プロローグ
「長い間お世話になりました!」
俺、光明優太は20歳の時にデイサービスに勤務して5年間介護職員として勤務してきた。
その中で、請求業務にも関わったりしながら、介護技術以外の知識も得てついに今年ケアマネージャーの受験資格を得て、受験し見事一発で合格し資格を取得した。
そして、俺は長年勤めたデイサービスでの勤務を今日で終え、有給消化の後に別の施設にてケアマネージャーとしての勤務が始まる。
「最初優太君を見た時はチャラそうな子だと思ったけど、私の勘が外れるなんてやるじゃない! これからも頑張りなよ!」
そう言って俺の勤めているデイサービスのお局様と言われるベテランパートの田中さんに肩をバシバシと叩かれる。
田中さん……むせたりした利用者さんの背中叩く時にその強さはダメですよ。
「はい、次のところでも頑張ります」
俺は背中の衝撃を我慢しながら田中さんに言葉を返す。
まぁ髪の毛は地毛で茶色なだけだし、髪型は流行に合わせているだけで顔は生まれてのものだから仕方ない。
自分で言うのもあれだけど、決して悪い顔ではないと思う。
彼女がいないのは……出会いと時間がないだけだからだ! ……と思いたい。福祉の職場ってなかなか出会いないからな。
単独型のデイサービスの場合は特に。これが病院と併設だったりするとちょっと状況が違うんだろうけど……。
看護師だったり、病棟のワーカーだったり。……でも看護師って結構性格きついからな。白衣の天使なんてのはまやかしだ。ここの看護師の山下さんは顔は笑っても目は笑わない
。
「どうしたの? 光明君?」
「いえ、なんでもないです!」
何かを察知した山下さんが笑顔で声をかけてくる。……目は笑ってないけど。
いけないいけない! 心を読まれる!!
と話が逸れた。まぁ白衣の天使の話と彼女の話はともかく見た目はチャライと言われる俺だけど根はバリバリの福祉だ。
だから、ケアマネージャーの仕事はいろいろ大変だと思うけど本当にやりがいがあると思うし頑張りたいと思う。
――――
その後、いつも空気のような存在のセンター長からの激励の言葉もらったり、相談員の井上さんからのアドバイスをもらったり、フロアの仲間から声をかけてもらった。
「じゃあ、制服返却しにもう一度来ますのでその時はよろしくお願いいます」
俺は施設の近所に一人暮らししているので、洗濯を減らす為にもいつも着慣れた制服である紺に白いラインの入ったジャージで通勤している。
これが、紺じゃなくて若草色とかピンクとかだったらジャージ通勤かどうか迷ったところだけど。
ちなみに、ちょうど週末に送別会をしてくれるみたいなのでその時に返却しようと思っている。
送別会は田中さんにまたバシバシ叩かれそうなので席には気をつけないといけない。
俺は社会に出て飲み会での席の重要さを知った。
それによって飲み会の楽しさがプラスにもマイナスにもなるという飲み会においての最重要課題だ。
「はいよ! ちゃんとご飯食べるんだよ!」
俺のオカンか!
俺は心の中で田中さんにツッコミを入れた。
でも、田中さんは仕事には厳しいけど仕事以外では面倒見の良いおばちゃんだ。
「はい!」
俺は田中さんの言葉に返事をし、みんなからの送り出しの言葉を背に施設を後にした。
そう言えば最後にセンター長にあいさつしないとダメだったな。
……あれ? でも最後どこにいたっけ? まぁ送別会の時でいいか。
空気センター長は最後まで空気だった。
――――――
「さあ、明日からの有休は何して過ごそうかな」
俺はそんな事を考えながら自分の住んでいるアパートへチャリを漕いで飛ばした。
「チャリ通で5分というのは魅力があった職場だったな」
俺はそんな独り言を呟きながらチャリから降りて鍵を掛ける。
ちょっとした考え事をしている間に着く。
これは魅力的な通勤距離だった。
次の職場はチャリで20分かかる。
今の通勤時間とのこの15分の差は俺のライフスタイルに大きな影響を及ぼす。
まず、朝15分早く起きなければいけなくなるのと、帰ってからの時間が15分は確実に減る。
そうすれば、大好きなネット小説を15分読む時間が減ってしまう恐れがある。
ちなみに俺は読み専で多くのネット小説を読んでいる為、15分のロスは影響が大きい。
15分あれば3作品くらいはチェックできるのに。
まぁでも仕事のスキルアップの為には仕方ない。
「さて、今日は一人でお疲れ様会でもするかな」
俺はお酒が大好きだ。
だから、今日は明日も休みだからゆっくり飲もうと奮発してビールとちょっと良い日本酒を買ってきてある。
介護職員の給料ではビールは贅沢品だ。
日本酒も純米大吟醸とまではいかないけど、純米酒を買って冷蔵庫に冷やしてある。
どちらも俺からしたら奮発した買い物だったけど今日は一つの節目だ。
盛大に祝おう……一人で。
「大丈夫、お酒が俺を待っているさ」
誰に言うでもなく、一人呟き俺はアパートの自分の部屋の鍵を開け、ドアを開いた。
『えっ……?』
ドアを開くと真っ白な眩い光が広がり、その光は俺を包み俺を光の渦へ誘う。
「なんじゃこりゃあああ!!!」
そして、声だけが響き俺は意識を失った。