ファイリオ:ルート
――――ファイリオのような、ほどよく明るくて行動力のある方がいい。
まさか重要な立場にある彼と、私などが結ばれることなどないだろう。
けれど、理想の殿方ではある。
「私、そろそろ嫁ぎたいわ」
オルヴェンズに次の縁談を催促する。
「あの魔導師、城の侍女達やら貴夫人まで騒がせていた。顔はいいようだぞ。だけはな」
「さすがに彼はちょっと……」
オルヴェンズが命じるならそれもしかたないけれど、遠慮ねがう。
「なら、お前はどんな男がいいんだ」
「……ファイリオ卿のような方かしら」
「それなら、簡単だ。すぐに用意してやろう」
「本当?」
◆
一週間後、いつもの場所で縁談の相手が待っているらしい。
どんな方かしら――――――
「久しいなビバーチェア」
「ファイリオ!?」
理想を語っただけなのにまさか本人を連れて来るなんて―――――
「オルヴェンズがビバーチェアに会えといってきてな。まさかこういう事だとは……」
と言ってからファイリオは沈黙した。そういう反応をされると、どういったらいいかわからなくなる。
「忙しいのにごめんなさい。迷惑だったわよね……」
のようなタイプと言ったのにまさか本人が来るとは思わなかったんだもの。
「いいや、構わないが……オルヴェンズは最近縁談を断ったばかりだと言っていたのに、どうしてこんなに早くなんだ?」
「……それは向こうから断られたのだから、次の相手を探すのは当然だわ」
私が断ったなんて誤解はされたくない。
「別にオルヴェンズに出ていけと言われたわけでもないだろう?
なら城にいればいいんじゃないか、国で一番位の高い男だぞあいつは」
「そうだけれど、そういうわけにはいかないでしょう」
言わなくても内心ではきっと早く嫁いでもらいたいと思っているに違いない。
「もしかして、あいつに面倒をかけたくないと思っているのか?」
ファイリオはハッとして問う。
「ええ」
「成る程、そういうことなら協力しよう」
「本当!?」
「一旦城を出る口実として、仮に私が住む屋敷に移り住む。
それから相手を探す。というのはどうだ?」
――――あれ? なんか違うような。
◆
「駄目だ」
ファイリオの屋敷に移り住むことについて、オルヴェンズに同意を求めたが、取り合ってくれない。
「なぜ?理由を聞かせてほしいわ」
「ファイリオの屋敷は国境にある。つまり危険があるんだ」
「そうね……」
城を出んとして、意識がそちらへいっていたので、そのあたりは失念していた。
きっとファイリオと私は、結ばれない運命なんだわ―――――私はため息をつく。
――――ドゴオオオオオ!
「……なにかしら!?」
すごく大きな音がし、地響きがした。
「大変です!!」
しばらくして兵士がやってきた。
「何だ!?」
「闇の魔術師を名乗る男に森を襲撃されました!」
「この忙しいときに……」
「やつは兵を人質にとり、ビバーチェア様を引き渡せと!」
「なんだと……?」
「大変……私いくわ」
惑うことなどない。私一人の犠牲で兵が助かるなら、それでいい。
「待つんだビバーチェア。お前はファイリオの屋敷へ行け」
―――え!?
「ビバーチェア?」
ファイリオは状況が飲み込めないようだ。
「今は説明している暇がないの!話は馬車の中でするわ!!」
私は裏口から馬車に乗り、ファイリオと屋敷へ向かう。
「よかった。追いかけてこないわね」
相手は得体の知れぬ魔術師。だから逃げてもすぐに見つかってしまうと思った。
「それで、一体どうしたんだ?」
「どういうわけか、私にもよくわからないの。闇の魔術師が城を攻めてきたのよ」
皇帝から屋敷へ逃げろと言われたことなどを説明する。
「なるほど、だが魔術師ならどこに逃げても追いかけてくるんじゃないか?」
「え?」
「これは推測だが魔術師の目的は城じゃなくビバーチェアだろう」
「どうして?」
「敵が人質に向く弱い娘などを要求するのはわかるが、お前を名指しで申し立てたんだろう?」
「あ……」
「あと、城が目的なら、その魔術を使って落とすはずだ」
「実は声ばかりが大きくて力は弱いとか?」
「または、慎重なのか」
「え?」
ファイリオではない声がして、馬車が急に止まる。
「誰!?」
―――ただの御者ではない。
私たちは逃げるために馬車を降りる。
「会えて嬉しいぞレディ・ビバーチェア……」
「なんなの貴方は!」
黒いフードの男がなにやら私にじりじりと迫ってきた。
「吾輩は闇の魔術師リグルスである。」
「それ以上こちらに近づくな」
後ずさる私をファイリオが背にかばった。リグルスは“はあ……”やる気を削がれたように息をはく。
「キサマがなにかは知らないが、そちらのビバーチェア嬢にしか用はないんだ」
リグルスは手をはらう。引き下がることなどまったく考えていないようだ。
「しかたないな」
ファイリオは剣を抜き、躊躇<ちゅうちょ>することなくリグルスへと斬りかかった。
リグルスは一瞬余裕の表情を見せたが―――――
ファイリオが抜いた剣は二本で、どちらか一方に避けることはかなわない。
ファイリオの剣が予想外の方向から飛んできた為か、リグルスは慌てて後ろに下がって回避した。
「ふ……油断したが、吾輩はそう簡単にやられはしない」
平静を装いながら、怪しき力を使い瞬時に遠くへ移動した。
「逃げるのか?」
「なにを……引いてやるだけだ」
リグルスはそういい捨てると、影に消えた。
「守ってくれてありがとう」
私はファイリオに感謝する。リグルスが現れたことで、彼の屋敷に行くという話は流れてしまった。
「当然のことをしたまでだ」
ファイリオは信頼できる従者に任せきりにはできないと、護衛とともに屋敷へ帰ることになった。
「……あいつが好きなのだろう」
オルヴェンズは追わないのか、と私にたずねる。
「リグルスは私を狙って来た。ファイリオといれば、また彼に危険が及ぶわ」
城なら兵士がいるぶんまだマシだが、彼のいるところにリグルスを呼び寄せるような真似はしたくない。
けれど、ここにいてもやっぱりオルヴェンズに迷惑をかけてしまうわ。
リグルスのところに行くしかないのだろうか。
あんな悪人に屈するなんて、絶対にしたくはない―――けれど、城の皆を危険な目に会わせるくらいなら。
◆私はどうすべきかしら?
→〔なんとか鍛える〕
〔リグルスの元へいく〕
◆何を鍛えようかしら?
〔魔力〕
〔武力〕
〔知力〕