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リグルス end A  まず父親について聞く



「もしかしてリグルスのお父様は王家に仕えていたりするの?」


「ああ、父は大賢者フェルズでな」


大賢者とは世界に5人しかいないというすごい存在。


「ということはあなたの家はフォロス家ね!?」

「よく知っているな。そんなに興味があるか?」


「知ってるも何も、少女奴隷の身分を開放して妻にした伝説のあるすごい人じゃない!」

「両親のなれそめ、聞きたくないな」


あのリグルスが普通の人間のような反応で新鮮だ。


「それで、手紙にはなんて書いてあるの? たまには家に帰って来なさいとか?」

「吾輩は放蕩息子であるからして。もう帰るつもりはない」


「プルテノが出身なの?」

「一定期間の育ちはそこだが、国籍は違うな。おそらく両親はどちらかがエルジプス系ジュグ人か」

「そうなの」


「純正プルテノの民は紫がかった銀髪でな。見ればコエマドゲルポのコインそのものだ」

「へぇ……」


「だからこそ、あんな真似をさせるわけにはいかない」


険しい表情のリグルスは、何か計画でも止めるつもりなのかしら。



「父の話より、今日のパンは妹の店で買ってきたものなんだ」

「兄妹でも商品って買うのね」


 一人っ子で商売人が身内にいないから、そういう現実的な観念がわからない。



「まあ、正体を明かさずにな」

「……放蕩息子なんだったわね」


◆◆


しばらく黙り込んで、彼が口をようやく開いたのは5分ほどの間が空いた感覚だ。


「なぜここに連れてきたのか、聞きたいのだったな?」

「ええ、それは当たり前でしょう」


「これから話すことは、貴族の娘には重く、グロテスクになるが、その覚悟はあるか?」

「それが私がいることにつながるなら。ある!」


彼は新聞をこちらに渡す。


「えっと、この言語は今は使われていないはずよね?」

「プルテノではこれが主流、といいたいが一部の知る(エピキュリアス)に向けたものだ」


それは世界の観測者、陰謀論やら何やらの学者がよく口にするものだ。

この魔法世界(ミーゲン)がどうやってできているか、などの難しい議論ばかりで興味はない。


「その人たちって、いずれ科学が魔法にとって代わるだの言っている連中ね」

「ああ、なかなかに鋭い」


「単純に読めないから、わかんないわ」

「これを鏡にかざしてみろ」

「え、あら……? 読める!」


よく見たら言語文字が逆に反転しているだけじゃない!


「連中、しか知らないものだ」

「すごい……じゃあ読むわ 行銀ノテルプ」

「逆から読むんだ」


「ちょっと面倒ね」


頭を使いながら解読していく。


『プルテノの銀行でコエマドゲルポの材料が枯渇。近年の少子化が原因である。

食事のメタル山が減り、ますます鉱山の出資額が低迷している』


「プルテノ人は魔法が使えないって聞くわ、外で稼げばいいのに地元で自給自足のみって」

「彼らが星から外に出るとマージルクス人やら宝石商に捕まるんだ」


マージルクス人は戦闘狂でお金がない。そして宝石商は売買する者。


「あ、金品を強奪してるのね」

「いや、彼らがメタルだ」


「なにいってるの?」

「だよなぁ! ……吾輩も最初はそうなった」


「それはつまり、彼らがメタルを食べているから肉体がどんどんメタルに変質する?」

「ああ、彼らが金属を食べられる肉体に生まれて、いや、それしか受け付けないんだがな」


「それならちょっと、人体の神秘ね。まだ魔法で変化させられたとかのほうが理解できたけれど」

「魔法だから、で解決するからな」


何を内輪で盛り上がっているのだろう!


「私メタルなんて食べないけれど、彼らになにか関係ある?」

「近年の研究で強い魔力があるものは、魔力を結晶化させられることがわかった」

「原料メタルとは違うのよね? コエマドゲルポは魔石とは違って魔力はなく薄い金属の紫……」



ふと、いっていてきがつく。コエマドゲルポのメタルを食べている彼らプルテノ人。


「プルテノ人ってお金たべてるのね!?」

「ああ、それでゼニクラーウの銀行が目をつけたのが人類コイン・メタル計画だ」



そんなことできるわけないじゃない。魔力のないプルテノ人が、どうやって強い魔法使いを捕まえるのかしら。


「魔法学校だ」

「あ」


背筋がぞわりとしたのは、どうしてだろう?

