■16 キンマの遺跡
シトゥラの空は極上の青い絵の具で塗られかのように、真っ青であった。
「信じられん。シトゥラ空域は嵐の聖地と呼ばれた空……それなのに雲一つない……」
「嵐がないなんて、何百年ぶりの異常気象……いえ、晴天だそうよ」
ルーネがフォルの肩際から覗き込み言う。
12班の四人は飛空艇ミルスパッセルで“シトゥラの風眼”の中心部を目指していた。
「見えてきたよ。二つに割れたシトゥラの風眼が……! 突入するよ!」
飛空艇を操縦するアルベルがぷるるんと巨胸と操縦桿を巧みに操り、飛空艇をシトゥラの風眼の割れた空の道へと進ませた。どす黒い雲の壁が両側に永遠と続く。
雲の渓谷といっていい空の道を一時間半ほど飛行し、やっとぽっかりと開いた空間に飛び出た。シトゥラの風眼の中心部にたどりついたらしい。
苔むした青色の石壁が立ちふさがった。巨大な何かがある。
「うわー!」
全体が一望できて、ファンテが感嘆した。シトゥラの風眼の中心部には禍々しい六枚の翼を生やした怪魚の巨大石像が浮いていた。あまりの巨大さに圧倒される。
「あの色。浮雲よ!」
ルーネが怪魚の石像周辺を流れる淡い緑色の筋雲を見ていう。
「雲神の天脚か!」
フォルが驚く。神話を伝える絵には、雲の羽衣ようなものをまとう神の姿がよく描かれる。それこそ神が空を自在に飛ぶ源とされ、神話研究者らが雲神の天脚と名付けていた。
浮雲はわだつみの時代、人が盗もうとした業であり、浮雲珠や浮雲液体を作る原材料となる、浮力を発する雲である。雲の状態なら空を永遠と駈けることができると伝えるが、人はその真の御業までは奪えず、珠や液体に加工してやっと飛空技術を得られたのだ。
怪魚の背には村一つがおさまりそうな円石舞台があった。その中央には、藍色の輝きを放つ妖しげな水晶円柱が見えた。
「あれ、如何にもだね」
アルベルが飛空艇を円石舞台に着陸させる。
「空気が変だな……」
降り立ったフォルが言う。空気の層に冷たい箇所と暖かい場所があるという異質さがあり、時々、キーンと耳鳴りのような音がこだますのだ。
四人は空気を押しのけるように進み、水晶円柱を目指した。
水晶円柱は神殿や墳墓を彷彿させる静謐さを湛え、塔のようで随分大きい。水晶円柱の中程にぽっかりと入口らしき場所があって、そこまで水晶板の長い階段が続いている。
「先客がいる。気をつけた方がいい」
フォルが別の場所に着陸している中型飛空艇の存在に気づいた。飛空艇に人影はない。
「この像ってなーに?」
ファンテが階段の巨大門に前にあった像を興味ありげに見上げる。足元まで伸びる右手の鉤爪、額に角があって、右目から顎まで傷のような亀裂を有す男神の像だった。
「奈落を守護する神シューランよ。混沌、封印、修繕を司る神ね。この神殿にはその手のモノが封印されているってことかしら? ……こら、触らない」
早速、像の土台にのっかかり、シューランの額角を触ろうと手を伸ばしたファンテをルーネが注意する。神域を思わせる場所でこの蛮行。怖いものなしのファンテである。
「シューランの角に触ると、怒って爆発するぞ」
フォルが冗談めかしに言う。
「またーぁ。そんな冗談いって……えい!」
ファンテが躊躇なく触ると、破砕音がし、角は物の見事に折れた。
「あはっ! とれちゃった……」
刹那、爆発音が響いた。水晶円柱の入口から火焔が噴出する。爆発が起きてしまった。一同の首がぎぎぎ……と錆びついたように回り、疑惑の視線がファンテに集まる。
「え! 私のせい! そんな! これ、絶対、違うよ! 偶然、偶然!」
ファンテは角を振り回し、弁解した。
「下がれ! なにか落ちてくる!」
フォルが警告の声を飛ばした。
落下してきたのは、燃える人間――
生きたまま丸焼きにされた、暴れる人間が落下してきた。ぐじゃと嫌な音が響き、肉が弾け、人肉が焼ける異臭が立ち込める。フォル達は息をのみ、呆然とした。
だが、それだけで惨事は終わらなかった。
ギャアアアアアアアアアアア!
壮絶な絶叫があがり、円柱の入口から燃える人間が飛びだしてくる。
それも、次々と、次々と。
それは灼熱の人間雨。
炎の尾をひき、火の粉を散らし、燃える人間が落ち続けた……
「これは……!」
フォル達は絶句するのみであった。
捜査メモ。
謎の爆発は→




