■31 密林の聖地
「原住民の話では大昔、密林の奥に精霊使いやドルイド僧が集まった聖地があったそうよ」
連合側のヘリコニア国統括地にある朽ち果てた尖塔の影にルーネとファンテが佇んでいた。
「北の果てにいずる、オーク樹の精霊様よ! 何故!」
ヘリコニア兄王が叫んだその一言は、密林にオーク樹があるという不可解な謎である
それを突き止めることがキンマの解明する手がかりになるのではないか。
信憑性の怪しい情報であるが、キンマの情報は不足している。少しでも手がかりを求め、二人は高速飛空艇を乗り継ぎヘリコニア国へとやってきていた。
密林用に服装をかえたルーネはファンテをベルトで固定し抱え込み浮雲珠と共振すると、高く舞い上がった。
「……酷いね」
「そうね……」
飛行する二人が見下ろすのは、ヘリコニア国の荒れ果てた風景であった。
度重なる戦乱によって王家の城は半壊し、町は瓦礫の山と化している。民は貧困にあえぎ、道端に倒れ込み、生きる活力がない。灰燼に埋もれる死と絶望の都だった。
そのうち二人は王都の北東に広がる密林地帯に入った。
王都を捨て、この密林を開拓し住めばいいと考える人間は密林を知らぬ愚者である。
密林には蛇、蠍、蛭、鰐などが生息し、人を脅かす疫病が存在する。その脅威が1エメロ(km)での開拓で五百人の死者をだし、いやその前に蚊を駆除し疫病に備えも必要であり、開拓終了までには百年以上かかるだろう。原始に近い密林とはそういうもので、迂闊に手をだすものでない。
「あったわ……!」
五時間半ほど飛行し、密林の中にぽつんと開けた場所を見つけ舞い降りた。
立石が円形状に起立し、中央には巨大な石門が立っている。熱帯特有の高温多湿さがなく空気が澄みきって、涼しさがあり、異境の世界をようしていた。
「妖精の惑わしで同じ場所をぐるぐる回る仕掛けがあったわ。入口は途絶えてないのかしら?」
「ルーネちゃん。入口があるみたい。異界への門がある」
12班で最も秀でた第二の感覚を持つファンテが石門の間を指差す。なにもない空間。ファンテの第二の感覚はそこに、隙間から洩れるような朧気な光を感知していた。
指摘されてやっと気づくレベルだ。
「刻印の力を反転させて、こじ開けましょう」
ルーネが左手を突きだし、ファンテも突きだす。二人の掌に大甕を意匠した刻印が浮かび、緑の閃光が放れた。
「堅い……時代が大昔なのね……」
ルーネとファンテが脂汗をかき、顔を歪ませた。古い時代にあったものほど今の時代と交信を途絶えさせ、繋がってないのだ。二人は力を放出し続ける。
――聖地を荒らすな……!
重圧な声が響き、周囲の密林が立ち上がった。人面の貎を浮かべた密林が枝状の腕を振りかざし、地面を力強く踏み締め歩いてくる。
「ウソ! 今も、こんなのがいるの!」
ルーネがぞっとした。森の守り人とも呼ばれる数十体の樹木人達だった。
(どうする? 守り人を敵にまわすのは……)
ルーネがそう逡巡してしまったため、回避行動が遅れた。
樹木人はルーネの背後に歪な樹木の手で伸ばし。一気に掴みかかる。
「ぎゃあー!」
人体を粉砕するほどの怪力がその身にかかり、ルーネは血反吐を盛大に吐きだした。
ルーネは体の中に鉛の重い芯が生まれたかのように、どっさりと落ちた。白いろっ骨が脇から突き出ている……ピクリとも動かない。
「ル、ルーネちゃん!」
ファンテは膝を折り、衝撃にほうけた。
(ルーネちゃんが! ルーネちゃんが!)
ファンテの意識は硬直し、ルーネの名前を繰り返すだけであった。
樹木人がファンテに血に濡れた手を伸ばす。
捜査メモ。
ルーネ死亡→




