ファイリオendD リグルスの元へ
このままいても迷惑になるなら、いっそ私など引き渡して貰いたい。
ファイリオが言うように指名したのは私だから、それに意味がある。
―――きっと私の母が強い魔力を持つ一族だから。
つまりただの若い娘を寄越せという事ではないから酷い扱いを受けさせる為に要求するわけでもないと思う。
私はオルヴェンズの目を盗み、城を出ることにした。
―――ファイリオともう二度と会えなくなると思うと、それだけは悲しかった。
「ビバーチェア?」
「この声はファイリオ……!?」
もう帰った筈では、それにこんな夜中にどうして彼がいるの。
「道が落石で塞がれて馬車では帰れそうになくて……」
「そう……私は……」
理由が浮かばず目をそらす。
「リグルスのところへいくつもりだろう?」
「……なぜ!」
どうして見透かされているの。
「オルヴェンズだって気づいてただろう。お前が夜中に城を抜け出す。それを見越していたから城の警備を抜けられたんじゃないか?」
悔しいけどファイリオの言っていることはきっと正しい。
「来てよかったよ。お前はきっと奴の元へ行こうとすると思ってた」
――落石なんて嘘で、ファイリオは私を止めるために帰るフリをしていたんだ。
「でも、私はどこにいても貴方やオルヴェンズに迷惑をかけてしま……!」
指に髪が絡んでいた。いつの間にかファイリオが私の腕に噛みついていたのだ。
「……大丈夫だ。何も心配はいらない」
じゅるりと啜った後に手首には包帯が巻かれる。血の気が引いた私は意識を手放した。
~~今はむかし、屋敷の聳える丘があった。
空には雲が出ており薄暗い。娘を奪われた女神の悲しみのように豪雨は降り、男神の怒りの如く雷鳴が轟いた。
皇帝は連れ去られた少女を探すべく魔導師を派遣するが、城を見つけたものは皆丁重に送り返される。
どんな魔力があれど所詮は人間である。
故に魔力を封じてしまえば彼らが人ならざる異形に到底敵うはずもなかった。
あるとき一人の魔術師は少女の元へやってきた。
魔術師は少女を連れ出すというが少女は帰ろうとはしない。
異形であろうと、屋敷の主を愛しているからだ。
【Dracula end 異形の腕】