■42 フォーブラの怪物 《龍首ミールレ》
フォーブラの怪物《龍首ミールレ》は動かない。
白騎士カラインが大剣を掲げ発生させた稲妻は、突如と出現した鉄柱に落ちた。
「な!」
カラインは横目に土中からいくつかの鉄柱が上へ伸びていくのを確認する。確かあの男のマラークスキルは金属を変形させた。こんな火山地帯だ。素材は豊富にある。土中にある鉄鉱か砂鉄などを集約させ鉄柱を精製したのだろう。
「避雷針を作り、稲妻を封じたつもりか! この鎧の力はそれだけではない!」
マーテル移動者を凌ぐと思える超飛行能力で、白騎士カラインは空へと一気に急上昇。カラインは滞空し狙いをさだめ、ふと、場違いなものを見たのかと怯んだ。
罪人が立っていた。青い枷を嵌めた罪人が立っている。
「二章解除! 祖は罪人。罪人は鉄球を振り続け、鉄球が砕かれ石刃になりも、その石刃が削がれ、砕け、なくなりも、振り続けた……その罪人が振り続けたのは――」
男の緑真鱗三枚の輝きは全て消えている。今、この男は、マラークスキルを使えない。好機を逃しては――逡巡を捨て、白騎士カラインは男の脳天を狙い急下降した。
「――怒り! 世界への怒り!」
カラインの大剣は何かと激突した。
「これは!」
空からの猛然たる下降力と、その巨漢の体重と鎧の重量をのせた突撃力はそう防げるものでない。
しかし、防がれた。
大剣には青蛇四匹が絡んでいた。
「意志で動く《龍首ミールレ》!」
龍首ミールレは腕組みしたまま動かない。
「ふん!」
カラインは大剣に力を入れ抵抗したが、微動だにしない。これはまるで、からむ四つ蛇に大剣ごと頭上に担ぎ上げられたような状態になってしまった。
たかが四匹で、これだ。信じがたいことである。
「龍首ミールレ? いや、そんな馬鹿な? ぐお!」
そのまま放り投げられたカラインは空中で回転し、体制を整え、対峙する。
「聖騎士団サルウァトルが退治した多頭蛇だ」
シャアアッと四匹の青蛇が威嚇する。龍首ミールレの両手枷それぞれから青い鎖が二つ生え、その先端には鬼灯色に輝く眼を持つ青銅色の蛇頭があった。
金属の蛇だ。鎖の蛇腹をもった異様な金属生命体ともいうべき蛇。
「多頭蛇?……聖騎士団千人を壊滅状態にした? 千首の多頭蛇ミールレか?」
「それは最終章。その鎧は封殺する! ファーブラの怪物として!」
「ファーブラの怪物! あの壁画の、伝説がくるか! 私は子供達のために、今を勝ち残らなければならない。古びた伝説などに、邪魔をされぬ! 雷公を我が身に! 我が身、燃えようとも神速に!」
魔力ある言葉に感応して、白騎士の鎧が白光した。
カラインは魔力の電撃を全身の神経に伝わせ、その運動能力を飛躍的に押し上げた。肉体への負荷も大きく諸刃の力だが使用しなければ負けると判断したのだ。
白騎士の鎧は飛行能力、雷を発生させる力、常に鎧の表面を漂う付与魔力は防御性能を堅強と高め、着用者の運動能力と反射神経をブーストする能力まである、攻防一体となったレベルの高い魔具。こんな魔の鎧と一般の人間が正面からやりあえば、瞬殺だ。
カラインは盾を投げ捨て、両手で構えなおすと、地に降り立ち、龍首ミールレと正面から対峙する。
緊迫した間。
カラインは一刀。
光速ともいうべき斬撃を繰り出す。
血の噴出があった。
龍首ミールレは身を裂かれ、顔まで血を浴びたが、動かない。
「本当に、やるのかね?」
龍首ミーレルは腕組みしたまま、不敵に問うが、動かない。
「やらないでか!」
白騎士カラインが叫ぶ。
白き騎士は挑む。
四つ首の多頭蛇――龍首ミールレに。
ぼん! と灼熱のマグマが跳ね上がったのを合図に、激闘が始まった。
「しゃぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!」
その場に荒れ狂うのは青と白の暴風である。
大剣と四つ青蛇とが激突し、不快な音をかち上げる。
男二人の間で、火花が美しく散る。
カラインはたとえ消耗戦になろうとも重装鎧で武装するゆえ有利であると判断していた。
「くっ! 鎧を削がれる!」
青蛇が魔具ですらある白鎧を食いちぎる。さらにだ。鎖というものは皮膚を挟むことがあり、タイミングと力の入り具合では、肉ごと削ぐことがある。驚愕すべきことにそれが鎧に対して起こる。付与魔法で強化されたはずの、この鎧を削ぐのだ。
青鎖がカラインの白鎧を削り薙ぐ!
まさにそれは魔の青鎖!
白と青の軌跡が激しく走り、何合、何十合、何百合の斬撃が飛び交い、火花と金属片が飛び散った。
(くっ! 判断を違えた! 剣の方が持たぬ!)
カラインは後悔した。大剣の刃こぼれがひどい。がりがりと削られる。
(飛行を使った突撃に? いや、技量でなく、鎧に頼るほど、私は魔具に染まったのか!)
カラインは自嘲の念を禁じえず、ふいに、それが起きた。
(緩んだ! 三匹に!)
襲いかかる青蛇が三匹になった。蛇の猛攻が少し緩む。その激戦の間にできた糸筋に近い空白の刹那をカラインは見逃さなかった。
カラインは渾身と電撃の力を込め、龍首ミールレの首を狙い大剣を走らせた。
「むっ! スキルで、手を、鉄に包んだか!」
衝撃と共に大剣は龍首ミールレの金属に包まれた鉄色の手によって防ぎ掴まれた。
「まだ、本当に、やるのかね?」
龍首ミールレに問われ、カラインは怯んだ。凶悪な視線だ。眼光は仮面で隠れて見えぬのにこの圧力。絶対的捕食者である蛇か竜かにでもひと睨みされた重圧に似ていた。
(この男、全力で戦っていいのかと、問うているのか? これで……まだ?)
とカラインはこの戦闘中いなくなった青蛇の行方を探った。紅い美女によって一方的に殴られている骸骨のようなものを青蛇が引っ張り逃がしてやっていた。
「あれは……トランか? 敵であるトランを救ったのか?」
大剣を握る力が緩む。
「……私の敗北だ。この状況で救う、私では到底勝てそうにない。好きにしろ」
カラインは大剣を放り投げ膝をおった。
「本当にいいのか?」
「……ここまでして、お前はその場を一度も動いてない……」
そう、龍首ミールレは動かない。力量の差がありすぎる。
「その鎧は封じる」
龍首ミールレはフォーブラの刻印を輝かせも、動かない。




