■24 穴
ホルトーレ社製品展示場には、最新式飛空艇に関する設備用品が展観されていた。
「はーい。これがお探しの型番の製品です。見てください。雨風塗装合金の外装は長旅でも安心設計。旅芸人モデルだから化粧室も。中をご覧になるんでしたよね?」
フォルが頷くと、販売員らしき長髪の女性はコンテナ式住居の扉を開き中へ促した。
質素に整えられた室内は意外に広く、収納棚、ソファー、クローゼット、テーブル、二段ベット四つ、キッチン、レストルームと生活に必要なものが一式備えられていた。
これがキーツ一味が使用していたコンテナ式住居らしい。フォル達は現物を見にきた訳だ。
「何人ぐらい生活できるんだ?」
「大人なら八人程度です。別売りに書斎や遊技場が備えられたもの、ベットだけを設備したものなど豊富に種類があります。如何でしょう、おひとつ?」
「営業しなくっていい……」
フォルが告げた。すると女が表情を一転させ、口元を手でおおい、含み笑いを始めた。
「くくくく……顧客リストは正式な手続きがないと渡せないんだからね。これは特別なんだからね。それと、うちの女性社員に手をだすアルベルをどうにかしてほしいんだね」
「失敬な。僕はお仕事の話を交わしただけさ……」
巨乳のアルベルがさり気なくいい、顧客リストの書類を受け取った。
長髪の女はアルベルの頬のキスマークを何か言いたげに睨め付け、胸があることに少し驚いた。
「胸が大きいようだけど……私より大きい。悔しい。私、仕事をしすぎかな。うん。眼の錯覚だな。また小人さんと遊ぶよ。ところで、私の妹は元気にしているのかな」
「元気だな。彼女は毎日、なにかしらの像を壊す日々さ」
フォルはテーブルの下を覗き込む。次はクローゼットを開けて中を確かめる。
「くぅ。あの日のままだ。父上が大事にしていたルオンノタル像の角を折ったことで、銃士になると決意してしまったあの日ままだ。妹は角を折ったばかりに銃士になると言いだしたんだね。くくくく……」
ホルトーレ財閥の十一番目の娘にて、販売営業を一括する職にあるハリーナが意味あり気な含み笑いをする。笑いには他意はない。これが彼女の地の性格だ。
「銃士になったのは、角を折ったからではないと思うぞ……あのさ。空気の穴ってどこにあるんだ?」
「はい! お客様。こちらに……」
ぱっと咲いた営業笑顔を、ハリーナは含み笑いにかえ、
「くくくく。職業の哀しい習性が出てしまったんだね。穴ねぇ。ストーブを設置する、排気口とか?」
壁の下を示した。
蓋がされた小さな横穴があった。フォルはしゃがみ蓋をとり横穴を見る。フォルは穴の入口に握った拳をあてがって、その大きさを実感してみる。横に拳一つ、縦に拳一つと半分ぐらいだ。
「これは小さすぎるな。他に穴は?」
「後は、隣室の蛇口の穴ぐらいだね。くくくく……」
「ないのか……子供が隠れられるような穴は……」
フォルは排気口を凝視し、日記の一文を思い出す。
――みんなとかくれんぼう……みんな隠れるのがうまいから大変です……
フォルは動けなくなった。
(この穴である訳がない。何かの間違いだ。しかし、もしそうだとしたら――)
「嘘だろう。子供が隠れる場所がないぞ……これは……どういうことだ……!」
「フォル君。なに、動揺してるんだい?」
アルベルが問うたが、愕然としたフォルは答えなかった。
排気口の穴がぼーぉぼーぉと風音を鳴らす。異様な存在感を持ったように、穴は闇を抱え、そこにある。




