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勇者(?)召喚されました

 俺は夢を見ているのか?

 眩い光に包まれた俺は上下左右の感覚が無いまま、あるところで足に地面らしきものを捉えおそらく立っているだろうと思われる状態になった。

 そして、白い光は徐々に光量を減らしていく。

 なんだ? 夢から覚めるのか?

 それにしても立ったまま起こされるとは……。

 でも、これはテレビかなんかのドッキリか? それとも空気センター長の仕返しか?

 俺がそんな事を考えていると目が覚めてきたのか目の前に人影が見えてきた。

 あぁ、やっぱりドッキリだったか。

 俺がそう思った時だった。


 「お助け下さい! 勇者様!」


 『はっ?』


 最初に俺が思った感想がそれだ。

 ドッキリの続きかと一瞬思ったけど、光が晴れるとそこに姿を現したのは見慣れた人物でもなく、俺の部屋でもなかった。

 俺の目の前に広がった光景は目の前に王冠をかぶったおっちゃんが一人、そのとなりにはティアラをつけたおばちゃん、そしてその奥にメイド服と修道着とドレスの三人の女性がいる。

 ちなみに女性はみんな綺麗だ。みんな俺と同じくらいの歳だろうか?

 メイド服の女性は青髪の三つ編み、修道着の女性は金髪、ドレスの女性は銀髪だ。

 それにしても髪の色までいろいろ凝っているものだ。


 そして、俺の立っている場所は見た感じ俺の部屋ではなく、よくゲームとかであるお城の王の謁見の間みたいなところで俺の下にはなにやら模様が書いてある。

 そんなところに立たされている割には俺の服装は着慣れた仕事のジャージだった。

 さすがにドッキリでも俺の服までは着替えさせられなかったのか。

 ……いや、さすがに勝手に服まで着替えさせられてたら訴えるけど。


 「あっ、いや、すいません。こんなドッキリには騙されませんよ? 逆に手が込みすぎです。視聴率は取れないかもしれませんけど、もう家に帰してもらいたいのですが……家でビールと純米酒飲みたいんです」


 俺は明らかにコスプレな恰好をした王冠のおっちゃんに声をかける。

 正直誰がドッキリに応募したか分からないけど迷惑だ。

 俺はゆっくり冷えたビールと冷えた純米酒を味わいたい。


 「シチョウリツ? なんの事か分かりませんが……申し訳ありません。家には帰れません」


 そう言って王冠をかぶったおっちゃんが頭を下げ、それに合わせみんなが頭を下げる。

 おいおい、そこまでしてドッキリを続けるか?


 「いや、もうバレているんだしいいでしょ?」

 「混乱されるのも無理ありません。私の方から説明させて頂きましょう」


 おっちゃんはそう言って顔を上げる。

 説明? やっとドッキリの内容を説明してくれるのか。


 「じゃあお願いします」

 「では……」


 俺が答えるとおっちゃんは姿勢を正した。


 「実はこの国には、危機があった時に勇者を召喚する儀式があります」


 勇者召喚?

 あぁ、設定の話か。

 そこから説明してもらわなくてもいいんだけど……それにしてもネット小説のような展開だな。

 俺はとりあえず無言で頷き先を促す。


 「この国は長きに渡り平和が続いておりましたが、重大な危機が訪れました。そこで我々は遠い過去から伝わる古き秘術により勇者召喚を行う事にしました。そこで召喚されたのがあなたなのです」

 「いや、もう設定の話はいいから!」


 俺がもう設定の話はいいと言葉を返すとおっちゃんはため息をついた。


 「信じてもらえませんか……。おい、あれを」

 「かしこまりました」


 そういうと修道着の女性が俺の元へ歩み寄る。

 そして……


 「なにを!?」


 次の瞬間、修道着の女性は裾からナイフというよりアニメに出てくるような短剣で自らの腕を切り裂いた。

 そして、その瞬間に赤い血が吹き出し修道着の女性が苦悶の表情を浮かべる。


 「……母なる大地の神よ、我に力を……ヒール!」


 女性がそう言うと腕にあった傷がみるみる塞がる。

 な、なんだ!?

 手品にしては……いや、手品でも実際に刺したり切ったりしないし。


 「……信じて頂けましたかな?」


 おっちゃんは俺に声をかけてくる。


 「いや、信じるも何も……どんなトリックなのですか?」


 あんな事が実際にあったら科学も医学も何もあったものじゃない。

 それこそ異世界にやってきたとしか考えられないくらいだ。


 「仕方ない……頼む」

 「はい」


 おっちゃんが『頼む』というと修道着の女性が俺の方へ歩み寄ってきた。

 まさか俺に……?

 俺は危険を感じ後ずさりする。


 「えっ!?」


 不意に俺の腕が掴まれる。

 振り向くとそこには甲冑に身をくるんだ人がいた。

 いくらトリックがあるとはいえあまりにリアルだったし怖い。


 「い、痛くはないんですよね? 失敗とかはないですよね!?」


 身動きの取れない俺に歩み寄る修道着の女性に問いかける。

 失敗とかあったらたまならい。


 「申し訳ありません。失敗はないですが少しの間痛いです」

 「えぇ!? それを失敗というんじゃーーっ!?」


 俺が言い切るより先に短剣が俺の腕を切り裂く。

 痛い! めっちゃ痛い!! 


 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」


 あまりの痛さに『痛い』を連呼する俺。

 これは損害賠償請求もんだ!

 むしろ、民事だけじゃなく刑事的にも訴えてやる!!


 「母なる大地の神よ、我に力を……ヒール!」


 ……あれ?

 修道着の女性がさっきと同じことをいうと俺の腕の傷がみるみるうちに塞がる。

 なんだこれ?

 えっ? ……そう言えば『ヒール』ってよくある回復魔法じゃ?

 ん? 本当にもしかして……。


 「あっ、あの~ここって異世界ですか?」

 「異世界? そうですな、勇者様からすればここは異世界になります。私が異世界から勇者様を召喚したのですからな」

 「えぇ~!?」


 俺はおっちゃんの言葉に驚きの声を上げた。

 とりあえず落ち着いて状況を確認しよう。

 ひぃひぃふぅ~。


 「いろいろ聞きたいことが山積みですけど、まぁここが異世界だとしてなぜ勇者召喚を? それに僕にはおそらくチートな能力もないと思いますが……」

 「チート?」

 「あっ、すごい能力とかです。だから、魔王を倒してくださいと言われても無理ですよ?」


 だって、この世界に来るまでにネット小説みたいに神様に会ってチートの能力もらったりしてないし。

 それに俺の身体自身何も変わってない気がする。

 服もジャージだし。


 「あっ、いや、魔王なんてのは、はるか昔に討伐されていて復活も出現もしていません」

 「へっ? じゃあなんで勇者召喚なんて?」

 「それは世の中が平和で寿命が延びて高齢化していろいろ問題が……」

 「えっ!?」

 「つまり高齢化の問題を解決してもらおうと勇者召喚を行ったのです!」

 「えぇーー!!」


 勇者召喚を行わなければならなかった危機とはまさかの高齢化問題だった。


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