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全員共通 縁談、押し掛け求婚者・選択

――――私の名はビバーチェア。生まれは貴族、だけど屋敷がない。

今はわけあって皇帝オルヴェンズの城“アンヴァート”で暮らしている。


私が皇帝と庭でお茶を頂いていると、彼がカップをカチャリ。


「いい縁談があるんだ」


唐突にオルヴェンズが言った。縁談には慣れている。不思議なことに、私の縁談がうまくいったか、と思うと、毎度次の日には破談になっている。


私がうまくいったと勘違いしているだけだろうけれど。



――――薔薇の美しく咲く庭園に、今日の縁談の相手がいる。


「あ……ビバーチェア様」


彼は私の姿に気がつき、一度瞬き、微笑む。この素晴らしい立ちふるまいは、当然貴族の子息だろう。

年は17程度。私より一つか、二つの上の差があるようにみえる。

汚れ一つない白布のひかれた丸いテェブル。その上には菓子と紅茶があり、彼は緊張した様子でお茶に手をつける。


「ええと……」


――こまった。彼の名を事前に皇帝から教えてもらっていないのだ。


「僕はハーゲンティ子爵家の次男“フランム”です」


――貴族の子息には珍しく、あいさつのときにキザさがなく初心な感じがする。

さて、なにを話すか、今まで鍛えた話術。いえ、うまくいっていないのだから無意味なそれだ。


「フランム様、お菓子はいかかでしょう?」


話題に困ったら目の前のアイテムを用いるしかない。

お菓子はモンヴラァンケィク、スチョベルリィのジャムを乗せたしっとり目のクッキィ、マドゥレェヌなどで、マカルゥンがないのは残念だ。


「わあ……美味しいです。家の菓子職人<パティシエ>より!」

「まあ」


城の菓子職人が貴族のより上手いのは当然だろう。けれど彼はそういうことを抜きで、ただ褒めたみたい。


「またお会いできたら……そう思います」

「ええ、私も」



そんなことを言って、どうせまた破談になるのはうっすら目に見えているので、素直に頷きがたい。





『いやはや貴方様のたぐいまれなる才気には感服の致すところで』

『今度はいつ社交界にいらっしゃいますの?』


城に使えるものたち、きらびやかな貴婦人、無垢装う子供でも―――だれもかれも、周りは嘘つきだ。

本当のことを言わないならば信頼を向けられるわけがない。そこに相手を思いやり尊重する情も生じない。


ただ人を避けたくて、裏庭のほうへいく。薔薇とは違う雑草ばかりの、手入れがされていない庭。

ガードナーの怠慢が見てとれるが、まるで見た目だけ聞かざる貴族連中のようだ。


『うるさいわ!』



―――なにやら言い争う声がする。



『嘘つきは盗賊の始まりというのよ!』


―――あれはいつぞや貴族の父親と共に城へ来ていた娘か。


『まあひどいですわ』

『ビバーチェアなんて嫌いだわ。いきましょ』


二人が去り、一人残った少女は孤立した。


『小さなお嬢さん。こんなところに一人でいとは、拐われてしまうよ』





「ふぁーあ」

自室でくつろいでいたところ、いつの間にか居眠りをしていたようだ。


―――懐かしい夢を見ていた気がした。コンコン、と扉をノックされる。


「はい、どなた?」私が返事をすると「ビバーチェア」オルヴェンズだった。


「どうしたの?」

「たった今、子爵家から手紙を貰ってね」


――――また破談になったようだ。


「そう……」


別にそうまで結婚したいわけじゃないけれど、疲れてしまう。通算100連敗であるから余計にだ。




「くくく……―――ビバーチェアはまだ気がついていないな」


縁談を潰したのは、話を持ってきている私なのだということに。



―――私はいま庭でオルヴェンズとお茶を飲んでいる。


「また腕をあげたのですね」

「勿体なきお言葉です……」


彼女は私が幼い頃に気に入ったお菓子屋の女流菓子職人<パティシェーラ>なのだ。


『オルヴェンズ陛下、このケィクとても美味しいわ!』


彼女の店から買ったケィクを初めて口にしたときに、美味しい。それだけを連呼した。

幼かったから、良い感想など言えなくて今思えばとても恥ずかしい。

時たまに店から買って貰えたら良いなあ。と思っていた。

すると皇帝に即位する前のオルヴェンズが彼女を城に呼んで、それ以来城専属となった。

街の小さなお店を奪ったのはなんだか申し訳ない気持ちだけれど、せめて城に彼女のケィクを買いにこられる場所を儲けてもらった。


―――彼女の懐があたたかいのは言うまでもない。



ざざり。庭をの草を踏む音がした。



「やあ、久しぶり」

「ファイリオ!?」



――辺境伯のファイリオ=ロドゥナウ。

銀髪を靡かせ、軽快な笑みを浮かべる青年。彼の突然の来訪に、皇帝さえ声を大にして驚く。


彼は皇帝の幼馴染みで、公の間を除いとは気安い間柄。辺境という異国とも繋がりのあるエリアを監視するような役割があるという彼は、ただの伯爵より上の立場らしい。



