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■40 フォーブラの怪物 《天裁き火手》

 フォーブラの怪物《天裁き火手》は構える。


「こんな水気の場所だぞ! しけちまって、火銃は撃てんはずだろうが!」


 妖精燕(フェイスワロー)を使役していたハイツが叫ぶ。


 火銃は濃密なガスクラウドや水気のある場所ではほとんど使い物ならない。地の利も妖精燕(フェイスワロー)を使役できる強みからも負ける筈がない。ハイツはそう思っていた。


 しかしハイツは脇腹を狙撃され、相棒ともいうべき妖精燕(フェイスワロー)ペレグリーすら片翼を適確に撃たれ、地表に落ちた。

 あの銃士の男がなにかに変身したのだ。このよう場所でも狙撃できる怪物に。


「これ、火手(リーマ)だから。あらゆるものの火種の手さ。火種という現象を起こす火だ。そのケガでは、もう抵抗は難しいだろう。妖精燕(フェイスワロー)くん共々、大人しく投降してほしい」


 天裁き火手は燃える右手で銃を構える。


「黙れ! 俺達は自分の国すら自由に歩けなくなった……ぐはっ!」


 ハイツは吐血した。


「こ、こんな所で、こんな奴等に負けるなど許されない! こんな奴等に……!」


 口から血を溢れさせたハイツが悔しさに砂利を掴むと、淋しげな嘶きが聞えた。緑燕ペレグリーが撃たれた翼を引きずり這いずり、ハイツの元へ健気に進もうとする。


「ペレグリー……?」


 ハイツは懸命にはい寄る緑燕ペレグリーに手を伸ばす。


「そうだ……俺とお前はいつも一緒だった。根っこをかっ喰らい……今日まで惨めに生きてきた……そうだ! 自由に……旅立つ……! そうだよな……!」


 笑ったハイツの眼と緑燕ペレグリーの眼が同時に輝いた。


「やめたまえ! それに同調してはならない!」


 天裁き火手は一瞬迷いも緑燕ペレグリーを狙い発砲した。緑の翼が飛び散って光が弾けた。羽根の繭があった。ハイツを包んだ羽根の光繭。銀弾はそれに弾かれていた。


「もはや、銀弾は効かない……」


 天裁き火手は哀しげに銃を構える。


 光繭が開いて、異形の姿と変貌したハイツが現れる。相貌は燕と混じったものとなり、翼を生やしていた。鳥人というべき姿であった。


「これは……! これは……!」


 ハイツは己の鈎爪の両手を不思議と眺めた。


「ジーニアス現象だよ。付き添い(アンダント)型の妖精に起きる。守護精霊(ジーニアス)はずっと一人の為に付き添い、その運命を守る精霊さ。けれどもその均衡が破れる時がある。魂から妖精と共鳴したときだ。一緒に同じ場所に立とうしてしまう。複数の魂は同じ場所に立ってはならない。複数の魂は同一同地に存在してならない。守護精霊(ジーニアス)がジュニイという複数の言葉になってしまう。ジュニイは悪霊、鬼神、悪霊を意味する言葉だ……」

「俺は力を得た……? 力を感じる……!」


 鳥人ハイツは凶悪な相貌で喜ぶ。


「止まる気はないかね」

「止まる? 何故止まる? ペレグリーの翼をもらった! お前らの平和を奪える!」


 すると、突然、空一帯が数万の羽根で埋った。凄まじい魔力の解放だ。


 鳥の嘶きがあった。ハイツの声だったのか、それとも緑燕ペレグリーの声だったのか。歓喜の嘶きを合図に、数万の羽根が襲いかかった。


「そうかい……三章を解除!」


 天裁き火手が銃を構えた瞬間、数万の羽根が弾け飛んだ。驚異の技であった。一瞬で、万に及ぶ全ての羽根が撃ち落とされたのだ。


「お前、それは!」


 鳥人ハイツが驚きの声をあげる。


「三章まで解除可能になってしまった。今の君がそれほどの存在ということだ。僕がフォーブラの怪物《天裁き火手》として真に戦わなければならないということ」


 額から白銀の一本角を生やした美女とも云うべき天裁き火手が、右肩まで燃える炎の右手で、銃を構えている。炎は煉獄の火とでも天火とでも言うべき業火であった。


「君のような存在は時々歴史に現れた。そういうのを神ともいうのかな。神と崇められ教団ができたりする。僕は、そんな神殺しの武具を創り、大司祭に裁かれた悪鬼の名を受け継いだ。火銃を発明して、世界に戦火を広げた怪物《天裁き火手》を!」


 天裁き火手は銃を連射し、左手のマラークの力を発動させた。


「当たらん、当たらんぞ! 俺は今、自由に飛べる!」


 小さな光る弾を軽く躱し、ハイツは笑った。


「すまない。君は力に目覚めたばかり。雛鳥に等しい……のに、僕は全力をだした。三章までの解除は火手を削ぎ、魔弾と撃てる。それを――」


 天裁き火手は左手に輝く円輪を構えている。


「マラークスキル!」

「そう、知っているよね。これで何度も君の風撃を阻止した。今回は撃った魔力の弾を空気で圧縮して粒。粉に近い状態で放った。君はそれほど恐い存在なんだ」


 鳥人ハイツの周囲が綺羅綺羅と輝いている。世界が光の粒で煌めいている。幾つもの圧倒的な爆発力を持つ魔弾が命中することなく粒として、小さく小さく舞っていた。

 粉塵が舞っている。その中に、鳥人ハイツはいた。


「当てることは目的ではない。君の力を削ぐことが目的……」

「くそ! 弾を、いや、爆弾を圧縮して粉と撃ちやがったな! なんてやつだ!」


 純粋無垢な魔力の爆発が起きた。マラークスキルによって超圧縮されていた魔力の弾がふくれあがり、その力が解放され、鳥人ハイツは乱れ巻き起こった爆発の大渦に飲まれた。

 鳥人ハイツは力の得た意味も実感する間もなく、徹底的に翼をもがれ、墜落したのだ。


「憎しみの車輪は現世に湧き出れば潰されてきた……封殺させてもらおう!」


 天裁き火手はフォーブラの刻印を輝かせ、構えた。

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