友人がいるわけでもなければ、見たこともない場所だ。



「それで、私も魔力があるから……あなた、私をゼニクラーウに差し出すつもり!?」


リグルスはニヤリとして、こちらにじりじりと寄る。



「ひ……!」

「冗談……その逆だ。計画の犠牲になる前に保護したまで」


そう言って私の手を握る。でも気持ち悪いとは思わなかった。

だって彼は、一応私の命の恩人。

本当かどうかまだ半信半疑ではあるが、いくらでも引き渡すチャンスはあるもの。


「そこで、偽物のビバーチェアを作り、ゼニクラーウをだまそうと思う」

「へっ?」


何を言い出すのだろうか、思わず間抜けな声が出てしまう。


「まさか一人でなんとかするつもりなの?」

「なぜ仲間がいないと決め付けた?」


「あなた友達いないでしょ」

「まあいないがな!」


彼は不敵に笑って、懐から何かを取り出す。

一冊の手帳と思われる。字がびっしり書かれて、彼らに対抗する計画あるいは敵の情報でも?


プルテノの民は、かつてエルジプスの民であった者たちの中からヨウコク側についた末裔だ。

 純正エルジプスは黒髪で褐色であり、今は別の場所にノウプルという黒の一族が宝剣を継承してある。

 そしていつしか肌が褐色から白くなっていった。なぜなら遺伝子的に彼らの肌が白いからである。

つまり太陽が照るエルジプスの国にいなくなって太陽があびられないから日に焼けないのだ。


「孤独な吾輩は一人で悪の秘密結社に乗り込むつもりだ!」

「バカよ! 銀行の警備を抜けるなんて、ましてや悪の組織の包囲網は絶対無理!」

「やってみなければわからんだろう」


この自信ありげな笑み。どこかで見たような……。

いや、今はそれどころじゃない。

「でもあなたが危険でしょ? 悪役がヒーローでも気取ってるの?」

「吾輩は魔法が使えん、まあ計画の材料にはされん大丈夫だ」


なぜそこまでして、ゼニクラーウを倒そうとしているのかしら。


「ねえ、もしかしてフォネロス王のところにいるお父様が危険で?」

「いや、ゼニクラーウ一族とフォネロス王は険悪でな。王は唯一プルテノ人でも魔法が使えるのだ」


だとすれば、彼が動く理由は父親ではなさそう。


「もしかして、妹さんが危険だから?」


「妹のところにはレレスという魔導師がいてな。

王やガードナーもいる。あいつは吾輩より強いからまあ大丈夫だ」


第一印象は自身たっぷりで、吾輩より強い奴はいない。とでもいうのかと思っていた。



「でもどうやって勝つの、勝算は?」

「ないな」


……計画が失敗して、捕まったらどうなるのかしら。


◆◆◆◆


「いまだ魔術師の魔力を一切関知できません」

「なんということだ! もう2日だぞ! ビバーチェアを一刻も早く見つけたいというのに!」


「なあ、ビバーチェアを探しているなら探知するのは彼女の魔力ではだめなのか?」

「ビバーチェアの魔力はそんなにないだろう?」

「え、君主基準やめて」


「みつかりました! どうやらパン屋付近に名残があります。おそらく出入りしたのはビバーチェア

嬢かと」

「でかしたパティシエーラ」



「……ビバーチェア、運命は自分で掴むのだ。両親ができなかったこと、晴らしてやれ」


◆◆


“助けてビバーチェア”



……どうしてお父様とお母様のこと、今になって思い出すの?


“でも……来てはだめよ”



「眠れないのか?」


寝ている間にコピー人間を作ると、リグルスは立体装置で私をスキャンしていた。


「寝れないわ」


機械の音がゴーゴーと煩いし、もともと時計の音でも寝れないのだから!


「なら何か楽しい話でもするか」

「楽しい話……だったらコイバナしましょ」


するとリグルスは目を見開いて、私と距離を取った。

そしてベッドの端っこまで移動した。なぜだ? 彼は頬を赤らめながら、言った。


「昔のことだが、貴族のお屋敷に忍び込んで、そこの庭の木に登ったことがある」

「へえ……」

「屋敷にいた女の子がかわいかった」

「あなたが女の子って言うの、似合わないわね……」


制作が終わり、音が止むと気が抜けて眠ってしまった。


「あれ、リグルス……」


書置きがされていた。


「この手紙を読んでいる頃、吾輩は乗り込んでいることだろう。もしも誰かが来ても、簡単に開けるな」


危険なら、窓から付近のホウキで飛ぶのだ?


