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オルヴェンズ:ルート

――――やはり皇帝オルヴェンズのような方がいい。


王がいいなどと高望みはしないが、優しい方がいい。


「ビバーチェア、こちらをじっと見てどうしたんだ?」


「なんでもないの……そろそろ新しい縁談はないのかしら。と考えていただけで」


―――嘘は言っていないわ。


「新しい縁談な、つい最近破談にし……なったばかりだというのに。

それに、魔導師がはるばるやってきているのだ。しばらくは相手をしてやるといい」


オルヴェンズは以外にヴィヴィを嫌ってはいないようだ。

皇帝なのに、他国の魔導師に屈するなんて―――――



―――大国の魔導師か、面白い奴がやってきたものだ。


皇帝たる俺に対する弁えぬ態度、そしてビバーチェアに求婚ときた。


邪魔な存在は潰せば潰すほど、内なるカタルシスが込み上げて良いものだ。


久々に俺と彼女の間を燃え上がらせる可燃材が来たのだ。すぐに消すのは惜しい。

しばらく我が手中で踊らせ、ビバーチェアの前で吠え面をかかせた後に城へ送り還してやる。


せいぜいそれまでは傍観者に徹することにしよう。



なにやらオルヴェンズが一人でにやにやしている。なにか良からぬことをたくらんでいる顔だ。

きっと魔導師を追い出すことを考えているんだわ。さすがは皇帝ね。


「ねえオルヴェンズ」

「どうしたビバーチェア」


オルヴェンズはなにやら本を読んでいる。いつもは戦いに出るか政治をするかお茶を飲むかの彼は、一体どんな内容の書物を好むのだろう。


「やっぱりそろそろ次の縁談を探してほしいの」


ヴィヴィとは話したくない。たとえ彼になんと言われようと、ここから出るわ。



――――ドゴオオオオオオ!

向こうの森の方から爆音がする。一体何ごとかしら。


しばらくして森の調査をしていた兵が報告にきた。


「申し上げます!闇の魔術師を名乗る男が“城及び、ビバーチェア様を寄越せさもなくばアンヴァートを滅ぼす”と!!」


「――――なんですって!?」


この国を守るために、私は魔術師のもとへ行かないといけないわ。


「ビバーチェア待つんだ。兵など代わりはいくらでもいる」


「だけど……」

「兵なら私が奴をねじ伏せ取り戻す」


「留守の間奴が城に来るとも限らん。やむを得ないが……お前はしばらくファイリオの屋敷へ避難しろ」


「え!?」


――――私は皇帝オルヴェンズの命でファイリオの屋敷へ行くことになったけれど、彼と離れるなんて嫌。


それに彼が直接闇の魔術師と対峙なんて、絶対にしてはいけない。

皇帝になにかあれば、この国は滅んでしまう。


「くくく……無駄だぞアンヴァートの皇帝」


報告に来た兵士の体から黒いオーラが出る。


「ビバーチェア!」


オルヴェンズは私を背にして、剣をかまえる。悪いオーラが強すぎて、うかつに近寄れない。


「貴様が闇の魔術師か……」

目の前にいる黒のローブの男。その姿からオルヴェンズは察した。


「いかにも、吾輩は闇黒の魔術師リグルスだ。レディ・ビバーチェアをいただきに参った」

オルヴェンズは魔術師を睨むと、魔術師の首へ切っ先を向けた。


このまま去れと無言の威圧。魔術師はニヤリ、この状況を予測していたのか、彼の脅しに怯まずにいる。

剣を使うオルヴェンズより、魔術を使うリグルスは優位。しかし、手を抜いて逆に楽しんでいるのか。


なんであれ、オルヴェンズが彼に負けるのであれば、ピリオドの前に止めなければ。

私はオルヴェンズの後ろにひかえる。リグルスは顔をしかめ、距離をとった。


もしや、魔法を使わないのではなく、何らかの理由で、使えないのか。



―――もしかしたら、私がそばにいるのが原因なのかしら。

試しにオルヴェンズの傍から離れようとしてみせる。


「……!」


リグルスがニヤリと笑って、オルヴェンズに何らかの魔法を唱えはじめた。


聞いたことのない言葉で、聞き取れない。再度、オルヴェンズに近づくと、彼は詠唱するのをやめた。


やっぱり、私がオルヴェンズに近づくと魔法を使わない。


リグルスは少なくとも私を傷つける気はないということね。


なら一体なんのために私を狙うのか、それがわからない。


なんであれ、敵側の事情や理由など知る必要はないわね。


「今日のところはこのくらいにしておく!憶えていろ!」


リグルスはしびれを切らしたのか、出直すことにしたようだ。


「お前に割く記憶のスペースはない」


オルヴェンズは彼の去り際に、真顔でそう言った。


「一時はどうなることかと思ったけれど、去ってくれてよかったわ」


でもまた現れるかもしれないなんて、不安でたまらない。

リグルスが私諦めるまで、オルヴェンズの近くを離れないほうがいいわね。


「しかし奴が兵を人質にしているままではな―――」


「陛下!!」


兵士たちが無事に帰還してきた。リグルスは彼等を解放したのだろうか?