「久しいな。ビバーチェア嬢」

「お久しぶりです」


椅子からおり、ドレスの裾を持ち、カァティシィをする。


「しばらく姿を見ない間に、立派な淑女になっているな。」

「まあ」


――彼に最後に会ったのは6才頃だろうか。


「だが、私にもオルヴェンズにしているように、自然に接してくれ」

「……」


オルヴェンズは皇帝という立場、本来なら気安くお茶を飲んだり話したりはできない。

だが私を城につれてきた日『二人でいるときは堅苦しい話し方はするな』と言われたのでそう接している。


「再会の喜びの邪魔をするようだが、なぜお前はここに来た。

―――たんなる息抜きか、それとも重大な問題でも起こったか?」


「それが……」



「……なるほどな」


ファイリオの統治するエリアはスパイシエ。その隣国にあるフィエールとグリテアが争いを始めた。

直接はこちらに関係ないとしても、いずれは被害が出てきてしまうことを危惧したとのらしい。

けれどその報告、領主である彼が直々に来る必要はないのではないだろうか?


「どうやら、グリテアかフィエールのスパイが城に紛れ込んだようでな」

「つまり部下は誰もが怪しいのでお前が来たのだな」


なるほど、でもどうしてフィエールまたはグリテアが鋼の国とされるアンヴァートを狙うのだろう。

この国は兵、富、医など必要な物が全てバランスよく整った国だ。


彼らが真っ先に狙うべきは小国。水の多いアクアルドや農民の多い平和な国サタナス。


「奴等が手を組んでこの国を狙うためのパフォーマンスじゃないか?」

「その可能性は高いな。しかし、フィエールは兵器の扱いにたけ、グリテアは植物が多く穏和な国柄。グリテアが一方的に負けるだけだな」

「ならばこちらに進軍されるより先にフィエールを味方につければいい。」


なんだかすごい話を、私の目の前でされている。まあ私のでるまくじゃないのでケィクを食べよう。




ファイリオが領地へ還る。念のために城から二か三人の兵士を同行させた。


「あの……陛下、報告のためとは言っても、ファイリオが領地を留守にしたら密偵(スパイ)が領地を乗っとる!なんてことにはならないの?」

「敵側の考える結果としとはある意味正しいが、さすがに密偵にはそんな大それて目立つことをする者はいないだろう。

それに、密偵はあくまで主に情報を伝える側。乗っとる役目は敵の将だ。領地よりファイリオが命を狙われるほうが先だな」


彼はファイリオには定期的に連絡をするようにしたそうだ。一先ず今は気にしてもどうにもならないけれど。


「きになったのだけれど、なぜ今、フィエールに同盟を持ちかけないの?」


国やファイリオの安全を考えると、すぐにでも同盟を結ぶべきだと思う。


「奴等がこの国を狙うのは、現状・憶測にすぎないからな。

それに、フィエールやグリテアの他にも国はある。

先に動いて敵を蹴散らし消耗していくより、後からすでに敵が減らされた状態で温存された力を解くほうがいい」


――むずかしくてよくわからないわ。


「あ、わかった。とにかくタイミングをはかっているのね」


彼はこくりと頷いた。私はとくに聞くこともないので、書部屋にいく。



―――ほとんど皇帝の趣味で揃えられた書物らしい。


【大女神エレクティエvs大魔王アンラーママン】

善と悪の始まりの神達が戦う壮大なストーリー。

二柱はこの世界に実在するものが元になっているらしい。


―――彼には悪いが、つまらなそうだ。



―――早朝、パタパタと忙しない足音で目が覚める。


「ビバーチェア!いますぐに身支度をして、客人を迎えてくれ!」


扉を叩かれる。何事にも動じないようなオルヴェンズがいつになく慌てて、何事だというのだろう。

こんなの数年に一度あるかないかだ。着替えをすませて、部屋から移動しがてら話を聞いた。



――――遠方から着いたばかりの客人が、こんな朝早くから城に用があるそうだ。


その人物は隣国ジュプスで城に仕える魔導士らしい。

ジュプスとは最大の広さを持つ大国。さすがのオルヴェンズも扱いに困っているようす。

そして、どうやらオルヴェンズではなく私に会いに来たそう。

だからこんな早くからお茶もなしに叩き起こされたというわけね。



「わたくしはビバーチェアともうします。この度は遥々おこしいただき……」

「知っている。挨拶はいい」


これを間髪入れずというのだろうか、最後を言い切る前に言葉を遮られ、少し驚いた。

気難しい方なのだろうと一発で理解できる。


「我がなぜ……このような小国に来たか、聞きたいようだな」


ジュプスと比べれば、アンヴァートは小さいだろう。それでもこの国は優れている。

―――彼には1かそれ以外の価値しかうつっていないようだ。



「ええ……よろしければお聞かせ願えますか?」

「我はお前の母親とは従姉弟にあたる。よって、お前を我が花嫁として連れ帰る」


―――なんですって!?



