■27 ブランコを乗る場所
コレトが語ってくれた楽しい冒険譚。奇妙な食事会。そして妖精の友達ぺぺリーナ。
不思議な体験だった。
ソティは自分の心に穏やかな暖かい気持ちが広がっていくのを意識した。
こんな気持ちになるのは何年ぶりだろう。いつも何か怯え、気を張って、強がっていた自分。いつも心に刺さって痛かったトゲが、今日は痛くない。
だから、礼ぐらいはいってやってもいい。
「今日は、一応、ありがとう……」
ソティは病室の前までくると、口をとがらせいった。
フォルは苦笑を禁じ得なかった。ソティは少しそっぽを向いて恥ずかしそうにその一言を捻りだしていたから。
フォルはそんないじらしいソティの姿に気をゆるませ、つい、その言葉を口にした。
「そうだ。このまま、この連合で、ずっとブランコに乗らないかい?」
ソティは顔を喜びで輝かせた。しかし窓が闇色に染まり鏡となって映った自分の表情に気付いてしまい、ソティは酷い心の痛みを受けた。
いつも心に刺さっていたトゲが、ナイフとなって刺さってきた衝撃に近かった。
(喜んでいる。私、喜んでしまった……喜ぶなんて、私は……にくらしい!)
悔しかった。とても悔しかった。お兄ちゃんや仲間が苦しんでいるのに、それを見捨てて連合で暮らすことに喜んでしまった自分が憎い。そんなこと言ってくる仮面男が憎い。自分の愛する国も否定された。
「しゃがんで……しゃがみなさいよ」
フォルが言われた通りに中腰となる。
「そんなことを言うな! あっちだって、ブランコには乗れるんだ!」
言うなり、ソティは平手打ちを豪快に食らわした。フォルの顔から飛空眼鏡が外れ、音をたて転がった。
ソティは小さく口を開けて身を固めた。フォルの仮面の下にあった瞳と傷を見てしまった。あまりの驚きで、ソティはそれを隠すように病室へ荒々しく逃げた。
ソティは混乱した思いとともにベットの上に倒れ込む。
「ふ~ん。ソティは嫌われたいんだ」
ペペリーナはソティの周りを旋回して伺うようにいった。
「嫌っているの。あいつら、優しくして、私を利用しようとしているだけなのよ!」
そう強がるソティの小さな姿に、ペペリーナの瞳が哀しみに潤んだ。
「本当に、そう思っているの?」
ソティは身をびくっと躍らせた。
「……あのね。私は身分が良かったから、少しはまともな生活していた。だから、その身分に見合った責任をおわなくちゃいけないの。私、私ね。殴られてばかりだった……!」
「誰に殴られたの!」
「お父様。味方のお父様は私をぶってばかり。責任を持て! 身分があることを自覚せよって! えぐ……こっちの人は誰もぶたない。それどころか、優しくしてくれる……!」
ソティはシーツを力強く握りしめ、泣くことを懸命に耐えていた。
「私は、帝国や連合の人間は怪物だと教えられた。でも、同じ人間だった……食べて、お話して、笑って。ここにいる人達は人間だった。私の敵はどこにいるの? 私の国を奪ったヤツラはどこにいるの! 私のお母様を殺したヤツラはどこにいるの!」
ソティは叫んだ。ぽろぽろと涙が流れる。胸が苦しくって堪らない。どうしていいか解らない。だから一番楽な方法をとる。それが間違っていることだと知りながらも。
「だから、嫌うんだ……」
「そうよ! 嫌うの、嫌われるの! これ以上、優しくされたら……アイツらを殺せない、殺せないんだよ! 私は、私の国を平和にするのぉ!」
悲痛な叫びをきいて、降り立ったペペリーナはソティの頬を優しく撫でた。
「……人間の世界はオカシイのね。私にはさっぱり理解できない。何百年たっても、肌の色が違う、言葉が違う、神様が違うって争って、同じことの繰り返し。そうやってしか生きられない。でも、私はいつまでも、そうやって生きていくソティの側にいてあげるよ」
ソティは驚きの瞳でペペリーナを見た。
「なんで…?」
「ソティが金髪ちゃんだから!」
「なによ、それ!」
「えへへへへ……」
ペペリーナは恥ずかしそうに笑った。下らない理由や原理はいらない。妖精ペペリーナはソティが大好きなのだ。大好きな人のためにしてあげる、だだそれだけのこと。
「……ありがとう。だけど……」
ペペリーナは優しさこめた顔でそれ以上言わなくっていいと首をふった。ソティは壊れそうな心の、唯一のよりどころみたいに、ペリーナを胸元に抱きしめた。
壁に背もたれていたフォルは飛空眼鏡をくいっとなおすと、歩き出した。
「くそ。わかっていた筈なのに……」
フォルは自分の迂闊さを呪った。
大事に思っているものを否定される辛さを知っていた筈だったのに。
優しさと思って、あんなことを口にしてしまったことを悔いた。
ソティはなにより仲間を大事に思い、自分の国を誇りに思っているのだから。
そして思うのだ。
連合に実の親を殺されたフォル。
それでいながら、連合銃士という職にいる。
その矛盾の苦しさ。
「大人のくだらいない思いに、いつも犠牲になるのは子供達だ……そうやってしか生きていけない……こんな世界などクソ喰らえだ!」
少年のとき、大人の身勝手な思いで奪われた、その眼とその傷を背負わされたフォルは理不尽に感じた怒りとともに歩いていく。




