■19 子供達の日記と食の求道者
廃村にひっそりとあった大神を祀る教会の中庭には白煙と残火が燻り、壮絶なオブジェが置かれていた。灼熱の炎に焼かれ、救いを求めるように手を伸ばし、或いは猫背になり、炭化した真っ黒な人間達だった。
キーツ一味と思われる一団と、銃士達が交戦中とされた現場。その現場に駆けつけたフォルとアルベルがいた。
「こいつは酷い……」
アルベルが遺体を見て呻いた。惨劇から間もないのか、湯気をあげ、ふつふつと煮立っている遺体もあった。人肉の焦げる臭いに、アルベルは顔をしかめた。
「あの赤騎士の仕業だろう。連中は……既に逃げたあとか。余程、慌てたな」
フォルが腰を屈め確かめる。焼かれなかった草の茂みには長方形の物体二つが置かれた跡があり、それを引きずったような痕跡が残っていた。跡は一度、壁に衝突してから迂回し、少しいった所で、空に飛んだのか、消えていた。
「これ、型番だよな」
フォルが歪んだ壁を眺める。衝突の際、できたものだろう。熱をもち柔らかくなっていた壁には社名と型番数字が残っていた。
「ホルトーレ社の製品だね。調べれば、ここに何があったか解りそうだ。……どうした?」
またフォルが屈んだのに、アルベルは声をかけた。
「落ちていた。日記らしい」
フォルは落ちていた本をぺらぺらめくって、流し読みした。
――ソティとケンカしました。ソティがキンマになるのやめようって言ったんです。ソティは形が変わっていくことがオカシイともいってました。トクベツなんだよ。だから、また、そんなこというなんて、ダメだって教えてあげました。すると、お兄ちゃんこそ、おかしい! ソティはもう怒って口をきかなくなりました。
――ソティとケンカしたままです。みんなはソティは裏切り者だっていいました。
――みんなとかくれんぼう。僕が鬼です。みんな隠れるのがうまいから大変です。タンス、テーブル、天井、蛇口の所、椅子の下、棚、いろんな所に隠れてました。あとひとりだけが見つかりません。頑張ってさがすと、なんていうだけ? 空気のあな。そこに隠れてました。見つけたときは吃驚しました。顔だけがあったから。見つかると横になって奥へ逃げていってしまいました。見つかったのにズルイんだ。
「隠れんぼか……ここで遊んで、生活していたんだな……」
フォルは樹木の枝から吊されたブランコを眺め感慨深く呟いた。揺れるブランコは燃えていた。アルベルが現場を確保していた下級銃士から報告を受けていた。
「遺体の、身元の照合したそうだ。真鱗はこの程度の炎では燃えないからね。おかしなことに、銃士じゃない人。傭兵とか、お金で雇われ仕事する人がまざっているそうだ」
アルベルは報告の詳細を話す。
「どういうことだ?」
「僕に訊かれても解らないよ……」
フォル達は怪訝となって、黒の彫像と化した遺体を眺めた。
◇
そこはアッペテンの屋敷である。
「キーツめ……キンマの晩餐はワシのものじゃ……」
浮遊安楽椅子に揺られ、アッペテンは欲望に濁った瞳で虚空を睨み奮えた。
「旦那様……」
「おお! キンマ盤を奪えたか!」
アッペテンは溢れる脂肪を震えさせ歓喜したが、執事はいいにくそうに答えた。
「そ、それが……全滅したのことです」
「なに! 高い金を払ったのじゃぞ!」
主人の激怒に執事は萎縮する。さらに憤激が走る気配を感じ執事は身を構えたが、アッペテンは黙り込んだ。分厚い唇をぶるぶるさせ、激情を抑え、考え込んでいる。
「――百人。いいや今度は五百人を雇え。それも腕利きだけを」
「旦那様! いくらなんでもそれは……」
「つべこべ言わず手配しろ! 残りのキンマの盤を手に入れるのじゃ!」
アッペテンの怒鳴り声に、執事は身を躍らせ返事すると、部屋の外へ飛びだした。
「ワシは世界のあらゆるものを食べてきた……このワシに食したことがない食べ物があることなど許されぬ……!」
アッペテンの瞳が狂信に満ちる。その道を究めんとする歪んだ求道者の瞳だった。
「キンマの晩餐はワシが喰う。キンマ盤はワシが揃える! キンマの晩餐はワシが喰う……喰う! 喰う! 喰う! 喰う! 喰う! 喰うのじゃー!」




