■30 空賊×キーツ×連合
「まずい、はじまっちまった……!」
木の枝の上で、フォルは双眼鏡で遠方を確認していた。
フォル達はアッペテンが雇い入れた空賊達の動向を隠れながら追跡していた。一時休憩をしていたと思ったら、空賊達の船が急発進しだしたのだ。
これはキーツ達の飛行ルートを先読みして待ち構えていたというのが正しかったのであろう。
空賊艇二機が向かう先。暁光がしみ出した山間の上に、骨魚のような飛空艇の影があった。キーツ一味の飛空艇だ。
キーツ一味は飛空艇二機とコンテナ式住居を抱える飛空艇オスピスキス一機。その周囲に、突如、小型浮遊機数十機に乗る空賊が火銃を乱射し煽るように飛びだしてきた。
小型浮遊機は鸚鵡の嘴みたいな形をした二人乗りの浮遊機であり、急激な移動が可能だ。
空賊艇二機のサイドハッチが開かれ、空賊達の男女がずらりと現れる。飛空装置を装備した飛空使い、あるいはマーテル移動者である空賊達三十名が一斉に飛び立つ。
「コンテナを落とせ! 子供を人質にする!」
空賊達がわっとキーツ達の飛空艇に蝿如きとたかる。
火銃や戦斧を構えた空賊に紛れ、背にポンプを装備する不気味な処刑人を彷彿させる防護服の空賊の数人がいた。腐食液を噴出する酸戦斧を装備した空賊で、飛空艇オスピスキスが抱えるコンテナのフックに酸戦斧を叩きつけ、破壊工作を開始する。
「ぎゃあ!」
その酸戦斧を振っていた空賊の両腕が飛翔戦斧で切断されとんだ。別の飛空艇の上に立つ奴隷印官トランが飛翔戦斧を自由自在に操り、突撃火銃を発砲し応戦をしていた。
「悪き旅行者に風を!」
空を飛ぶハイツが肩の妖精燕に命じた。迫ってきた空賊艇のサイドハッチ内には火砲を構える空賊がいた。妖精燕が放った風撃がその空賊達に直撃する。
すぐさまハイツはサイドハッチ内に急下降。
妖精燕は羽の乱射し、ハイツは両腕から仕込み剣を吐出させ、空賊達を斬りやった。
「いかんな」
フォルは木の枝から飛び降りると、飛空移動し、下で待機していた飛空艇の搭乗口に飛び込み叫ぶ。
「俺達も出るぞ!」
フォルの声に、アルベルが悩ましげな顔をした。
「フォル君。控えている本隊が到着するのに七分ほどかかりそうなんだよ。空賊に見つかったら、作戦が水の泡だから、かなり後ろにいる」
「なら、俺達だけでも出る!」
「無謀だよ! とはいっても出ちゃう、僕達なんだけどね! わははははっ!」
アルベルが巨乳をふるわせ爽快に笑い、隠れていた森影から飛空艇ミルスパッセルを飛び立たせた。
搭乗席の近くにあった拡声器の装置をもってフォルは空賊一団とキーツ一味に叫ぶ。
「こちらはグラジオラス連合銃士班である。お前達は包囲されている。無駄な抵抗はやめ、大人しく投降せよ! 繰り返す。無駄な抵抗はやめ、大人しく投降せよ!」
「僕達一機だけなのに説得力がないね。仕方がないけど、……おっと」
キーツ側の飛空艇の機関火銃台が一斉掃射され、空賊艇の方からは煙の尾をひかせロケット弾を発射してきた。
飛空艇ミルスパッセルが急激な弧を描き、躱す。
「どちらも攻撃してきたよ! このままじゃ墜落する! フォル君! どこにゆく!」
「緑のキンマ盤か、子供達か、キーツのどれか確保すれば、計画は阻止できる。いってくる!」
フォルが搭乗扉をあけ、銃弾が飛び交う空へ飛び降りっていった。
「キサマ、覚えているぞ! ママンでも見られない顔にしてやる!」
空賊達と剣劇を繰り広げていたハイツがフォルの姿に気付き妖精燕に命令を下す。
空賊の飛空艇に着したフォルはカカカカッ! と妖精燕の放った羽を背に躱し、走った。
ハイツが憎しみに顔を歪め、血のついた白刃を構え、フォルに迫る。
フォルはハイツの白刃を、銀鎖で一撃、二撃、三撃、四撃と受ける。
と、フォルは刃と銀鎖がぶつかり合う箇所を基点と――
ぐるんと、
飛空移動で上へ跳ね飛んだ。
驚愕の技である。後からフォルの頭を狙った飛翔戦斧が虚しく空を斬る。
「畜生! あれを躱すか!」
ハイツが頭上を飛び越え逃げられたフォルを、憎らしげに睨んだ。
「騎士の旦那! 空賊の新手だ!」
ハイツはそれに気づき叫んだ。空賊艇四機が接近してきていた。
「アッペテンめ……何人の空賊を雇ったのだ!」
白騎士カラインが頭上に構えた大剣が輝き、空賊艇四機へ稲妻が降り注いだ。
稲妻によって計器に不調を起した空賊艇一機が煙をあげ落ちてゆく。空賊艇一機は落ちたが、空賊艇のハッチが開かれ、空賊達が血気盛んと火銃や斧を掲げ飛び出してきた。
白騎士カラインは空賊の連射される銃弾を何百発食らいも気にとめず、殺戮の刃を振るう。白騎士の大剣で空賊の四人が胴体を真っ二つにされぶっ飛んだ。
「混乱に乗じてと思ったが……少し考えが甘かったか」
フォルは襲いかかった骨なしの怪物を銀鎖で打ち払う。続けて銀鎖を操り、襲ってきた空賊数人を弾き飛ばす。今度は空賊が襲いかかってきたのだ。フォルは空賊をけりとばした。
「銃士班、突入!」
七分後――朝日の空が飛空移動で飛翔した銃士数百人で一瞬ばっと埋まった。
空が銃士班の影で埋まる光景は圧巻であった。
銃士班隊本隊の突入の開始である。グラジオラスの花がペイントされた連合中型飛空艇、数十機の大筒より投網が撃たれ、空賊がからめ捕らえられる。
「仲間を離しやがれ!」
空賊数人が仲間を助けようと銃士班隊に肉薄する。飛空装置の銃士数十人が組織化された動きで飛びだし、飛空艇に張り付いた空賊達を電撃棒で失神させ、叩き落とす。
戦況が混戦となって銃士対空賊に流れ始めた。それはキーツ一味にとって好機だ。空賊達によるキーツ達への攻撃が緩み始める。
(高度が下がってきている……地表に近い。子供達だけでも……!)
