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■22 情報屋ウェレークン

「人は服を着ることで羞恥という価値を得てしまった。哀しいことだと思わないかい?」

「えー。色んな服を着られる喜びを得たし、哀しいことはないと思います」

「お嬢さん。よい見解だ。しかし、人が心を開いたときは服を着ないもの。例えば……」

「いい加減、本業の方をお願いしますわ」


 冷ややかに、ルーネがファンテ達の会話に割って入った。


 ここは薄暗い迷宮の如し裏路地である。裏路地の闇を纏い情報屋の男が佇んでいた。


 最初に浮かんだのは銀色の顔。暗闇に目が慣れてくると、コートで身を包む、銀の仮面の男だということが把握できた。


 イセルではその環境上、飛空眼鏡(エルヴァイザー)やゴーグル、フェイスガードなどで目を保護することがおおい。だが銀仮面を被るという行為は異質である。その銀仮面が鈍く光る。


「失礼した。本業に戻ろう。私はこの傭兵達の雇い主を知っている。この傭兵達が既に焼け死んだことも掴んでいる」

「情報をもっているということね」


 ルーネは情報屋に傭兵の男達の写真を見せていた。キーツ一味が潜伏していた教会では銃士以外の遺体に、傭兵を職業とする遺体が発見されている。真鱗(レピド)によって身元は簡単に判明したが、その動向や誰に雇われたかなどが詳細が判明してない。その詳細を求め情報屋を頼ったのだ。


「その通りだ。さてどうする? 親交あると言えども、これは商売。取引となる。私と取引する場合は、金。あるいは――」

「この子でお願いします。この子はなにもしりませんから……」


 ルーネはきょとんとしたファンテを押しだした。


「そうだと思ったよ。何事も初めては大事だ!」


 情報屋の男が如何にも楽しげな声で笑い、高々と言い放つ。


「私の生き様をその目に刻んでくれ。私は露出狂だ! 真の露出狂を味わってくれ!」

「ルーネちゃん! あの人。今。とんでもないことを堂々と告白した気がするんだけど!」

「細かいこと気にしない! 空耳よ! 空耳にゃぁ!」


 ルーネはファンテの両肩をつかみ押しだす。


 ベルトを外す音がして、ズボンが落ちた。脱ぎ捨てられたズボンを踏み、情報屋の男がゆっくりと歩いてくる。


「空耳じゃなーい! うわ! ズボン脱いだよぉ! 見なくちゃいけないの? あれ、ずるい! 目つぶってる! くるよー! いやいやいやー!」

「私は見たからいいの。しっかりと見て!」


 男は銀仮面を外した。外気にふれた地肌の顔は穏やかな好青年だったので、ファンテは安堵し……いや、あそこに落ちているのは男性用の下着ではなかろうか。既に下半身は何も着てないと察知し、あわあわと焦った。


 男の肌の色素が抜けてゆく。まるで透明になって――


「透明?」


 と、ファンテの脳裏に閃きがあった。あのときの会話が電流のように巡る。


 ――その透明男は体を透明にするマラーク者だったのさ。

 ――肉体は透明になったのだが、透明になったら人間が生きていけない血管は……

 ――血管だけは透明にならず、そして最悪なことに、男は露出狂……


 情報屋であり露出狂――ウェレークンはファンテの前でコートを勢いよく開いた。


「いやあああああー!!」


 ファンテは声を張り上げ、両手で目を覆った。数秒の沈黙。今、目の前にはとんでもないものがあるんだ。とんでもないものが。元々ファンテはやってはいけないことをする性分だ。我慢できなくなった。ファンテは恐る恐る薄目を開け、指の間から見てしまう。


 あった。大脳、眼球、心臓、胃袋、肺、人の形に浮き出た血管内臓人間がさわやか悠然といた。


「はぁはぁ……やはり覗き見たね。さーあ、見てくれ! この美しい胃を、内臓を! 煙草も吸ってないから、肺も白雪のように美しい。おっと、脳も見てくれ。今思考している脳を見られるなんて、生きている間に絶対ない経験だ! 素晴らしいぞぉ!」


 そして、それは乙女の哀しい性か。視線がつつつーっと下にいってしまった。


「おお! 君は期待通りのことをしてくれる! 私の股間は今、エライことになっている。お嬢様方に失礼があってはと、今回は知識の実を食べとき、裸でいることが恥ずかしいと使われた無花果の葉が貼ってあるが……全てを見たいと思うのなら、この葉を!」


 股間に無花果の葉を貼り付けた血管人間ウェレークンは、ずいずいと前に出ていう。


「は・が・し・て!」


 ファンテは唇をわななかせ、叫んだ。


「イヤアアアアアアアアアアアア――――――――!」


 無花果の葉だけがそれはそれは世界で最も優美華麗にはらりと舞った。


 全てが真っ白になった、その数分後……


「ルーネちゃんも班長のように悪魔の角があるんだ。ツノツノだ。ツノツノツノツぉ!」


 段差に座って寄りかかり、目の焦点があってないファンテが壁を突きつつ愚痴っていた。


「お望みの情報を教えよう。その傭兵達を雇ったのはアッペテン・ハイナム。昔は格闘士として名をはせ、スラム街から拳一つで財をなした人物だ。アッペテンはあの豪華飛空艦アンシャンボロのオーナーであり、貧困から生い立ちからか、美食家でも知られ……」


「もう、いいわ」


 ルーネは情報屋ウェレークンの言葉を途中で遮った。


(……情報で裏がとれただけね)


 傭兵の遺体が発見されたとき、その雇い主はアッペテンではないかと推測は容易にできた。キーツに裏切られての報復やキンマ盤の線ではないかと。


「アッペテンをご存じか……」


 ウェレークンは透明化を解いてない血管顔で美しく首肯した。


「いい加減! 仮面をかぶってください!」


 二人から離れているところにいるファンテが怒りを含んだ声で叫んだ。ウェレークンは血管顔で恍惚とした表情を見せてから、銀仮面だけかぶりなおした。


「ファンテさん。いい喜び方をしてくれて、見せがいがあったよ」

「私、喜んでません! 服もきて!」

「はははっ。皆、そう言うんだ。この姿、まさに紳士!」


 ウェレークンはびしっと大胸筋を張りポーズを取った。すでに股間を隠す物がないが……。


 おっと、一陣の風が吹いて、下に落ちていた無花果の葉が舞いあがり、ウェレークンの熱い股間を隠す。無花果の葉の見事な仕事ぶりである。


「あの喜び方なら、私の妻も見てほしい。妻も裸を見てもらうことを無上の喜びにしていてね。いや私の家族全員、いやいや『裸の情報屋』全メンバーに紹介したい。どうかね?」


 ファンテはぎょぎょぎょと後ずさりし、断固としていった。


「遠慮しておきます! ルーネちゃん、早くいきましょう! ツノツノだ!」


 ルーネが片眉をあげなんと言えぬ表情をし、ファンテの後を追いかけようとしたとき、


「アッペテンの情報はまだある。いらないかね?」

「役に立つ情報なのかしら?」


 ルーネが振り返り、その情報の質を問う。


「これからアッペテンがすることだ。ただし、この情報は金では買えない。ファンテさんに愛する妻を紹介したい。そう、これと交換のみだ……」


 そういって銀仮面を取ると、ウェレークンは透き通った血管顔で恍然と笑った。

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