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再戦

 美羽は、剣を握りながらも地面にうずくまっていた。シルクは、美羽が泣き止むまでその場で彼女を見守っていた。


 しばらくして、美羽が落ち着き立ち上がってシルクのもとに戻る。


「...すみません、私、できませんでした...」


「いや、『迷い人』、しかも、あんたほどの年の女の子が、一発本番で魔物と戦うことができるとは思ってなかったよ。むしろ、最初にあの覚悟をできるほうがすごいと思ったよ。」


 シルクは美羽を慰める。しかし、美羽の暗い表情は戻らない。


「でも、私はこの世界で生きていかないといけないんです。いつまでも、あなたに助けられるわけにもいきません。一刻も早くこの世界で生きれるようにならないと。」


「待て待て、あんたくらいの年の娘が、魔物とやりあうのが普通だと思ってないか?だとしたら大間違いだぞ。確かにいることはいるが、そんな人間は少人数だ。普通は、家の手伝い軟化や、どこかの店なんかで働いてるのが当たり前だからな?」


 シルクの言葉は、美羽の胸に入ってくる。しかし彼女にとってそれは、『お前は、その辺の町娘と同じだ』と言われている気がして、よけい惨めな気持ちになってしまう。


 結局この日、美羽が立ち直ることはなく、近くの巨木に寄り添うようにして野宿となった。


~翌日~

「おい、起きろ美羽。朝だぞ。」


 シルクに起こされ、美羽は眠たそうに眼をこすっている。


「おふぁようごふぁいます~。」


 欠伸をしながらシルクの下にやってきてすとんと座る。その様子を見て、


「ったく、昨日あれだけ落ち込んでいた女の子とは思えないな。何か吹っ切れでもしたのか?」


 シルクがため息をつきながら訪ねると、


「家~、ただ、考えても仕方ないなって思っただけですぅ。私は、この世界で生きていかないといけない。今までの価値観を何としても変えないと死ぬんだろうって思ったら、やってやろうとおもっただけです。」


 眠たそうに言う美羽だが、その瞳に迷いがあるようには見えなかった。シルクは安心したように一息つくと、軽くあぶった肉と、一口大に切った果実を大きな葉にのせて渡してきた。


「ほら、さっさと食べな。それ食ったら町に向かって移動する。途中で魔物が出たら、もう一度実戦だ。」


 美羽は渡された朝食を食べながらうなずいた。その肉はあっさりとした鶏肉で、果実も口の中に残る脂分をきれいに流してくれた。


「ごちそうさまでした。それでは今日もよろしくお願いします。」


 美羽とシルクは野宿の片づけを済ませると、再び町に向かって歩き出した。しばらくは何事もなく、昨日のように美羽が、そこらに映えている植物に気を取られながらゆっくりと進んでいく。しかし、それも長くは続かなかった。


「よし、止まれ。」


 シルクに言われ、美羽は足を止める。そして、シルクが指さす方向に鑑定スキルを発動させる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 コボルト

 LV 4

 AT 31

 DF 29

 MA 2

 MD 2

 SP 30

 IN 20

 HP 50/50

 MP 10/10

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 と表示された。コボルトは、犬の顔に人間の体のような魔物で、素早く動き攻撃をしては下がるという、ヒット&アウェイの先方が得意な魔物だ。しかし、本来は群れで活動するが、今回は一匹しかいなかった。


「珍しいな。コボルトが一匹でいるなんて。だが、都合がいい。美羽、今度はあれを相手にしよう。コボルトを相手に立ち向かえるかどうか、試してみるがいい。」


 シルクはそう言って、彼女の背を押した。美羽は、腰から、ランディングソードを抜き、コボルトがいる方向を凝視する。まだ、コボルトは美羽たちに気づいていない。美羽は、剣の切っ先を地面すれすれに構え、身を低くしてコボルトに向かって走り出した。美羽の接近にコボルトも気付き、鋭い鉤爪で応戦しようとしているが、美羽の剣が下から切り上げる。コボルトの太ももにヒットし大きく切り傷を付ける。


「ぎぎゃああああぁぁぁ!!」


 コボルトは大きな叫び声をあげ、その場に崩れ落ちのたうち回る。しかし、まだ死ぬほどの傷ではなく、痛みからか、ずっと暴れている。


「美羽、しっかり攻撃で来たな。もう、奴は立てないだろう。とどめを刺してやれ。これが魔物と戦う最後の仕事だ。」


 シルクの言葉にうなずき、美羽はコボルトのそばまで行く。コボルトは、美羽を近づけさせまいと、鉤爪を振り回し、彼女をけん制するが美羽はそれを防ぎ、剣をコボルトの首に突き立てる。それによりコボルトは生命活動を停止させ、黒い霧になって消えていった。


「美羽、よくやった。魔物は死ぬとあんなふうに、霧になって消える。そして、体内で生成された『魔石』と、体の一部『ドロップアイテム』を落とすんだ。これが、クラン員以外が、魔物をどれだけ討伐したかの物差しとなる。登録するまではこれをしっかり持っておけ。収納スキルでもしまえるから、そっちに入れておくのが安全かもな。」


「ありがとうございます。」


 美羽は、そういって魔石と、ドロップアイテムを拾い、収納スキルにしまった。スキルのリストには、

・コボルトの魔石 ×1

・コボルトの牙 ×1

 と表記が増えていた。


「さて、これで戦闘の初歩も大丈夫だろう。あとは、町でクラン登録すれば、あんたはこの世界で生きていけるだろう。もしかしたら、その活動の中で、元の世界に戻る方法が見つかるかもしれないしな。」


 シルクの言葉を聞いて、美羽は控えめに笑うと、


「シルクさん、すみません。少し外します。大丈夫ですので少し待っていてください。」


 そう言って、森の茂みに入っていく。シルクは、ため息をついて待っている。その茂みの中から、少女の嗚咽がやむまで。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 美羽は、茂みに入ると、すぐにうずくまり涙を流した。


(怖い、怖い、怖い。私は、自分が怖い。この手で命を奪った自分が怖い。このまま、殺人鬼になったらどうしよう。怖い、怖いよ。お母さん...)


 美羽は、泣きながら、さっき食べた朝食を戻してしまった。しかし、そんなことにかまってられるほど、彼女の精神に余裕はなかった。涙は止まらず、吐き気も収まらない。頭の中には、さっき殺したコボルトの最期の顔。美羽は、しばらくその場にうずくまっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しばらくして、美羽は茂みから出てきた。その目元は赤くはれていて、顔も生気を感じさせなかった。


「すみません。お待たせしました。」


「はぁ。やっと戻ってきたか。って、やっぱりそうなったか。」


 シルクは、大きくため息をつくとカバンから一つの果実を出し、それをナイフで一口サイズに切って美羽の口に押し込む。美羽は驚いたが、それを咀嚼した。


「どうせ、生き物を殺した罪悪感で押しつぶされそうなんだろ。迷い人なら当たり前の行動だな。随分、平和な世界だったんだろ。そんな世界だから、生き物を自分の手で殺すことなんてなかった。でもな、この世界では違うんだ。すぐに受け入れろとは言わない。でも、これだけは覚えておけ。奴らは、こちらを問答無用で襲ってくる。それは街にいてもだ。乗り込んできて、小さい子供でも、年老いた老人でも関係ない。やらなきゃ、やられるんだ。そのことを覚えておけ。いつか、あんたに大切なものができた時、そんな考えのままじゃ、何も守れないぞ。」


 シルクの言葉は美羽の心に深く刺さった。


 



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