■08 キンマを求めるもの
夕暮れになっても子供達は無邪気に遊んでいた。
赤焼けに染まる地面に伸びる子供達の影は細長く、曲がり、くねり、
時には馬のように――
あるいはトカゲのように――
イビツなものとなって踊っている。
「果ては異形の道か……」
栗毛髪の女は窓の外から見える、奇形じみた影の風景をぼんやりと眺めていた。
「キーツ様。アッペテンが支援を打ち切るといってきました。……キーツ様?」
物思いから戻る逡巡があってから栗毛髪の女――キーツは答えた。
謎の輝く板により、世界最大の嵐が割れた現象。それを起こした栗毛髪の女、キーツである。
「捜査が及ぶのを恐れたな。三枚目はヤツが持っている。奪うしかない。人選は任せる」
「承知しました」
「して、ソティアーナの方はどうだ?」
「居場所は判明しました。しかし、その病室に誰も近づけないのです。何故か同じ場所に戻ってしまうと……」
「意味がわからん。燕も骨なしもか?」
「はい。あの砦は別の妖精領域であり、我らには犯せぬと」
「妖精! 連合に妖精がいるのか……まさか、そんな……! いや、そうなのか……」
「はい。壁画の警告にあったものの可能性が……!」
「ふむ。危険だな。計画を変更しよう。儀式は神殿しかできないと思っていた。だがキンマ盤で運べ、三つ揃えばいかなる場所でも再現可能だと判明した。子供達を連れ回すのは足がつく。『豆』だけでも、その力はみなが知っていよう。部下達の戦力を底上げするため、まずはキンマ三つを揃えることを優先する!」
「はい。部下に伝えます。では――」
巨漢の男は立ち去ろうとしたとき、少年クートが部屋に飛び込んできた。
「ソティは! ソティを助けにいかないの!」
「クート!」
巨漢の男が叱った。気迫に押されたクートだったが、強気に叫ぶ。
「父さんはまた家族をそうやって見捨てるんだ!」
巨漢の男の顔が苦渋に歪み、キーツが口を挟む。
「クート。カラインはよくやってくれている。我が侭を言うな」
「……父さんは白騎士だ。あの鎧があるのに!」
「よいか。今、ソティアーナがいる場所は連合の支部だ。奪い返したとしても、連合が本腰を入れてくる可能性がある。大部隊が押し寄せては――」
キーツは窓の外で遊んでいる子供達を煽ぎ見せる。あの子達が犠牲になるぞと言わんばかりに。
「みんなを守れる保証がない。ぎりぎりまで連合、帝国を本気にさせてはならないんだ。解るだろう? クート。君はかしこい子だ」
「だけど……」
「お前の気持ちは解っている。ソティアーナには別の方法で帰ってきてもらおう。事を荒立てずにな。少々、時間がかかるだけだ」
「戻ってくるの?」
「そうだ。同化現象も始まり――」
キーツは窓の外に視線を促す。地べたに座って二人の少女が落書きをしていた。
「こちらから連絡はできるようになるだろう……安心しなさい」
二人の少女が描く絵は左右対称。
鏡を合わせたように少女二人は同じ動作で、同じ落書きを描いていた。
謎のメモ。
クート兄さん、妹のソティ心配。
同化現象がはじまる。
アルベルの巨乳化が気になるところですが、次回クドルル美術館で聞き取り→