■34 シャーガル祭
「……今日は騒がしいのね」
ソティは病室の窓から外をぼんやりと眺めた。
青い空に白い煙がぱんぱんと跳ね上がっていた。お祭りでよく打ち上げられる鳴り物花火だ。
「今日はシャーガル祭だからよ」
妖精ペペリーナは全身の反動を使いモジャブランにフォークを刺し、極上の笑みを浮かべた。
「……ど、どんなお祭りなの?」
ソティがぎっくりと身を震わした。
『逃げる必要なし。流れに任せよ。シャーガル祭。贈り物。必ず受け取れ。豆を食べよ』
同化現象によって書かれたあの言葉をソティは思い出した。
ついにこの日がきたのだ。何が起こるのだろうか。気が重く、ソティは胃がきゅっと縮むのを意識した。目眩も覚えてくる。不安だけがソティの心を縛っていく。
「ここにも来るから、すぐ解るよ。それより、モジャブラン、モジャブラン♪」
と、ケーキを口にしようとした所で、ペペリーナはむくれた。
「もう! きたみたい。これ、食べちゃ、やーよ」
そう言ってペペリーナが飛び上がると、ぱっと姿を消した。
「は~い。ソティちゃんいる~~♪」
聞き覚えのある声がして、ソティが渋い顔をした。あの人はどうも苦手だ。
やってきたのはセフィロナと道化師一団だった。
たちまち病室には音と踊りに溢れた。
「今日は豊作を祝うシャーガル祭。豊作を祝い、子供達には贈り物を~ぉ!」
道化師のひとりがリボンのついた大きい箱を手渡してきた。
「はあ……ありがとうございます」
「ソティちゃん! 元気ないわね~。今日はお祭りよ! 元気だして! 次、いくわよ!」
セフィロナが元気よくはしゃいで飛びだした。一団が後を追い、その中のひとりの道化師が何かに気づき立ち止まった。
「おっと、忘れていたぞぉ。あの人はお母さんかな? シャーガル祭の日は働きに出てこられないから渡してほしいって。はやく、元気になるんだぞ!」
これもまたリボン付きの小さな箱を渡すと、道化師は軽快な足つきで出ていった。
「わかった? こーいう、お祭りなの。開けてごらん♪」
妖精ペペリーナが現れて言う。小さい箱を持つソティの手が震えていた。これを開けるのが怖い。ソティは小さい箱をおき、大きい箱から開けだした。
「なにかな。これ……?」
大きい箱に入っていたのは、グラジオラスの花を頭につけたキテレツな女の子の人形だった。ぎざぎざ口にクマの入った三白眼と不気味な造形をしている。
「それ。グラジオラスちゃんよ。連合の、ほら、なに? マスコットってやつ。ちまたじゃ、子供が泣く、夜中に悲鳴あげそう、一晩たったら花びらが伸びているとか、評判が悪くって……」
「可愛い!」
「え”!」
ソティがグラジオラスちゃんを抱きしめ、ペペリーナは素っ頓狂な声をあげた。
「……ソティが可愛いというのならいいんだけど……」
「連合の子はいいわよね。なんもしないで、こんな風にものをもらえて……」
ソティはしんみりと言って、小さい箱のリボンをするすると解きだした。
「あれ? ソティのパパとか、ママとかさ。誕生日ぐらいはプレゼントを――ソティ! その箱には、なにがはいっているの! 開けちゃだめ!」
背筋を踊らせペペリーナが恐ろしいほどの異質な気配を感じ飛び上がった。
ぺぺリーナは目を見開き、戦慄していた。妖精であるからこそ、鋭敏に感じ取れる異質感。あきらかに、その箱の中にあるものはこの世のものでない。魔力を宿すぺぺリーナの目には、箱から黒々とした臭気みたいなものが溢れているのが見えていた。
「……これがお父様から誕生日プレゼントなのかな。生まれ変わるための……」
ソティが一抹の悲しさを声に交え小箱を開けた。
箱には綿が敷き詰められ、コルク蓋がされた試験管の中に青の『豆』が入っていた。
こんなカードが添えられて……
『あなたの未来をこの種を育てることで咲かせてください。美しい花を咲かせてください』
贈り物を検閲した人物は病弱な子に対しての激励と判断した。しかしソティには、その真の意味が痛いほど噛みしめられた。
「美しい花を咲かせてくださいなんて……笑っちゃうね。私はもう咲くことはできないのに」
ソティは泣きそうな、酷い苦しさが入り交じった顔で半笑いした。




