町への道中・初めての戦闘
「そうだ。そんな恰好じゃこの世界では生きていけないな。俺の持ってる装備をいくつかやるから着替えなよ。ついでに鑑定スキルで装備の確認をしてみな。練習にはちょうどいいだろう。」
そう言ってシルクは、何もない空間からいくつかの武器や防具を出現させた。その光景を見て美羽は驚いた。
「い、今のは何ですか!?なにもないとこから物が出てきましたよ!!?」
「おお、忘れてた。これはあんたも持ってる収納スキルの取り出しをしたんだよ。あんたには見えてないかもだけど、俺の視界には、収納スキルに収納してあるものがリスト化されて見れてるんだ。その中から取り出したいものを選んで実行すると、今みたいに出現する。ばあによっては取り出す場所を自分の手にも出すことができるぞ。」
シルクは、収納スキルの説明をしてくれた。美羽は、シルクが出してくれた装備に鑑定を発動させていく。
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ランディングソード
駆け出しの剣士が愛用する剣。
片手直剣
AT +30
IN +10
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ウッドシールド
硬質な木材で作られた盾。見た目に反し軽い。
盾
DF +40
MD +10
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クリスタルサークレット
水晶が埋め込まれた木製のカチューシャ。
頭部アーマー
MA +10
MD +10
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ウルフレザーコート
狼の皮で作られたコート。安価で丈夫なため駆け出しの戦闘職に好まれる。
胴体アーマー
DF +30
DM +10
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ウルフレザークラブ
狼の皮で作られた手甲。安価で丈夫なため駆け出しの戦闘職に好まれる。
腕アーマー
DF +30
DM +10
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ウルフレザースカート
狼の皮で作られた女性用腰装備。安価で丈夫なため駆け出しの戦闘職に好まれる。
腰アーマー
DF +30
DM +10
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ウルフレザーブーツ
狼の皮で作られた脚用装備。安価で丈夫なため駆け出しの戦闘職に好まれる。
脚アーマー
DF +30
DM +10
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と表示された。
「おお、すごい。ほんとにゲームみたいですね。でも、どうして女性用の装備を持ってるんですか?」
美羽が少しジト目になりながらシルクに聞く。その意図を理解したシルクは、
「おい、変な勘違いするなよ?それは、少し前に攻略した洞窟にあった宝箱から出てきたものだ。打っても大した金額にならんし、あんたにやるよ。それじゃ、早く着替えな。俺は少し離れてるから。」
シルクはそういうと、湖から離れ、木々の向こうに体を隠した。それから少しもこちらを見る気配がないので、美羽は着替えることにした。来ていた学生服のブレザーとスカートを脱ぎ、カッターシャツとショーツの状態になると、ウルフレザーコートと、ウルフレザースカートを身に着けていく。ローファーを脱ぎ、ウルフレザーブーツをはく。最後にウルフレザークラブを身に着け、着替えが終わる。
「シルクさーん。着替え終わりました。もう出てきてもらって大丈夫ですよ?」
美羽が声をかけると、シルクは木々の陰から出てきた。
「おお、こうやって見るとちゃんとした探索者に見えるな。では、近くにある街に行くか。そこで探索者登録をすれば、あんたもこの世界で生きていけるだろう。では、剣を腰に差せ。それから、盾の裏側に手首に固定する器具がついてるだろう。それで盾を固定するんだ。」
シルクに教えてもらいながら、美羽は剣と盾を装備する。
「ありがとうございます。後、脱いだ服はどうしたらいいですか?」
「ああ、それなら収納スキルの使い方を教えておこう。まず、収納したいものを意識する。そして収納したいと念じるんだ。」
美羽は言われたとおりにブレザーを意識してみた。すると、頭の中に『ブレザーを収納しますか?』というイメージが流れてくる。
「今、頭の中に収納するかのイメージが流れてきたろ?それをYESかNOで念じるんだ。YESって念じてみな。」
またも言われたとおりにする。するとブレザーが消えた。
「よし、次に収納スキルの取り出し方だが、まずは収納スキルに入っているものを見たいと念じるんだ。」
念じると、ステータスと同じように半透明の板が現れた。そこには、いくつもの欄が表示されていて、最上欄に『ブレザー×1』と表示されていた。
「今、あんたの視界に半透明の板が出てきたろ?そこにさっき収納した服が表示されてるはずだ。それを取り出したいと念じるんだ。」
すると、美羽の手にブレザーが現れる。それは、何もないところからいきなり現れたので彼女は驚いた。
「とまぁ、こんな感じだ。できてるみたいだし大丈夫だろう。それじゃ、そろそろ出発しよう。」
そして、美羽とシルクは湖から離れ歩き出した。
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町に向かう途中、美羽は見たことのない植物や景色に目を奪われていた。
「まったく、迷い人とはいえ、そんなに植物が珍しいか?」
呆れた口調で、シルクは言う。何せ、美羽が寄り道しなければもっと先で進めているはずだからだ。
「すみません。でも、ほんとに見たことないものばかりなんです。好奇心が抑えられません!」
対する美羽の顔は、とてもうれしそうだった。その表情を見るとシルクも強く言えず、結局寄り道に付き合う羽目になっていた。しかし、その流れもあることが起こり中断される。
「あんた、止まれ。」
唐突にシルクが真剣実のある声で美羽を制止させる。
「...どうしたんですか?」
美羽は不安げにシルクに聞く。シルクは、美羽の顔を見ずに答える。
「魔物だ。おそらくゴブリン。数は1匹。」
短く答え、視線で場所を教えてくれる。美羽もその方向を見ると、そこに異形の何かがいた。鑑定スキルを発動すると、
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ゴブリン
LV 3
AT 30
DF 19
MA 3
MD 3
SP 20
IN 12
HP 40/40
MP 10/10
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と表示された。
「あれが魔物...」
「よし、あんたが一人で倒してみろ。」
シルクはいきなりなことを言う。美羽は驚き、
「無理ですよ。私、元の世界でもあんなに大きな生き物殺したことなんてないですし...」
「甘えたことを言うな。昨日のようにまた死の淵で誰かが助けてくれるなんてそうそう起きないぞ。自分で自分を守れない奴は、この世界じゃ死ぬんだよ。」
シルクの言葉は冷たく、美羽は目に涙をためた。しかし、昨日のような眼には会いたくない。心の葛藤の末、美羽は剣に手を伸ばした。
「......やります。戦い方を教えてください。」
シルクの目を見て、まっすぐに答える。
「いい目だ。まずは、盾であいつの攻撃を受けろ。ぶつかる瞬間に盾を押し出せれば相手はひるむだろう。そこに剣で攻撃するんだ。もし、危険になったら助けてやる。安心して戦って来い。」
シルクに背中を押され、美羽は腰のさやから剣を抜く。そして盾を構えゴブリンに向かっていく。ゴブリンも気付いたのか、叫び声をあげながら美羽に迫ってきた。そのまま、こぶしを振り上げ美羽に殴りかかる。美羽は、盾をゴブリンのこぶしの軌道に合わせ、それを防ぐ。ゴブリンは防がれた反動で跳ね返りすぐに動けない。そこに、美羽の剣が迫る。しかし、当たる寸前で剣が止まる。
「...うっ、くっ。」
美羽は泣いていた。自分の手で生き物の命を奪うのは、彼女ほどの女の子はそうそう経験しないことだろう。彼女のその気持ちが、ゴブリンに迫った剣を止めてしまった。
「ぐぎぎ。」
ゴブリンは、硬直から治ると森の奥に逃げていった。
美羽はそれを、泣きながら見ているしかできなかった。