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■18 女商人カルティーとピレネン城へ

 異変を受けてピレネン城へ急行し、たどり着いたルーネとファンテはそれを見上げた。


 針山のような異観を誇るピレネン城は“鋼鉄と魔術”の時代に建築された古城である。

 『空返し』と云うマーテル移動者や飛空使いの飛行接近を阻止する仕掛け、何処から攻められも逆光となる地の利から、数多の戦を耐えしのぎ、常勝の城とも呼ばれた。

 そして現在、ピレネン城はその特異な自然現象ゆえ観光の名所となっている。


「儲かってますかー?」

「赤字ですー! 赤字ですー! 昨日、やっと、ここに出店できたのに! うぴょー!」


 ファンテの声に両頬を両手で押し上げ一人の女が発狂した。鎖骨辺りまで伸びる髪を揺らし、胸元の開いた服を着て、黒タイツの透けた脚が色っぽい女商人カルティーである。ファンテ達とは色々と懇意にしている仲であった。カルティーが半泣きでファンテにすがる。


「光のタマゴが割れちゃったんだよぉ! 割れちゃったよーぉ! うぴょぴょ!」

「ほんとタマゴまで、割れちゃってる……」


 カルティーのお店に陳列されたポートレートと、目の前にある本物とを見比べ、ファンテが目を丸くする。ポートレートには上空で輝けんばかりの光の球を戴くピレネン城が写っていった。


 ピレネン城の上空は濃度を増した浮雲(エルヌベース)が滞る境で、“光の卵”と名付けられる直径数百エメ(m)程の光の球が形作られる。浮雲(エルヌベース)は光を蓄える性質があり、昼に溜められた光によってピレネン城一帯は夜でも明くなる。何故あの空間に浮雲(エルヌベース)が集まるかは学者達が様々な仮説を立てるだけで、いまだ解明されてない。


 ともかくその光の卵もろとも、ピレネン城は真っ二つだった。


「商運ないわね。こんなに仕入れちゃって……どうするの?」


 ルーネが店内を見渡す。ピレネン城と光卵のミニ模型。卵型のクッキーやアメ玉やら折角、仕入れたお土産品数々は観光の目玉というべき光の卵を失っては台なしである。


「うちはくじけないぞ! カルティー商店モットーはフライパンからフライパンまで! なんでも扱う!」

「カルティーちゃん。扱っている商品がフライパンだけになっているよ、落ちついて!」


 ファンテが指摘したが、動揺の激しい女商人カルティーは聞き耳を持たず続けた。


「へんな建物出てきたし。今度はアレで商売する! チャンスや! 発注! 発注ー!」

「待ちなさい。アレには……」


 ルーネが言い終わる前にカルティーは店の奥に飛び込んでいってしまった。


 ルーネは肩を竦め、視線をアレに戻す。ピレネン城は上から強力無比な力で左右にこじ開けられたように破壊され、割れた光の卵の間にあるのは、妖艶たる淡紅色を陽光に煌めかせ浮かぶ水晶円柱の建築物だった。シトゥラの風眼にあった遺跡と酷似していた。


「同じような遺跡。乗り込むわよ!」

「今度こそ、キンマの手かがりを掴まなくちゃね」


 ルーネが浮雲珠(エルラピス)を共振させ、ファンテを後から抱え込むと飛び立とうとした。


「どこの班のものだ! 11班か! お役所仕事しかしない奴等がなんでいやがる!」


 叱咤を受け、ルーネ達がそちらを見る。班長らしき中年銃士の男がいた。


「私達は12班です。現場の確保をするようにと連絡がありませんでしたか?」


 着用する緑の制服から事務処理を行う11班だと勘違いされては面倒くさいと、ルーネはファンテを降ろし答えた。


「変な事件や未解決事件ばかり扱うあの班か。ここは俺達の班が仕切っているんだ。しゃしゃり出てくるな! あの怪しい建物に、犯人が中にいるかも知れん。捕まえてやる!」


 男が恫喝する。騒ぐ見物人を仕切っているのは地元の銃士達だ。その班長格の銃士が典型的な縄張り意識を撒き散らしいると、すぐに察知できた。


「……もしかして、突入させちゃったの?」


 ファンテが目をぱちぱちさせた。


「なんて軽率なことを! 爆弾が仕掛けてある可能性がある。そう連絡したでしょ!」


 ルーネが厳しく言い放ったが、今一歩遅かった。爆音が響き、円柱の入口より火焔の滝が流れた。爆発にやじ馬がどよめき逃げ出す。


 キンマ水晶柱遺跡は火焔の滝を赤々と流しながら崩壊していった……


「よおし! 水晶の小物、千個発注したでー。卵の中からぱっかりさんや。ぱっかぱっか。くぱっ。これで売りだす……あれあれれーぇ。なんであの建物、燃えているの!」


 戻ってきた女商人カルティーが燃える遺跡を見て腰から崩れ落ちた。


「ほんと商運だけはないわね」


 ルーネは同じ台詞を再び口にして同情した。

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