「お前たち、人質にとられたのではなかったか?」

「人質……?」

「魔術師リグルスにだ」


皆はどうやらリグルスのことを知らないみたいだ。

もしや人質にとったというのはリグルスのハッタリだったのだろうか。

リグルスに対抗するため、さっそく朝から剣術を学びにいくことにした。


ビィビットのせいで以前は潰れたわけだし、今度こそまともな護身をしなくては。


「本日は他国から女騎士のクレイファ・モアさんをお呼びいたしました」

「よろしくおねがいします」


女騎士というから気が強いのかと思ったが、人の良さそうな人でよかった。


剣術を享受してもらい、休憩をはさむ。丁度ケーキが焼き上がったみたいだ。


「クレイファさんはなんと婚約者持ちの王子とゴールインなさったと噂ですが、真相は?」


ヴェナが興味津々でせまる。というかなにそれ、私も気になるわ。


「ご想像にお任せします」


清々しいほどの笑顔。どちらにしても怖いわ。

―――


「……いやはや恐ろしい話を耳にした」

「皇帝が女人の会話を盗み聞くとはな……」


「おや、なんのことだ魔導師よ」

―――



「ビバーチェア、調子はどうだ?」


オルヴェンズが部屋へ訪ねてきた。


「いまのところ怪我はしていないし体調も問題ないわ」

「ならいいが」

「忙しいのに心配してもらって、勿体無いくらいだわ」

「そうか、ではこれで去ることにする。忙しいのでな」


彼は皮肉って去ってしまったが、もしかしてスネていた?




朝早くに目がさめて城内を歩いていると、臣下たちの話し声がきこえてきた。


「陛下は……」


オルヴェンズのことを話しているみたいだ。

ああ……きっとオルヴェンズに妃がいないとかそういう感じの相談だろう。


「いつになったら彼女をお妃様になさるのでしょうか」


名前が聞き取れなかったけれど、彼女ということは特定の相手がいる?


「陛下はいつまで遊ばれるつもりなのだろうなあ……」


オルヴェンズなら相手の身分がどうあれ、臣下をねじ伏せて妻にしそうだわ。


◆なのに秘めたままということはやはり――――

〔私が重荷になっている〕

→〔他国の権力者か故人〕

◆どちらだろう?

〔女王〕

〔故人〕

〔どちらでもいい〕


きっと彼は立場上、叶わない恋をしているのだと思った。


一般人の私の結婚より、皇帝である彼のほうを優先すべきだわ。

縁談のことは当分止め、彼自身の事をなんとかしなくてはいけない。

たとえ私がどうあれ、彼には国の未来があるんだもの。


「……大魔女マデェール?」

「はい、ビバーチェア様はご存じですか?」


ヴェナが巷で噂になっているという話をしだした。


「知らないわ、大がつくなら普通より強い魔女なの?」


ヴェナの他の使用人とは嫌煙されているわけではないが年もはなれていてあまり親しくはないので噂話等は聞かない。


「ええ、なんでも年という概念を食べる力を持っているそうで」

「……年を食べられたらどうなるの?」


「見た目が若返るそうです」

「……それはすごいわね」


もし本当なら半永久的に若く美しいままでいられるという事になる。


「ただ見た目が若返るだけではなく、とある国の男は実質80才にして剣を振り回す力を若い頃のまま維持できているそうなのです」

「……それはすごいわ。きっとマデェールを探す人が多いんじゃないかしら」


そんな言い力があるなら若返りを求める者が引く手あまたで大変だろう。


「けれど魔女に力を借りたら代償も重いのでしょう?」

「魔女といえば魂やその人にとっての大切な物を対価にする恐ろしい存在ですものね……」


「でも幾つになっても若くありたいのは否定できないと思うわ」


老いは年を重ねて人間として成長した分だとか結局は綺麗事だと思う。

若い姿でいられるなど夢のような話が、現実となるならきっと若返りは願うはずだ。

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