フォルは飛空艇オスピスキスを目指し、その上に着地した。コンテナのフックのほとんどが空賊の破壊工作によって、白い煙をあげ溶解しかけているのを確認する。
フォルは右手を輝かせマラークスキルを発動させ、傷一つないフックを触った。
「連合の犬が!」
猛然と飛行してきた白騎士カラインが剣を振り降ろす。
「ヘリコニアの悲劇は解る。だが、子供をお前達の下らぬ陰謀に巻き込むな!」
フォルは大剣を銀鎖で受け流し、下がりながら火銃を抜きさり反撃――
「下らぬだと! これは贖罪だ。子供達の未来も国も奪ったのは、お前達なのだ!」
銃弾をその強固な鎧で跳ね返し、白騎士は次の一撃を繰り出す。
「その子供の未来を犠牲に、正義の鉄槌の一撃など下すな! 外道のすることだ!」
「外道? 笑わせるな! 虐殺という文化を我らに教えたのは、他人を区別し詐取するお前達のような国々ぞ! キンマの力なら連合、帝国など無意味! 贖罪を受けるがいい!」
フォルは身を傾け白騎士の大剣を躱し、空気の流れから別の殺意を察知すると、
「通じゃねぇ!」
前転しつつそのまま飛空移動後退と――前転して進んだ物体がいきなりジャンプ後転して戻っていたという、飛空師範代が見たら失禁する動きで、フォルは襲来した緑燕の羽、飛翔戦斧、煌めいた白刃、それら三種の攻撃全てを躱す神業如し動きを披露したが――
「終わりだ、連合の銃士よ」
白騎士の剣先がフォルの顔前にあった。奴隷印官トラン。妖精燕憑きハイツ。白騎士カライン。フォルは三人の敵対者に包囲された。三者が寄せる殺意量は凄まじく、フォルの命を奪うのは白騎士の斬撃か、トランの斧か、ハイツの風撃か。
「いいか。子供達を犠牲にするな。戦争をするのなら、まずはこの俺が受けてたつ!」
「はん! この状況で何をいってやがる! キサマは終わりだ!」
ハイツが勝者のあざ笑いを浮かべた。
「終わりじゃない。……子供達は俺達が保護する!」
「戯れ言を……その罪を死で贖え! 連合の者よ!」
白騎士カラインが大剣を突きだそうとしたときであった。
ぱらぱらと奇妙な音がした。コンテナの上を数百の小さな球が転がっていっていた。
「何だ? 玉! キサマ! フックを玉なんかにしやがったな!」
ハイツが叫ぶ。鉄の軋む嫌な音がした。ひとつのフックがなくなったことにより、腐食していた残りのフックが重量に耐えられず、一気に折れ、コンテナ住居が落下した。
「子供達が!」
とカライン達に広がった動揺は大きく心と行動が一瞬、硬直した。
フォルにとっては一瞬の硬直こそ、好機――
「子供達には新しい希望を与えてやる……」
フォルは呟き、閃光手榴弾を投げ、光で視界を奪うと、飛空移動でふっと消失した。
白騎士カラインが急ぎ浮遊する。フォルが発煙筒で白煙をまき散らし、下方は白面と化してコンテナの位置が確認できない。そして、銃士本部隊が追い掛けしてきた。
(連合の本部隊か。逃げる機は今しかない……奪回は無理か)
あの大軍からコンテナを奪回するのは困難と覚悟を決め、同化現象による交信をした。
――クート、すまぬ。
――父さん……!
息子の哀しげな声がかえってきた。それ以上の交信はせず、白騎士カラインは後退した。
息子達は連合に処理される……
白騎士カラインはそう想いをはせ、息子に永遠の別れを告げた。
「空賊達はほぼ全員を捕まえた。これでアッペテンのことをしゃべればいいが……問題はキーツの部下達だ。連合に屈服などはせぬと、ほとんどが自害してしまったよ」
「死をかしているな……」
フォルが頷き、切なげにアルベルが頷いた。
「あれがそうかい? さっき、あの窓から双子の女の子がこっちをみて、すぐ隠れたよ」
まだ残留する白煙に包まれて、コンテナ式住居があった。清々しい朝だというのに、木立の影によって縞模様がつくられ、不気味めいた情緒があった。
「子供達を、あんまり怖がらせないようにしないとね……」
アルベルが言い、フォルが懸念ぎみに口を結んだ。二人が歩き出す。
クートの日記……排気口……隠れんぼ、その違和感の答えがここにある。
フォルはコンテナの扉に手をかけた……
捜査メモ。
ルーネ達。キーツのヘリコニア国へ。
果たして、密林にオーク樹の精霊などいるのか→




