特訓
食事を終え、二人は宿屋に戻ってきていた。すでに風呂に入り終わりラフな格好でくつろいでいる。
「さて、先ほども話したことだが、お前の育成に関してだ。お前は今後どのような探索者になりたいんだ?」
ベッドに腰かけリラックスしている美羽に、シルクは話しかける。
「そうですね。正直まだどうしたらいいか分かりませんが、まずは、元の世界に戻ることを優先にしたいと思っています。そのために強くなりたいです。」
「うむ、そのことは折れもできる限り協力しよう。俺が聞いているのは、お前がどんな探索者となりたいかだ。剣士や魔法使い、僧侶や拳闘士などだ。それによって育て方が変わってくるんだ。」
「そういうことですか。そうですね。こんな世界なんですから魔法を使ってみたいですが、剣も使えたいです。」
美羽は、シルクに伝える。
「なるほどな。なら、剣術をベースに龍属性魔法でのアシストっていった感じだな。わかった。では、そのようにいこう。そろそろ寝るぞ。」
シルクは話を切り上げると、ベッドではなく、部屋に備え付けられているソファに寝転がった。
「え、今日は一緒に寝てくれないんですか?」
そのシルクの行動に美羽は不安そうな声を出す。
「はぁ。あのな、お前の世界がどんな世界かは知らないが、この世界であって間もない男女が同じベッドで寝るってことはありえないんだぞ?」
「そんなことわかってます。でも、それよりも、心細いんです。お願いします。」
美羽は、不安そうな声でシルクに訴える。
「...、はぁ、わかったよ。一緒に寝てやる。」
シルクは、大きくため息をついてベッドに寝転がった。美羽はその傍らに転がる。そして、安心しきった表情のまま、寝息を立て始めた。
「ったく、ここまで無防備だと、逆に手を出しにくいな。はぁ、俺も寝るか。」
美羽の寝顔を見ながらシルクも気まずいながら眠るのだった。
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「おい、早く起きろ。今日から特訓だろうが。」
翌朝、シルクはベッドで心地よさそうに眠る美羽に怒りの声を上げていた。美羽は、眠たそうな眼をこすりながら、体を起こした。
「ふぁ~、おはようございます。」
「おはようございます、じゃあねぇ。今日から特訓するってんだろう。さっさと準備しねぇか!」
美羽はさっと起きると、装備を身に着ける。
「今日は、昨日と同じく草原にむかう。昨日の草原には、『角ウサギ』以外にも魔物がいる。『ゴブリン』や『コボルト』、『コケ』に『フレンジカウ』なんかがな。それらを相手に剣術と魔法の練習をしようと思う。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
シルクは、美羽を連れて町の外にある草原にやってきた。といっても、町を囲んでいる外壁からはそう離れていない。
「この外壁の近くには魔物は出現しない。ここで少し剣の練習をしようか。」
シルクは荷物を置いて、自身の剣を抜いた。美羽も、それに倣って剣を抜く。
「まずは、基本的なことからだ。まず、戦闘系の各スキルには熟練度というものがある。その熟練度によって、武技が存在する。美羽の剣術スキルの熟練度は20だ。剣術の武技は1の時と、5の倍数の時に習得する。武技は、МPを消費することで不通に攻撃するよりも大きなダメージを与えることができる。
1の時は、『スラッシュ』。剣を担ぐように構え、全力で振り下ろす感じだ。
5の時は、『ストライク・スパイク』。助走をつけて勢いよく突きを繰り出す。
10の時は、『サークルスラッシュ』。前後180度を切り付ける。勢いがついているため、敵を吹き飛ばすことがある。
15の時に、『トライストライク』。連続の突きを繰り出す技だ。
20の時が、『アッパーブレード』。下段から勢いよく切り上げる。軽い敵なら上に飛ばすこともできるだろう。
今習得しているのはこんなところだろう。これらを組み合わせ、普通の攻撃と織り交ぜて戦うことになる。
もう一度言うぞ。この武技というのは、MPを消費して繰り出す。それにより様々な効力を発揮する。それはもちろん、敵も同じだ。下級の魔物ならともかく、中級や上級の魔物、人族など、武技を扱えるものは多い。そうなったときは、より手数が多く、その種類の範囲が大きいものが有利となる。それを忘れるな。」
シルクは、剣を担ぐように構えて近くにあった岩目がけて振り降ろす。だが、剣のリーチは圧倒的に足りてなかったが、剣術の武技『スラッシュ』が発動され、剣が当たっていないのに岩が二つに割れたのだった。
「これが武技の力だ。最初は力の出し方がわからないだろうが、慣れてくると、どんなふうに力を使えばいいかがわかってくる。今のは、斬撃から衝撃波を生み出して岩を切り裂いた。ほかにも、振り降ろした際の重さを上昇させたり、単純に相手に与えるダメージを増加させたりと、応用が利くようになる。」
美羽はシルクに倣って、剣を担ぎ、岩を斬るように剣を振り降ろしたが、剣が空を切っただけで何も起こらなかった。
「くく、そんなに最初からできるわけないだろうが。まずは基本の動作からだ。基本ができない奴が応用技なんざ使えるわけないだろう。」
そう言って、シルクは美羽の剣術の素振りから直していった。
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2時間後、美羽は肩で息をしながらなんとか立っていた。
「ん、何とか形になってきたな。だが、まだ武技を使えるような段階ではない。
あ、一つ言っておくが、武技をまともに使えるのは、探索者の中では、Cランクや、Bランクのものたちだ。もちろん、中にはそれ以下のランクでも使えるものもいるだろうが、ほとんどは使えない。だから、お前が今できなくても、何も不思議じゃあない。だから、落ち着いて励めよ。」
「はい!」
美羽は、元気よく返事をする。
「よし、ひとまずはこれで良しとして、敵を探しに行ってみるか。訓練したところで、実践しなければ意味がないからな。」
二人は、外壁から離れていく。見渡す限りの草原だが、少し向こうには、森や岩山が見えている。
「いい天気ですね。これで魔物がいなければピクニックできるのに。」
美羽が空を見上げながらつぶやく。
「仕方ないだろ。この世界には魔物がいて、魔物の食い物に人間も入ってるんだから。だが、確かにいい天気だな。っと、話してたら、敵さんのお出ましだ。」
シルクは美羽を制止させ、ある場所を指さす。すると、そこには犬を二足歩行させているような魔物『コボルト』がいた。『コボルト』はまだ美羽たちには気づいていないようで、のんきに欠伸をしている。
「よし、あいつはまだ俺たちに気づいていない。あいつを相手に戦え。ほかに伏兵がいるようなら、俺が始末するから。お前はとにかく、あの一体をしとめることだけに集中しろ。」
「わかりました。」
美羽はそう答え、腰に下げている『ランディングソード』を抜く。そして、いまだこちらの存在に気づいていない『コボルト』相手に向かっていった。