初めての町 セトリル
「いい加減、そのしょぼくれた顔直せよ。そのうちに慣れなきゃいけないことなんだから、今のうちに慣れとけ。」
シルクは、いまだ暗い顔をしている美羽に対して、ため息をつきながら話しかける。
「はい。でも、私がいた世界では、ほとんどの人が、自分の意思で相手を殺すことはいけないことだっていう、共通の認識があったんです。それを破ってしまった。まだ、自分の心の整理ができません。」
暗い表情のまま、美羽は答える。シルクはそれ以上話しかけることをしなかった。
無言のまま歩き続け、二人の視界に石壁が見え始めた。それはどんどん大きくなり、また、左右にも長く続いていることが、近づくにつれわかるようになってきた。
「お、見えてきたな。あれが俺たちの目的地。『セトリル』だ。大きいし、物価も安い。治安もある程度は安定してる。結構いい街だぞ。」
シルクの声を聴いて、暗い顔をしていた美羽も顔を上げ、町を囲む石壁を見た。それは街をぐるりと加工用に建造され、高さも人が10人では足りないくらいだった。その壁の前で、人が列を作ってんランでいた。
「あの、シルクさん。あの人たちは何をしてるんですか?」
「ああ、あれは、入街手続きの順番待ちさ。ある程度の大きな町は、貴族が納めている場合が多い。だから、問題のあるやつを引き込んでしまうと厄介なんで、ああやって、犯罪歴なんかを調べてるのさ。クラン証には、今まで、犯罪を犯していれば表記されていく。その罪を償ったどうかもな。だから、クラン証を見せるだけでほとんど素通りできるんだが、クラン証がないと、あの列に並ばないといけないんだ。」
シルクが説明してくれる。美羽は、自分がクラン証を持っていないことを思い出した。
「あの、シルクさん。私、クラン証持ってないんですけど...」
おずおずと聞いた美羽に対して、シルクは、
「は?そんなことはわかってるよ。あんたが『迷い人』なら、この世界の者を持ってるほうがおかしいわ。それに、町に入るときは金もとられる。最初から一緒に並ぶつもりだったさ。」
ぶっきらぼうに言う彼に、美羽は「ありがとうございます」と小声で伝えた。
順番を待っていると、ついに二人の順番が来た。
「ようこそ、セトリルの町へ。この町に来た目的は何でしょうか?」
受付の係員に、町に来た目的を聞かれ、二人は、
「私は、探索者クランに入るためです。」
「俺は、道中で彼女を保護したので、この町で最低限の生活ができるようになるまで面倒見ることです。」
二人の返答に、係り員は納得し、
「では、入街税をお支払いください。おひとり200ルクスとなります。」
シルクは、400ルクス。銀貨4枚を係員に渡して受付を通る。美羽もそれについていく。受付を過ぎると大きな正門があり、それをくぐるとセトリルの町が広がっていた。
「うわぁ、大きな町ですね。」
「まぁな。この町はここいらの町では一番でかい。それにクラン支部も周辺の支部を取りまとめるほどの規模だからな。この町でなら、新しい人生のいいスタートダッシュが切れるんじゃないか?まずは、クラン支部に行って、探索者登録をしようぜ。俺も、この町の拠点登録をしないといけないしな。」
シルクが、支部に行くことを促すと、美羽はそれに続く。
クラン支部は、正門から伸びる一直線の道をまっすぐ進むとそこにあった。白い石を切り出し、規則正しく積んであり、ところどころに窓もある。正面入り口には、剣を交差させるように伊賀枯れた旗がはためいていた。
「ここが、この町のクラン支部だ。ここで、クラン員となり、仕事をあっせんしてもらったり、討伐した魔物の買取なんかをしてもらうんだ。さ、入るぞ。」
美羽はシルクに手を引かれて、クラン支部の中に入っていく。そこには、様々な姿をした人たちが、それぞれのカウンターに並び、仕事の報告や、報酬の受け取りなどをしていた。シルクは、探索者用のカウンターに行き、受付の女性に話しかける。
「すまない。この子の探索者クランへの登録と、俺の拠点変更の登録をしたいんだが?」
すると、女性は営業スマイルをして、
「はい、ようこそ、セトリルのクラン支部へ。今回対応させていただく、セリアと申します。よろしくお願いいたします。えっと、それではまず、こちらの肩の探索者登録からさせていただきます。」
セリアと名乗った係員は、カウンターの下から一枚の紙を取り出した。
「まずは、クラン登録ありがとうございます。最初にクランと探索者についてご説明いたします。
クランとは、国家が運営する相互扶助の組織です。基本的には、だれかが、困っていることを私どもに相談し、それをクエストという形で皆様に斡旋する。達成したら、報酬が発生する。という流れになります。
また、国家がバックについているので、権力者が横暴なことを言うこともありませんし、もし言われたら、クランに報告ください。厳正な審議を経て、たとえ貴族様でも処分されます。
クランには、探索者、騎士、商人、生産職の4つのカテゴリーがあります。
探索者は、いわば『何でも屋』です。町の警備や、素材採集、魔物討伐など、仕事は多岐にわたります。
騎士は、町や権力者にやとわれて、雇い主を守ることを生業とします。
商人は、私どもクランや、生産職などから素材や、アイテムを買い、それらを販売する職業です。
生産職は、様々な素材から、日常生活に必要なものから、ポーション、武器、防具まで、様々な物品を作る方々です。
さらに細かく分けていくと、魔法使いや、剣士、守護騎士、行商人、薬剤師など、きりがありませんが職業も多岐にわたります。
クランについては、これくらいでしょうか。何か質問はありますか?」
セリアは、一度言葉を区切り、確認をしてくる。美羽はありませんというと、
「では次に、探索者について説明いたします。探索者は先ほども言いました通り、『何でも屋』です。そして、探索者にはランクが与えられます。ランクはクラン証の色で判別し、一番最初から、
Gランク→白
Fランク→赤
Eランク→青
Dランク→緑
Cランク→黒
Bランク→銅
Aランク→銀
Sランク→金
となります。
また、クラン員としてのルールですが、
・依頼は、依頼者としっかり密に話しておく。
・依頼内容を確認した時点では、依頼を拒否することができ、違約金も発生しない。
・内容を確認し、続行した場合、完了できなければ失敗とし、ペナルティーとして成功報酬の半額をクラ ンと依頼者に支払う。
・ただし、依頼内容が全く異なる場合は、その限りではない。会話を録音できる魔道具をクラン登録時に一つ支給するため、確認可能。
・クラン員同士の諍いは、決闘にて決める。クラン支部に備え付けられた決闘上で、クラン従業員の立会いの下に勝敗を決め、反故にすればクランを脱退、奴隷落ちとする。
・依頼主、および、一般人に危害を加えた場合、その日がクラン員にある場合は即刻奴隷落ちとする。
・探索者は、ひと月に1回以上、自分のランクと同じ難易度の以来の達成、および、一つ下のランクを持つ魔物の討伐をしないと、クラン資格をはく奪する。
・探索者は、納税しなくてよい。以来の達成報酬から、支払わなければならない金額を少しずつ差し引いている。また、満額支払い終われば、その年は差し引かれない。
と、こんな感じですね。どうしますか?登録されますか?」
説明が終わり、セリアは、美羽に問いかける。美羽は、一度シルクを見るが、
「はい、お願いします。」
セリアを正面から見て、堂々と言い放った。