オルヴェンズend B 故人
きっとオルヴェンズの好きな相手は故人なのだろう。
彼がいつまでも結婚しない理由がそうなら、余計に私がとやかくいえる問題ではない。
「オルヴェンズ、ごめんなさい」
「どうしたいきなり、お前はなにかしたのか?」
オルヴェンズは私が謝った意味がわからずにきょとんとしている。
私が誤って宝飾品の壺でも壊したのかと考えていそうだ。
「何かを壊したけではなくて、貴方が結婚しない事で家臣達が言っていて……」
「それでなぜ、お前は私に謝るのかわからないんだが?」
言われてみると私は彼に結婚しろと言ったわけではない。
「あ……私もさっきまで言おうとしてたからなの、なんだか申し訳なくて」
「……何故、言うのをやめたんだ?」
私が言葉を濁してばかりでオルヴェンズの頭の中では疑問符だらけである。
「つい勢いにのせていいかけたけれど、無関係な私が言うことではないから……」
結婚については本来親か彼より年上の臣家が言うものだろうから。
「そうだな……」
オルヴェンズは少し考えている。
「私がいつまでも后を迎えないことでお前が不安だというなら」
「え?」
私がきっかけなのかわからないが、彼はようやく伴侶を探すと言い出した。
「では、私はいくぞ」
「え、ええ」
オルヴェンズは行ってしまった。
私が彼の背を見ているのに、後ろ髪をひかれるような感じだわ。
オルヴェンズのことだし、結婚も一番利益のある国の王女、または公国の姫君なんだろう。
利益のある国はジュプスあたりしか浮かばないない。
「私には関係ないわ……!」
きっとどんな相手でもオルヴェンズが選ぶなら、それが正しい事なのだ。
■■
「ふ……」
「いかがなされましたアンヴァート皇帝陛下」
ヴィルヴィットは上機嫌でいるオルヴェンズへ怪訝そうにたずねる。
「なに、ビバーチェアが私に早く后をとってほしい等と申したのでな」
「はあ……」
ヴィルヴィットはそれがなぜ嬉しいのか、不思議そうに生返事をする。
「もちろん后などにはしないが女を連れてくればビバーチェアも一先ず納得する事だろう」
「そうですか……」
オルヴェンズは年頃のビバーチェアの縁談で遊ぶ皇帝だとアンヴァート領外の一部では噂されている。
「早くビバーチェアの反応を見たいものだな。きっと私に良い女が出来る事で少しはモヤモヤと頭を悩ませるだろう」
「少し、ですか」
后にするでも妾にするでもない女をただビバーチェアの反応を見る為に呼ぶという。
ヴィルヴィットは口に出さずとも、オルヴェンズの悪癖とも取れる行動を理解に苦しむ。
■■皇帝の理想
オルヴェンズが后候補を連れてきて一週間、とうとうビバーチェアは自分の気持ちに気がつく。
『妃でなくても構わないから……私を愛してお願いよ!!』
『……私はビバーチェア、お前しか愛していない。ただ気を引きたかっただけなんだ』
『オルヴェンズ!』
『好きだ』
『私も昔からオルヴェンズが好きだったわ!』
――という夢を見るのだった。
「なんだ……夢なのか……」
実行にうつそうにも、よくよく考えれば都合のいい女がいない。
声をかければ誰しも勘違いして調子にのる事間違いなしである。
ましてやビバーチェアが昔から自分を好きだったなど夢でしかありえない発言だ。
夢は夢のままであれというお告げだろうか?
■
「オルヴェンズどうしたの、顔が悪いわよ?」
彼は早朝だから眠りが足りないからか、顔色が優れない。
「……!?」
「ごめんなさい顔色が悪いわ、間違えたの」
言葉足らずのせいで驚かせてしまった。
少しのミスが大きな損害に繋がるから気を付けよう。
「そうか、ならいいんだが……いや良くないか」
「つかれているのね。なにか手伝うわ」
重要なものに判子を押すのは彼だけど、雑務くらいならできる。
「……何か頼むことにしよう。要らんと言っても手持ち無沙汰になるだろうからな」
「ええ」
オルヴェンズは私になにをやらせようと顎の下で手を組みながら考える。
「ああ、そうだ。もうすぐアンヴァートの守護神を讃え祀る式典の時期だな」
この国を創設したとされる大主天神パティオンをお奉りする甘菓子祭“スイールド”が迫っているようだ。
「わかったわ、美味しいお菓子を出展する店を選別すればいいのね」
「そうだ。甘いものは別腹なんだろう?」
オルヴェンズが頷きながらそう言った。
「ええ、でもさすがにお菓子を食べるなら食事は無くていいわね」
一日食事をお菓子オンリーにしたくらいで健康に響くわけがないし。
「とりあえずは塩気やスパイス類も用意しておいてくれ」
「甘さ控えめや辛味は大事よね。飲み物屋はいるかしら?」
「各自の出店でスタンダードなドリンクや酒などを準備させてくれ」
「わかったわ」
まずは下働きが店から買ってきたお菓子の試食して合格した店にはお菓子に会うドリンクの指示をする。
「それにしても、オルヴェンズがお祭りをやるのは意外ね」
「それはどういう意味だ?」
祭りは10年に一度やるもので、オルヴェンズが即位した時には終わった頃。
「祭りなど馬鹿馬鹿しいとか、いいそうだし」
「これといって良い話がないこの国でも、祭りくらいはな」
だから彼が盛大なパレードをやるのは初めてで、民が皇帝を認めるのもこの日だ。
「それにオルヴェンズ、神仏は信じない人でしょう?」
ハッキリ言われた事ではないが、なんとなくそんな感じがする。
「まあ、たしかに神が人や世界を創成など信じないがな」
アンヴァートでは宗教などを禁じていないが神官はいない。
また神の信仰を説くものがさほどいない。
「でもケーキは楽しみだわ」
「なら祭をやる理由なんてそれで良いだろう」
私がそういうと、オルヴェンズはあきれたように笑っている。
気のせいか血色も戻ったようだ。
【baroque 君は真珠】




