を構える。角ウサギは、再び美羽に突進を繰り出すので、先ほどと同じように攻撃を防ぐ。角ウサギは弾き飛ばされ、大きな隙を作る。
「やぁぁぁぁぁ!」
美羽は声をあげながら、角ウサギの腹部に目がけて剣を突き立てた。
「ギュニャ~~~!!」
角ウサギは、断末魔の声を上げて息絶えた。
「よくやった、美羽。初戦では大したもんだ。」
シルクが、美羽に対してねぎらいの言葉をかける。
「はぁ、はぁ、はぁ......」
しかし、美羽は、心臓の鼓動が収まらないようで、荒い息を繰り返していた。
「おい、大丈夫か?」
シルクも、少し心配になったようで、美羽の肩を支えるようにして立たせる。少し収まってきたようで、
「すみません、シルクさん。まだ、命を奪うのには慣れないです。」
と、小さくつぶやいた。
「仕方ないさ。もともとの価値観てのは、そうすぐに変化するもんじゃない。難しいかもしれんが、少しずつ慣らして行け。だが、今日の借りはまだ続けるぞ?」
「はい、よろしくお願いします。」
美羽は、何とか声を張り上げシルクにむきなおる。シルクもうなずき返し、
「よし、じゃあ、次の得物を探しに行く前に、この角ウサギを解体していこう。」
そう言って、ポーチからサバイバルナイフのようなものを取り出す。
「いいか、よく見てろよ。」
と、美羽に指示を出してから、角ウサギの角を持ち首を落とす。
「ひっ、!!?」
小さく悲鳴を上げる美羽。しかしシルクは止まらず、
「まず、首を落としたら、足を持って血を抜くんだ。でないと、血が体の中に残って、肉がまずくなる。」
そう言って、足を持ち上げ血が首から流れていくのをずっと待つ。美羽も、顔を白くしながらそれを見ている。やがて、血が流れなくなったところで、
「次に、皮をはぐんだ。最低でも、これくらいの技術を付けないと、探索者にはなれないぞ。」
シルクに真顔で言われ、美羽は、顔面蒼白にしながらもうなずいた。