「なんで……出発するなら一言いいなさい!」


こういうとき、物語の主人公ならついていくけれど、私は行き先がわからないからついて行きようがない。



「ここで気をもんでろってこと?」


手紙の続きには、帝国のやつらを騙るものもいるだろう。

いいや、帝国のやつらを信じても良いか、今となっては判断ができない。


「見つけた!」

「きゃああああああああああ!」


◆◆


「お前の悪事を知っている。このデータを返してほしくば金をだせ」

「そんな安い脅しなど痛くもかゆくもない。悪事とは具体的になんだ? 私は浮気などしていないし、脱税もなにもないが」


「お前は魔法使い達を石に変えて、コエマドゲルポの代わりに私腹を肥やそうとしている」

「くくく……それは王の命令だ。もちろんその側近も知っている」


「魔法を使わず魔法を凌駕する異端の天才、黒の魔術師リグルスがあの大賢者の放蕩息子とは知らなかったが……魔力もなければそこまで考えなしとは思わなかった」


「王も父も……敵……? お前と王は仲が悪いというのにか?」

「それはパフォーマンスだ。そのほうがオーディエンスは喜ぶだろう。ただ花畑で仲良く昼寝しているよりよほどいい!」


「……ではあのマージルクスからの手紙もか、王の側近である父が昨日、模倣品(コピー)をよこしてくれた」

「……ああ、そうだとも! やれやれ、君はそこまでの秘密を知りすぎてしまったようだな」


「そこまで? お前は一体誰と手を組んでいるんだ?」

「は?」



『拝啓ゼニクラーウ殿、この度は和解提携に応じていただき、吾輩は光栄である』


「いつから王と文通していると勘違いしていた……?」

「何!?」


「この会話は吾輩と魔法研究機工の共同開発した録音機がしっかり全世界に放映しているぞ」


「あ?」


◆◆


「リグルス……」


ゼニクラーウが語彙力を失っている。リグルスはこちらに手を振っている。

口パクが私の名前を呼んだ気がした。


「そのコエマドゲルポ生成プレス機は吾輩の祖父が作ったものでな」


映像が乱れ、音声だけになる。もしかして、あの、そういうこと?

翌日からコエマドゲルポ通貨が潤い、しばらくはプルテノの経済が大丈夫になったのは言うまでもない。


「もう……驚いたわ」


背後から声をかけてきたのは、ファイリオと兵士だった。


「驚いたのはこっちだ。大きな悲鳴の後に小さな機械にリグルスと知らない男が移って、何やら悪事がどうと話していたからさ」


「そういえばリグルスが帝国の人も疑えと言っていたのだけど、どういう意味か知りませんか?」

「というか……リグルスはなんのためにビバーチェアをさらったんだ? 

兵の報告では皇帝に対する挑戦と推測されていたが」


そういえば、いつの間にかファイリオの後ろの兵士が姿を消した。


◆◆



「ゼニクラーウがやられたか……」

「やつはしょせん、我ら結社の末端にすぎない」

「だが、しばらくは陰に潜んでいようとするか……」


◆◆


「おぞましい……プルテノの銀行ではそんなことが」


オルヴェンズはめったなことでは恐怖しないが、得体の知れぬ現象や事象すぎて言葉を詰まらせる。


「おねがい! リグルスは悪くないの!」

「ビバーチェア本人がそう言ってることだから、許してやろう」


「なら説明をしてもらわなければ、協力の要請も……」

「説明されても通貨の生成なんて信じないがね」

「好きにしろ……」

「なあ、あの子の両親が死んだのは、もしや……」

「知らないほうがいい」


◆◆


「リグルス、よくわからないけれど、助かったわ。でも、あの対面で私の複製使ってなかったわね」

「ちょっと父が裏切り者かと疑ってしまい、そのあたりの計画がすっぽ抜けていた」


吾輩ダメな子。と言ってかわいらしくおでこをコツンとする。


「きっつ!」

「ひどいな」



「ねえ、あなたこれからどうするの?」


「……故郷の村にいくが?」

「そうじゃなくて、もう会えないの?」

「永住というわけではないからな。墓参りだ」


もしかしてお母様、階級を返上したとしても奴隷身分に生まれた人は体が弱いから……?


「祖父母は生まれたときにはもういなかったが。祖父は魔法が使えない魔術師でな」


この話からすると、お墓は祖父母のものらしい。


「おじいさんっ子なのね」

「吾輩も近所のやつらのように、こづかいもらいたかったな」

「ふふ……」


◆◆


「あーリグルスさんだ!」


孤児院と思われるところろにつくと、子供たちが彼を囲みはじめた。


「ほら、コットンキャンディだ」


はたから見れば子供たちをものでつってる悪い魔術師にしか見えない。

それから彼が子供たちと戯れているのを眺めてからお墓参りを終え、帰ろうとしていると落ち葉が目につく。


「きれいな白イチョウだわ」


これはアンヴァートにしか咲かない特別なもので、どこにでも植えられるポピュラーな植物だ。


「木登りでもしてみないか?」

「いやよ、飛ぶわ!」


「こうして高いところにいるとあの屋敷に忍び込んだのを思い出す」

「……ねえ、あなた何歳?」

「18だ」

「……私、不思議な記憶があるの。たぶん男の子と高いところにいた。位置はちょうどこう……


木の太い枝に、左側に彼がいて、今はホウキの掃く側で……。


「あなたまさか……! 覚えてた?」


リグルスは無言で髪の毛で前を隠す。私は彼の腕を開かせようとふんばる。

力では正攻法では無理、でもくすぐりには勝てないだろう。


「なにを……!」

「ばぁ! 真っ赤になっちゃってかーわいー!」


「く……ころしてくれ」





【apricot】

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