■04 ぽかたん
「もう、ちん〇ん、洗ってあげたでしょ。そんな冷たくしないでぇ。悲しいわぁん」
「子供の時代の話を持ちだすな!」
フォルに追いすがる者がいた。妖艶にも似た色気をかもちだしも、風の軽やかさを感じさせる容貌をもった女性だ。白衣を流し、ツカツカと、踵の高い靴を鳴らし追い掛けてくる。
「で、大きくなったの? 見せてよ。あっ、なんかドキドキしてきたぁん」
フォル達は医術院の清楚な匂いのする、長い廊下を歩いている。医術院は名の通り、医療を専門に行う院で、連合建物内にあるが一部は一般に開放されている。追いすがる女性は、この医術院を統括する医院長セフィロナ・ホドであった。
「ルーネ、どうにかしてくれ……」
セフィロナが苦手なフォルはルーネに助けを求めた。
「その子、大丈夫なの?」
ルーネが顎でフォルが抱きかかえている少女を示し、話題をかえてやる。少女の首には保護ガーゼが張られ、所々にまかれた包帯が痛々しい。
「入ってきたと思ったら、倒れたからな。どうなのさ?」
「もう無視して~。あいつを殴るんだって騒いだせいね。頭部に通電あって意識障害もあるかもだし、手術後で安静にしていてほしいのに。フォルちゃんがなんかやったの?」
「助けたつもりなんだが……」
フォルはソティを見た。意志の強そうな顔つきで年のころは十、十二歳か。
「そうだ! ルーネちゃん! フォルちゃん、検査を受けてくれないの!」
セフィロナがフォルに向き直り駄々をこねる。
「検査なんていい。断じて必要ない」
「また逃げたの? スキルを強制使用したのよ。異常があることもあるわ。検査しなさい」
ルーネが厳しく云った言葉に、セフィロナが頷く。
「そうよ。強制的にスキル使用した人は一週間寝込む人もいるのよ」
フォルは奴隷船の戦いの際、全ての鱗が輝いてない状態でマラークスキルを使用した。
このとき、精神反作用という異変が起きていた。
緑の鱗は精神を司る制御盤のような働きがある。これが輝いてないときは、制御盤が機能してない状態に等しい。
よって、力が行き場をなくし暴走するのだ。行き場をなくした精神力は青い稲妻を生じ身体と精神を崩壊に導くのである。
「検査なんてしたら、白いワンピースを着せられるかもしれない。断じて否だ!」
フォルは憮然という。
「そんなこと、絶対しないわよ」
とセフィロナの眼は笑っている。
「なんて白々しい! じゃあ、赤だな」
「なんで、赤なのよ。赤のドレスじゃないわ、絶対に!」
「着せる気じゃないか!」
「もう、白いワンピースも、赤いドレスも着たくない男の子に育つなんて! リリーったらどんな教育をしちゃったのよ!」
「俺はセフィーみたいな男じゃない!」
「あ~! 言ったわね。このち〇ちんめ! 私は身も心、正真正銘の女性よ。それを~!」
セフィロナが身をよじって怒ったときである。弾けるような音が響いた。いつの間にか起きていたソティが、フォルの顔に、平手打ちを食らわしている。
ソティはフォルの胸元から転げ落ちると、両拳を構えた。
「このぽかたん! 私は連合の捕虜なんかにならないぞ! ぽかーたん!」
叫ぶなり、ソティはてけてけと走ってゆく。
あまりのことに、残された三人は互いの顔を見つめるだけであった。
捜査メモ。
セフィロナは胸がでかい。でも元男。
ルーネ。クールぶっているが、フォルのち〇ち〇に大変興味。
逃げたソティを追跡開始→