――あれから彼をどうにかするのに大変だった。


『さすがに急すぎます!』


なぜ彼が私に求婚などするのか、理由より先に結果を言われとはすぐに返事などできない。

相手は王子ならともかく、城仕えの魔導師。そう簡単にいうことを聞いているわけにもいかない。

オルヴェンズが交渉し、条件を満たせばジュプスへ行くということになる。


その条件は――――



『ビバーチェア、お前が我を愛せばいいのだろう?』


私が彼を好きになることだという。――――あら、普通。

そのため彼は城に一ヶ月滞在することになった。



「そう警戒するな」

「警戒なんて」


魔導師・ヴィルヴィット=オーヴァ。彼はこちらに歩み寄った。

先程の威圧的な態度は相変わらず。


「すぐにお前から我を求めるようになろう」


彼の言葉は直情的なのか繊細なのか、よく理解しがたい。

オルヴェンズとにらみあっている。


「そろそろ……なぜ私と結婚なさりたいかをお話願えませんか?」

「よかろう」


―――彼は語り始める。



私の母はヴィオレッタは元々名のある魔導師の家系に生まれ、ヴィルヴィットとは従姉弟であった。


一族では母と彼の婚姻を期待されていたが、母は父と出会って一目で恋に落ちる。

一族を捨てて下級貴族の嫡男である父と結婚した。まるでロマンス小説のような話だ。


「お前の母ヴィオレッタはとても強い魔力を持っていた。故に一族にその血をひくお前が必要だ」


――――彼は私に求婚したというより、結婚するはずだった母の代わりを求めているようだ。


「奴から通達があった」

「え?」


―――――ファイリオからの手紙。


それはフィエールがグリテアの王を撃ち取ったという知らせであった。


「であれば予定通り……」


オルヴェンズはフィエール軍国と手を結ぶらしい。そのために姪を嫁がせるそうだ。



「皇帝陛下よ……己の姪より、ビバーチェアが大事という意味ですか」


親族はオルヴェンズに問う。


「なぜそう思う?」

「城に住むほど、丁重に扱われる立場の娘。彼女を嫁がせることは考えられませんでしょうか?」


「―――愚問だな」

「……!?」


「それは、自分の娘は恥ずかしくて嫁に出せない。とでも言っているようなものだぞ」


「……そういうわけでは相手の国は軍を主体としております。娘が心配なのです」

「ならば、そこらの村娘を代役にでもするかな?」


「お待ちくだされ……!」

「どうした。自分の娘がかわいいのだろう。村の娘を代役として、なにか問題あるのか?」

「……いいえ! 村の娘などが代わりでは威厳を傷つけられたも同然で……」


「ならビバーチェアも同じだ。両親もいない。城に住まわせているのはただの支配者わたしの気まぐれだ」




「ラビーニャさんお元気で……」

「ええ、どこに行ってもわたくしは元気でやるわよ」


彼女は嫁いでいってしまった。軍国なんて心配だわ。


――――フィエールとの同盟が上手くいった。ファイリオからの通達にも、変わった動きはみられないとある。

生き残った敗国<はいこく>グリテアの民は居星を移転したそうだ。


明日は我が身。油断しているとこの国も彼の国のようになる。


―――――私も真面目に稽古を続けよう。


「意外ですわよね」

侍女のヴェナが髪を結いながら呟いた。


「なにが?」

「……わたくしめは不思議でしかたないのです。陛下はビバーチェア様をとても大切になさっておりますでしょう?

ですのに怪我の危険をともなう剣術を……」


「大切にしているからこそではないかしら?」


「?」


ヴェナは訝しげにこちらを見ている。


「陛下は私に、普通ではとても考えられないほど良くしてくださっている。

きっと自分ではなにもできないようにはなるな。自分の身は自分で護れとおっしゃりたいのよ」


彼は立場上いつでも傍にいられるような方ではないから。


「……もうしわけありません……わたくしにはよくわかりません。殿方にはいつでも傍で守っていただきたいですもの……」


「いいのよ。考え方は人それぞれだもの」


それにしてもそういう話を彼女から聞くなんて、めずらしいわ。



私もそろそろ、この城から出ることを考えなくとは―――――

相手はどんな方がいいだろう。



【オルヴェンズ】【ファイリオ】

【フランム】【ヴィルヴィット】

【?】【?】

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